カシラの最期
この言葉を愛する妹と親友に捧げる。
【俺はお前たちを誇りに思う。生まれてきてくれてありがとう。来世でもよろしく頼むよ】
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神々の世界『天界』では、我々人間のみならずあらゆる生物に自然に、宇宙や太陽でさえ、創られた。しかしこれらは強大化してしまい、収拾がつかなくなってきてしまう。『冥界』では偉大なる王により強大化は防がれた。だが、支配する王のいない『下界』ではそう簡単にいくことはなかった。
現在の<新世紀>が始まる1億年前の<創世記>の時代に、天界の神々はある決断を下された。
下界に住む生物および人間の【選別】。
これにより創世記が終わり、代わりに新世紀が始まったのだ。
そして、この時選ばれた生物と人間が、「雅王の戦士」と「桃の一族」であったのだ。
雅王の戦士の子孫たちが今の生物であり、桃の一族の子孫たちが今の全タウンの人間である。
新世紀が始まってから、まだ2000年しか経っていない。
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桃の一族というのは、天界に住む慈悲深き神『プロメテウス』によって、天界の粘土を使って創られたのが彼らである。
その初めて創られた人間の事を神に仕える者、として『神官』と呼ばれた。
神官がどのような形で下界に送られ増えていったのかは、諸説あり定かになっていないが、彼らが徐々に姿を変えて桃の一族となり、人類の祖先となったのだ。
彼らが人間と呼ばれるようになった頃に、事件が起きる。
プロメテウスが、全知全能の神に無限地獄の刑に処せられたのだ。
理由は単純だ。ゼウスに無断で人間を創ったからである。だがこれに不満を言い立てる者が多かった。
「神官を創ったのは、プロメテウスだが、人間を増やしたのはゼウスである」と。
しかし、回りの神々の声など無視したゼウスはプロメテウスの刑を執行した。
桃の一族は、この一連の事件を一生涯忘れないように、彼らの親愛する神プロメテウスを残して、それ以外の神々を神とは呼ばなくなったのだ。
【許すまじ無慈悲なる神よ! 我らは貴様を許しはしない! 今に見ていろ、貴様を必ず親愛なる神に代わって我ら桃が必ず裁きを与えてやる!】
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「……! 色々……たが、俺はもう我慢の……だ。……! お前……か……ない事だ。後の事は……任せるぞ」
カシラは、かつての仲間に言った。雨の中でカシラの言葉の端々は聞こえなかったが、その仲間は頷くと、彼の背中が見えなくなるまで、見送った。
1週間後、カシラは男に殺された。剣山の当主についた幼い息子の目の前で。
剣山家創設以来の才能の持ち主と言われ、6代目櫻よりも強く天才だと謳われたカシラ。
カシラは隔世遺伝により桃の一族の記憶を持って生まれた子供だった。
つまりカシラは『神官』だったのだ。
カシラは現存する神話を読みあさり、神とはどういうものかを知り尽くした。知れば知るほど神々の残酷な部分が露になり、カシラは絶望した。
神は人間を見捨てていたのだ。
カシラの旅で見てきた神話や、仙人などの話から聞かされた事実だ。
10数年が経ち、零や剣が生まれたあと神と戦った。
自然神と戦い負けた。悔し涙を流しながら、自然神を睨み付けた。
「俺の怒りをお前が分かるのか? 自然の神よ。万物の神よ。お前が俺に何をした! お前は俺に何をした? 神なぞ名ばかりで、何もしやしない。お前は、お前たちは神という名に執着し人間が当たり前のように、崇めてくれる。それにお前は高みの見物をするだけで、何1つ願いを叶えてくれた事があるか? ただ、見ているだけのお前がどうして! 俺の怒りを理解できる!」
自然の森の奥、<自然の社>の中でカシラは眠っている。いや、刑罰を受けている。
体が十字に裂け、そのまま引きちぎられてしまう。
そして、再生し、また繰り返す。
1兆1111億1111万1000年間これの刑罰を受けた後、カシラは生き返る事が出来るという約束をして。
果たされない願いを心の内に秘めたまま、この世を去った。
プロメテウスと同じ無限地獄を味わいながら……。
11/15(日)修正しました!




