師匠の教えー其の二ー
ずっと後を追い掛けていると思っていた弟は、いつの間にか兄を追い抜き追い越し、もう手の届かない所まで突き進んでいる気がする。
いや、正直に言えばもうそれは随分前から分かっていた事。
俺達がダーク師匠に修行をつけてもらう6歳の頃だ。
お前は5歳、この時から俺達の差は歴然だった。
だが、長男だという事だけで、俺が剣山家の13代目に選ばれたんだよな。
剣の背中を優しく見守る零。
ラージシャークが剣の前に立ち塞がる。
「さっきよりは強そうなのが来たな!」
「………」
豪快に笑って見せたラージに対し、剣の視線は目の前の鮫の大男ではなく、遠くで見るだけのダークだった。
弟子の成長でもみたいのだろうか。
何を今更師匠面しているのか、腹が立つ。
太陽剣に手をかけ、居合い斬りでラージを一蹴する。
「おっと!いきなりかぁ。ふんっ‼」
効いていない。鱗が硬すぎるのだ。
すかさず裏拳を放つラージの攻撃を防がず脇腹にまともに喰らってしまう。
が、効いていない。
「………これはどうだ!」
そして水をジェット噴射のように吐き出す。
しかしそれも剣には効いていないようだ。
「何故だ?」
「……さっきやったろ?覚えとけ脳筋」
零が見せた[樹力流し]である。
裏拳で喰らったダメージを地面に逃がす事で、攻撃を防ぎ、水光線は樹力に変えて操り、そのまま真後ろに受け流したのだ。
キッとラージシャークを睨む剣。
「……いいねぇ‼その目。気に入った!」
剣の目は濃い緑色に染まっている。
言い終えた瞬間突いた!
太陽剣がラージシャークの腹を突くも、これもやはり鱗が硬く貫けないで防がれる。
両者飛び退き距離を置いた。
間合いを詰めながら剣がラージをもう一度斬る。
いや、斬るというよりも押し出すように突き放した。
「…ほぉ俺を吹き飛ばすか!良いねぇ!」
豪快に笑いながら、下へ水を吐き、弧をえがきながら、水柱に飛び乗るラージ。
そして右手を口の前に構え、それに向け勢いよく水を吐き胴長の丸い水を作る。
[水砲台‼]
構えた右拳の間を縫うように、左手で水爆拳の要領で水を弾き出した。
思わず左肩が外れそうになるので、肘が突き抜けた時点で右手でガッチリと掴み左手を守る。
小さな水柱が剣を襲い、それは爆発のエンジンで通常の何倍もの速さで突き抜け、当たった瞬間水が弾け爆発を起こす。
だが、紅蓮の炎を纏った太陽剣を振るうと水を一瞬にして蒸発してしまう。
太陽剣はその名の通り、太陽と同じ熱さまで炎を纏う事が出来る。
ジュワァァァ‼
水蒸気が視界を悪くするが剣は目を閉じ、生命エネルギーを感じる事で相手の位置を見てとれるのだ。
ラージの水柱はどんどん近付いてくる。
そのまま連発で水砲台を放出した!
[連爆水拳!]
右手に放つ水柱を途切れる事無く吐き続けそれを左手の水爆拳が押し出していく。
無数の水の爆弾が、剣を一気に包む。
しかし、その全てを剣は太陽剣で蒸発させ防ぐ。
次第にラージが上から迫ってきて目の前まで来た刹那、恐ろしい手刀が剣の喉仏に迫った。
蒸発した水蒸気、放たれた水が項を喫したのかは分からぬが、ラージシャークは突っ込んだ衝撃で手刀を地面にめり込ませた!!
勢いのついた水柱が大津波を起こし、その水の塊を左手の水爆拳が一気に弾き大爆発した!
ドゴォォォォオオオォォォン!!!!!!!!
強烈な水蒸気がラージを包む。
霧が晴れたあと、見たのはただの地面。
剣の姿はない。
殺気!
背後を恐る恐る振り返ると、逆光で真っ黒に見える体、しかし目だけが緑色に怪しく光っている。
「…くっ!!!!」
ラージは背中の鱗を逆立たせ水を纏わせた強力な棘爆弾を放つ!
が、しかしーーーー。
ジュワァァァ‼
太陽剣はその鱗を全て熱で溶かしていた。
シュウシュウと音を立てて煙を吹く太陽剣を、天高く構える。
緑色の目がラージを逃さない。
「うわぁぁぁぁ!」
[痲鱗!!!]
体を反転させ、身体中の鱗を一点に集中し鱗に向けて水を放出する。
そして最大最高の力を込めて水爆拳を繰り出した。
硬い鱗の棘と強力な水爆発を組み合わせた技が「痲鱗」である。
ドドドドドン‼
水蒸気の霧が二人を包み最後まで離れなかった。
全ての鱗が剥がれ、溶かされたので、裸も同然のラージシャークを、剣の一閃が命を終わらせた。
突如視界が横にずれたラージシャーク。
「何が起こった?……クハハハ!」
降りきった太陽剣の真上に綺麗に乗っかったラージシャークの生首。
首から青い血が吹き出すかと思われたが、対して出てこず、チロチロと体を撫でるように流れ落ちるだけだった。
生首を落とし、樹力を使い、太陽剣についた血を操り、拭き取った。
キンッ!
太陽剣を鞘におさめて、剣は新たな戦地へと、無言のまま向かっていった。
ダークはその時もずっと剣を見ているだけだった。
零は起き上がり、ダークのもとへと駈ける。
剣はどうやらダークとは戦う気は無いらしい。
何も言わずに、その場を立ち去り消えていった。
肩で息をしていた。
自分ではそれに気付いていないが、ダークを睨む眼差しは尊敬の念を一切見せないでいる、と自分では思っている。
ダークは少し微笑みをみせた。
「零……アイスマウンテンで出会った頃よりかは、随分腕を上げたようだが、あの程度の相手に時間をとられるとは情けないな。だが、嬉しくもある。よく、成長したものだな。」
「……!!……もうそんな言葉は信じない……で……す……よ」
「そうか。それでいい。でなければ越えられない。見事に私の教えを忘れた零よ、もう一度修行をつけてやる。いつでも来い。」
零対ダークの戦いが始まった!




