動き出す戦士達
暗い、暗い、闇の中。いつまでも続く闇にまた1人増えた。
皆、傷だらけである。その中で零は一際傷が深いだろう。何故なら、腹に拳大の風穴があいているのだから……。
*
「よぉ……起きたかよ」
額に丸い骨が浮かび上がった少年。髪はボサボサで衣服は剣山家では見たことがない黄色だ。その少年が零に話しかけている。
(ここはどこだ? 小屋のようだが。何故俺はこんな所にいるんだろう……?)
零は腹の傷が治っている事に気が付いた。服は破れていたが、腹には何一つ傷跡もなかった。
お腹をさすりながらしばらくぼうっとしていた。
少年の溜め息が聞こえた。
「ったく兄貴! いつまで寝てんだよ! 起きろよ」
どかどかと、兄貴と呼んだ男を蹴っていた。
蹴られた男は額に立派な角がはえていたのだ。それにも驚いたが、零は、年上の人をあんな風に蹴る事が出来るなんて、とも思っていた。
「そう言えば、お前は誰にやられてここまで来たんだ?」
「………え?」
零には今何を言われたのか、分からなかったが少年が、俺はドゥーコ・ブラークって奴にやられた、と言うと零はまた驚いた。
少年の名は、雷鬼といった。イナズマタウンの出身であるとも言っていた。零も名前と出身地を言うと互いに握手をし、ここがどこで、自分達はどうすればいいのかを話し合った。
「そうか。俺らを襲った奴はお前の師匠だったのか……。ツラいなぁそれは。アイツは一体何がしたいんだろうな? 俺らを集めて何を……」
雷鬼が言ったあと、彼の兄と、もう2人の男たちが起き上がった。その中の1人に、弟もいた。
「剣……」
零が声をかけるも、少し振り向いただけですぐにうつむいてしまった。
雷鬼とその兄が何やら話していると、この小屋の中を起きてからずっと見回していた男がいった。
「ここは、ゲーラの家だな。どうせ外には大和とカーラかダークの奴がいるだろうよ。お前たち、どうする? ここを出たいか?」
彼は自分の名をシーラといい、ゲーラ一族の血を引いているともいった。
シーラの言うに、今5人はカーラとマーラという双子の兄弟に捕まえられたという。そして、その兄弟は5人の継承者と1頭の龍を操りさらなる創造神になろうというのである。今、この場に神の継承者が3人、彼らの計画にはまだ2人足りない。
5人が其々の能力などを把握しているとき、小屋の戸が開いた。
「フフフ……全員目覚めたようだね」
不敵な笑みを浮かべながら、彼は入ってきた。
その後からは白装束を纏ったいぶし銀な男も入ってきた。
雷鬼は、ダークの姿を目にした瞬間立ち上がり指から雷を放つ。
ドゴンッと雷鳴が轟くのを合図に、龍鬼が腕を煮えたぎらせ『剛鬼』を放ち、小屋ごと粉砕していく。
煙が立ち込め辺りが靄で包まれる。その中に7つの黒い影。
「雷鬼! 俺が煙を散らすからお前はアミダ雷で一気に叩け!」
「言われなくても分かってるよ! お前ら遅れるなよ……俺は雷……瞬きしていては……間に合わない」
すると、雷鬼の足元から光の筋が出来、どこかしかへと延びていく。
「腕鬼」と呟き、龍鬼の腕が伸びていく。両手を鞭のようにしならせて、煙を撒き散らしていく。
だが、目の前にダークと大和の姿はいなかった。
「焦るな! 奴等は影にいる、自分達の影に気を付けろ」
龍鬼は、鬼の生命エネルギーを感知すると同時に皆の指揮をとる。
零と剣は目を瞑り、樹力を通して赤く光った瞼の裏から、全員の影を見ていた。
「剣! 雷鬼! お前らの下だ!」
零の言葉を聞き、雷鬼が雷を纏い自分の影を見た。ゆらゆらと出てくるダークに向けて全力全速の雷を放つ。
「雷帝!」
螺旋状に回転し、槍のように先端が尖った雷を足元に叩きつけた。
さらに、雷鬼の頭上から龍鬼が腕を伸ばし『剛鬼』を放ち、灼熱をあげる。
それをシーラが『水の牢獄』という技で一ヶ所に留め、そして、零が風を操り灼熱と化した雷帝の威力を底上げした。
4人がかりでダークを攻撃し、彼らは衝撃を避けるように、横一列に並んだ。
「やったか?」
雷鬼が囁くと同時に、煙の中から人影が揺らめいて見えた。
「なかなか、いい合わせ技だ……」
ダークの暗く低い声が、煙の中から聞こえた瞬間、4人に衝撃が走った。
「返すぞ?……元はお前達のだろう?」
無表情の顔から囁かれる暗い声を最後に、零達4人は意識を失っていった……。
*
剣の影から現れた大和は、鉄を擦り合わせたような鈍い音を放ちながら、上へ剣を振るった。さらに上へ飛び、剣はそれを避けると腰にかけた剣を抜く。
祖父のゲリラから授かった『太陽剣』を抜き大和と初対面を果たした。
「フフフ……君にはこの音は関係なさそうだ。やはり、君の方が素質は上なんだね」
「零と比べるだけ無駄だぜ?」
剣の瞳が緑色に染まる。そのまま、大和の瞑った目を睨みつける。
風が2人の間を通りすぎた瞬間、走った。
お互いの剣がぶつかり合い火花を散らしていく。彼らの剣筋が激しさを増すたびに風が吹き荒れる。
その間、鉄を擦り合わせたような音が鳴り響くが、それは全く意味を成さず鋭い剣技が重なりあう。
(相手は片手……それにあの剣は何だ? 何故あんなに錆び付いている)
大和はずっと目を瞑ったままであり、さらに左腕を下げたままかかってくるのだ。
まるで、左腕は初めからなかったように、生気を失っている腕を見て剣は一瞬だが、戸惑いを見せ始めている。
相変わらず不敵な笑みを消さない大和に苛立ち、剣は一瞬の隙をつき足払いをかけた。
しかし、読まれていたのか軽く避けられ、逆に足蹴りを鳩尾に喰らってしまう。
「駄目じゃないか? 気を抜いては。剣士が気を抜いた時は死に値する。良かったね、僕が足蹴りを出していて」
嘲笑うかのように剣に言い放った大和は、その錆び付いた剣を右手で構えながら徐々に剣に近付いていく。
そして、耳元に剣を置くと、こう囁いた。
「自然の最大音響」
剣は途端に苦しみだした。
今、彼は『音地獄』を喰らっているのだ。自分の血液が流れる音。心臓が鼓動を打つ音。筋肉が伸縮する音。骨が軋む音。風が吹く音。小石が転がる音。
本来は聞こえないはずの、それらの音が今、剣の耳元では言い表せない大音量で2重3重にも鳴り響いているのだ。
「やはり、君は強い。カシラさんの血をより濃く引いていたいたのはやはり、君の方だったね。フフフ……」
*
ダークの隣に立っていたのは、マーラという10歳の少年。
青い髪色に、青い瞳、そして黒い肌。
小さな少年だが、今回の戦いの主犯であるのだ。
「マーラ様。4人捕らえました。もう1人は今大和の方が追っています」
「あぁ。そんな事より、早くコイツらを運べ。そろそろ龍が目覚める。準備しておかなければ……それに、悪魔も来るぞ」
マーラは一言こう付け加えた。
「鬼だけは彼らと別の所に保管しておけよ」
*
「おや? もう来たのかい? まぁ丁度いいや。今、終わったばかりだしね」
「大和、遊びはいい。龍が目覚める。悪魔もな」
「へぇ……それは楽しみになってきたね。フフフ」
大和は剣をおさめた。そして、目の前にいる赤髪の小さな少年を見下ろした。
名前はカーラ。マーラの双子の兄で、赤い瞳に同じく黒い肌を持つ少年。
彼ら兄弟は、ゲーラ一族という、1000年も昔に滅んだ呪われた一族の生き残りであり、今までずっと『始まりの大陸』、ウォールタウンを支配し続けてきた。
たった2人で。
剣は立ち上がった。足元は覚束ないが、樹力を上げて瞳を緑色に染めて、まだまだ戦える事を闘気に変えて大和を睨み付けた。
「待てよ! まだ決着はついてねぇだろ」
「フフフ……これは驚いた。アレ喰らってまだ意識を保っていられるとは。零君とは大違いだ」
その時、剣の持っていた太陽剣が業火の炎を纏い始めたのだ。
ゴオッと炎が渦をかいて巻き付くのをみて、大和の笑みはいよいよ本格化して、大袈裟に笑いだした。
「フフフ。そっちも目覚めたね。素晴らしい、太陽神ヘリオスの剣。それを使いこなす君はもっと、素晴らしい!」
「1つ聞きたい。今までにお前が一番苦戦した相手は誰だ?」
剣は質問をした瞬間に、目の前がボヤけ始め、ふらつく足元を必死に支えながら、大和を見ていた。
「僕は老若男女関係なしに戦ってきたからね。勿論敗けた事だってある。僕は最強じゃあない。そうだな……強いて言えば……君らのお父さん……かな」
バタッ……。
剣は大和の言葉を最後まで聞くことなく倒れてしまった。それと同時に太陽剣の炎も消えてしまった。
「カーラ君……この子は殺さないで欲しい。僕が責任を取るから、君はマーラ君の元に行きな」
「何故だ?」
「フフフ……教えなくても君の能力なら分かるんじゃないのかい?」
だが、カーラは大和の考えだけは、【創造】の力では読み取る事が出来なかったのだ。
それが何故かは、カーラ自身分からない。
カーラの能力は未来を操る事。
そして双子の弟、マーラの能力は過去を操る事だ。
【想像】と【創造】
この2つの力は、この世界では必要不可欠の力。
創造神の継承者である彼らが死なないからこそ、人々が神から力を借りて己の力に変える事が出来るのだ。
*
舞台は、始まりのタウン、ウォールタウンへと移っていく。
10/29(木)修正しました!




