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Zero  作者: 山名シン
第3章
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剣龍合戦其の三

一年半が過ぎた。

随分背も伸びたろう。

逞しくなった零の背中がこれまでを語っていた。

全ての力の使い方を会得した零は、ゲリラやメディスと実戦練習として、本気で戦っていた。

樹力の受け流しの修行も完璧だ。

魔剣紅の力も第一段階から第四段階まで全て使えるが、使った後の疲労感が強くあまり多用はしない方が良いという結果に。

そして、とっておきとも言える雅王拳の習得はほとんど出来ていた。

天馬ブラークに認められて数ヵ月経つも、ライアンの[夢宣告]を受けずに、生でここまで雅王拳を習得するのは至難の技だ。

しかし、まだ完璧とは言えないがほぼ確実に前より強くなった零は今までは、ゲリラとメディスの相手だけだったが、ナデシコを除いてあと一人の男と戦わねばならなかった。

ずっと影から零を見ていた彼は、待っていたと言わんばかりに零が一人になったた時に現れた。


「やぁ。久し振りだね零君。フフフ。元気かい?またこうやって会えるなんて、神様は粋な事をするもんだね。」

「………神様は信じないんじゃなかったのか?」

「…信じるなんて曖昧な事はしないさ。本当に神様に会えるまでは僕は疑う。僕は実物主義なのさって一度言ったろう?」

零はその時の記憶を呼び覚ましていた。

確かにそんな事を言った気もする。

しかし、あの時は[自然の最大音響(サウンドオン)]で意識が朦朧としていたから、大和の話はほとんど覚えていない。

「まぁ、いいや。それより、もう一度戦ってみようか。」

「……待てよ。お前は俺を生かさないといけない、とか言わなかったか?」

「あぁ、そんな事言ったっけ?フフフ。それがどうかしたかい?」

「どういう意味だ。何故俺は…………」

大和の手が零の口を閉じ、それ以上喋らせてはくれなかった。

「君は選ばれたんだよ。フフフ。」

それだけ言うと距離をとるように離れて、大和は剣を抜いた。

抜くと同時に「キーン」という鈍い音がこだましてくる。

一瞬顔を曇らせたが、すぐに冷静になり構えた。

「紅、あれ、使ってきなよ!」

「……ちっ」


魔剣まけんくれない。彼らの母の呪い。今では常識として言われる彼女の呪いは、実は千年以上前から続くもの。云わば都市伝説のように、全タウンを駆け巡り、人々を恐怖で包んでいく。それに気付かず死ぬ者が一番幸せだ。しかしそれは、気付いていないだけで、既に呪いに掛かっていると言っていい。知る人ぞ知る、突然死の原因。疫病。感染病。ヒールタウンの医学をもってしても治せない数々の病。いや、病なんてそもそも、今知られているのはほんの僅かに過ぎない。未知の病がこの世にはまだある。そっちの方が多いぐらいだ。そして、その全ての根本の原因が、「トリムールゲーラの呪い」だと云われている。まぁ、云われ自体がかなり古いもので、非科学的なものだから信じがたいのも無理はないが、だが、世の中は、神を信じ、神の力を実際に扱う者もいるところから、まだまだその非科学的なものを信じて、呪われる事に恐れている人々の方が多数派だ。もはや、逃げられそうにないけど。)


零は、大和目掛け、紅を飛ばす。

数十本に現れた紅は、大和を襲うが、彼はそれを音剣山越で防ぐ。

零が雄叫びをあげながら、紅を飛ばし、大和に近付く。

「キーン」という鈍い音をだして、零の動きを遅らせるも、紅が止まる気配はない。

(第一段階……)

大和は心の中で小さく呟き、零の紅を観察していた。

一本、また一本と出てくる紅はそれぞれはまるで磁石のように、引き寄せ合い、やがて新たな一本の紅に変化する。

一本の紅の持続時間は約8秒。

一本一本では、いくら紅を何十本もだそうと、それぞれは8秒経てば消える。

二本出した紅を磁石のように引っ付け、新たな一本の紅になれば、その紅は16秒もの持続時間が得られる。

三本なら、24秒に。四本なら32秒に…………と、数を増すごとに紅の持続時間は増えていく。

やがてそれは巨大な、一本に変わる。

それが、無限に重なった紅が見せる、無限分の、たった一本の紅になる。

(それが、第一段階。この無限に現れるところから魔剣の所以がある。そして……第二段階)

零の腕に、紅が渦をかくように巻き付いていく。

やがて、腕全体が紅の紅色に染まると、その拳で大和を殴る。

「雅王拳…………」

大和の腕が真っ白に染まり、真っ紅に染まった零の拳を、顔の前で組んだ腕で防ぐ。

しかし、衝撃は想像以上で、受けた瞬間に、向こう10mは吹き飛ばされてしまう。

樹齢100年を越える樹にぶつかっていなければ、もっと吹き飛んだだろう。

(やはり、これ程の威力。これも呪いの一種か。……第三段階……)

零は、脚にも紅が渦をかくように巻き付き、腕と脚が紅く染まっていった。

一足飛びで、10mの距離を縮めた零はそのまま飛び上がり、渾身のかかと落としを喰らわせる。

ドォォォォォン!!

蹴りの轟音が、ビーストタウン全体に響きわたる。

大和は、雅王拳で白く染まった腕と腹に力を込めて、零のかかとを掴み離さなかった。

掴んでいた両腕を一本離し、一瞬で零のみぞおちを殴り付ける。

大和の右腕は、零のみぞおちを確実に捉えていた。

だが。

(……第四段階……)

零の身体の残りの部分全てに紅が巻き付き、零はまるで鬼のように、紅く染まり、目の色は樹力で濃い緑色だったので、その姿は鬼になりきれなかった、鬼だ。

零はほとんど無意識といっていいぐらいに、大和を蹴り上げて、上空へ飛ばした。

「フフフ。仕方無い。」

空高く飛び上がった大和は、上空で不適な笑みを浮かべながら、両手を胸の辺りに構えた。

手のひらを卵を持つように、丸め、左手は縦に、右手は横に向けて手のひらを重ねた。

「雅王拳…[鳥王ちょうおう]」

針のように尖った鳥肌が、下から鬼の形相で飛び掛かってくる相手の拳を受け止める。

拳を受け止めた瞬間にその衝撃を受け流すように、大和の背中から羽根が突き出て拳のダメージをゼロにした。

そのまま大和の羽根がさらに上空へ舞い上がり、霧になって消えた。

大和は零の拳を受け止めながら、徐々に地面へ落ちていき、やがて着陸した。

右手で掴んでいた、零の拳を力強く握りしめたまま、零のみぞおちに、今度は左手で思いきり殴り付けた。

その一打が当たる寸前に、零の身体に纏わりついていた紅が弾けるように消え、大和の攻撃を受け入れた。

「!?………………お前、左手で……」

ドサッと倒れた、零を見送り、大和は不適な笑みを浮かべながら立ち上がり、雅王拳を解き、元の健康的な肉体に戻る。

「フフフ。また、僕の勝ちだね。まぁいいさ。時間はたっぷりあるんだ。いつでも受けてたとう。」

大和が背を向けると、側から声が聞こえた。

「大人気ないわね。」

メディスの言葉に少し反応したが、大和はそのまま、森の奥深くへ入っていった。

落とした、音剣山越を拾い鞘に納めると、ゆっくりと歩き大和は考えていた。


(魔剣紅、あれだけの代物を創った彼ら。いや、マーラの方か。彼はどれほどの苦労をかけてきたのだろうか。自身の創造の能力に加え、紅の力まで。過去を操り、爆発を操り、無限の武器を操る。フフフ。想像出来ないな。)

不適な笑みを見せながら、大和は森へと消えていった。

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