雅王の団結
「さて、よく来た。雅王の戦士達よ。この日を待ち望んでいた訳ではない。ただ、運命には逆らえない。これは必然だった。そこでだ、ここに最後の雅王が誕生する。皆で、そいつを育てようではないか!」
雅王の戦士、ライアンが吠えた。
「フフフ。それはそれとして、君は今どこへ出ていたんだい?」
大和が不適な笑みを見せながら言った。
「世間を知らぬ者達に礼儀を教えてあげただけだ。」
「つまり、喧嘩売ってきたんだね。フフフ。」
「宣戦布告だ!」
ライアンが高らかにそう言うと、辺り一面が急に静まり返った。
[宣戦布告]
二年後、太陽が月に隠れる時。
日蝕の日に、彼らは争う事になる。
誰も予期していなかっただろう。
密かに行動を起こし、我が物顔で古郷を守ろうとしているゲーラの生き残り。
ただの旅から始まり、友の死による急展開で、師匠の悪事を晴らす為に今日まで戦ってきた者。
ずれが生じたとすれば、関係ないように思われた旅の末路が、一本の戦いを呼び寄せてしまった事。
クールタウンはどうなってしまっただろう?
ウォールタウンは絶対に守る!父と母が愛したこの土地を、父が持っていた全てを集めて、母が誇りにしていた全てを守って、たかが10歳の双子が1000年もの間自分達の正義の為に戦ってきた。
しかしその正義は、幻獣の復活と、太陽神の死によって徐々に歯車が壊れ、世界中を巻き込み、今、勇者が立ち上がる。
その勇者こそが、幻のタウンに集まるビーストの聖なる神獣と、数人の雅王の戦士。
[神の力が真に発揮される日蝕の日は最高の争い日和である]
最後の雅王の戦士、剣山零の修行がここに始まった。
大和が一歩前に出てライアンに向け挑発するように言った。
「フフフ。君はどうしようもないね。勝手に僕らを巻き込んでおいて、宣戦布告をしてくるとは。戦わなければならない相手が増えたじゃないか。」
そう言うと、大和は音剣山越を手にし斬りかかろうとしていた。
その瞬間、大和の頭に殺意の込められた何かが通る。
メディスとゲリラが拳を大和の耳辺りに突き付けていた。
そこに光の力が加われば完璧な形になっていたのだが、彼らはハイベストを信仰しておらず、その力は使えない。
「止めておけ。こんな場所で争いはしたくない。」
ゲリラが樹力を上げて目を真緑にして、殺気を込めて言い放つ。
メディスも樹力を上げ、同じように大和を睨み付ける。
「あなたの悪い癖よ?今は大人しくしてちょうだい。」
メディスはやや、緩やかに言ったが、その目は怒りの目をしていた。
(ハイベストの守りの拳……か。フフフ。)
「勘違いしないでくれるかい?僕は何も彼を殺すつもりはないさ。ただ、見極めたかっただけだよ。」
「強い弱いはこの際関係ないのよ。それ以上何もしないでって言ってるの。」
「フフフ。僕が何したって言うのさ?君は一体どうしたいのさ僕を……」
大和の手はまだ音剣に触れている。
ほんの少し鞘から解放しているので、「キーン」という鈍い音を立てながら、大和とメディスは睨み合っている。
いや、大和の方は、目を瞑っているので睨むというならメディスだけが睨んでいる。
「あたしがあんたを殺すっつってんだよ!」
メディスが拳に力を込めて、普段よりももっと低い、まるで悪魔のような声で言い放った。
その声と、普段のメディスの性格と違うのを後ろで聞いていた零は勿論、他にナデシコやゲリラでさえも驚いていた。
メディスとゲリラが拳を下げると、大和はフフフと笑いながら、その場を去り森の中へゆっくりと入っていった。
(君の過失のせいで僕の両目と左腕を失ったって言いたいんだろう?忘れるわけないさ。でも、まだそんな事を悔いているとは思わなかった。フフフ。カシラさんにそう教わったもんね。)
[他の過失は己の過失。誰のせいと言うのは無い。]
[そう、いくら落ちてもサケルドーサー。どれ程憎んでも神官の考えは絶対だ!]
ライアンが宣戦布告に行く前に、シーラと雷鬼はビーストタウンを抜けていた。
シーラと雷鬼は、龍鬼を探しに行くといい、この場を去ったのだ。
そして、もう一つ、シーラにはある考えがあった。
「海の紋章を手中に納める事」
陸と空は、敵方に渡ってしまったから、残りの一つはこちらで先に確保し守った方がいいだろうと、考えていた。
そして、海の紋章の位置は、シーラは知っていた。
代々、シャーク一族が受け継ぐシステムになっていたので、シャーク一族を探せばいいだけであった。
昔から言われているのは、シャーク一族は、クールタウンとヒールタウンを結ぶ「寒熱橋」の真下に住んでいると言われている。
しかし、龍鬼救出が先だと雷鬼は聞かないので、雷鬼とシーラはまず、再びウォールタウンへ足を運ぶ事を計画した。
何故その行動をライアンは許したのかは、本人に聞いてみなければ分からないが、しかし、彼らは元々雅王の戦士に選ばれた人間ではない。
ただ、零の側にいたというだけで、連れてきた謂わば、ついで、に過ぎない。
彦五十斧芹族の生き残りというのは、興味があり是が非でもこの場に置いておきたいものだったが、しかし、やはり今回の戦いには無関係なのだ。
関係が無いと言えば嘘になるかも知れないが、彼らは偶然そこに居合わせただけと言ってもいいだろう。
だが、桃の血を引いているというのは、全ての戦いの始まりだという事を、実は誰も知らないのだ。




