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Zero  作者: 山名シン
第2章
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世界の人々の動向ー其の二ー

闘星終大会クライム・エンド・ファイト』はヒール大陸タウン最大の大会であり、ここには全タウンの猛者たちが、遙々海を越えて来るのだ。そしてここで行われる最大の目的は『世界最強』を決める事。

星形の会場であるクライム会場におおよそ、1億人もの猛者が戦い、命を賭けて世界最強(フォルティッシムス)の称号を手に入れようと、集結するのだ。




爆炎一族の長、バーンの7人の息子たちの末弟ばっていであるフレアは、父親と事あるごとに喧嘩していた。


「へ! クソ親父! 来れるもんなら来てみろってんだ!」

両手両足に火を纏い、上空を飛ぶフレア。どんどん上昇していき、ついには火もつかぬような空気の薄い空まで飛んでいってしまう。

「馬鹿者が。そんなに飛んだら飛べなくなるだろうが」

バーンの言う通り、フレアは途中で力尽きて意識を失った。ふらふらと、上空から落ちてくる息子を、バーンは大事に支えて、さっさと家まで飛んで帰った。


バーンは『紅蓮の戦士』というここ、ヒールタウンでは最高位の者に与えられる由緒ある称号の1つを授かる戦士だ。しかし、その称号は厄介なもので、4年に1度開かれるクライム・エンド・ファイトに、必ず出場しなければならない。炎を象ったバッジを胸に付けて、常に勝ち続けなければならないのだ。


フレアが目を覚ますと、7人の兄弟たちの、彼をからかう耳障りな声が聞こえてきた。

「はぁ………」

1つ溜め息をつくと、スッと起き上がり洗面台へと向かい顔を洗う。

囲炉裏の側に戻り、お茶の入った碗を持ちぐいっと一気に飲み干した。

[おつ・かれ・さま]

と、声も出さずにフレアの前に座り、手話で話す青年は長男のバーストだ。


バーストは、生まれつき耳が悪く音が聞き取れなかった。

さらに背も低く、身体も弱いので父から譲り受けるはずだった紅蓮の戦士の称号は彼には重すぎた。だから変わりに、末弟であるフレアに紅蓮の戦士の称号が渡されたのだ。


[あり・が・とう]

フレアが応えるように手話で返した。

そこへ父バーンがやって来て、2人を見て一言言った。

「お前たち、クライム・エンド・ファイトに出場せんか?」


*


鬼が住み着いたのはいつ頃だろうか? 鬼伝龍鬼(きでんりゅうき)は星を見つめながら考えていた。

そして『鬼狩り』はいつから始まったのだろうか? 龍鬼は、隣でスヤスヤと眠る義兄弟の雷伝雷鬼(らいでんらいき)を見た。

そして、彼の額に丸く尖る角を擦った。


イナズマ大陸タウンは別名『鬼ヶ島』。創世記の時代、()()()の手によって鬼の顔をしていたと言われる大陸は、雷のジグザグの形へと姿を変えた。

元々鬼が住んでいたという伝説があり、そこで桃の一族と言われる人類の祖先との戦いに敗け、鬼は歴史から姿を消したのだ。




「君も鬼なんだね? 僕と同じだ。こっちへ来なよ? 楽しいよ?」

角のはえた少年が、誰かを手招きしているのが見える。そして、誰かは少年の方へ足を運んでいくが、どうしたってそこへ辿り着けない。

「ねぇ、待ってよ。君は一体誰なの? どうして僕の事を知っているの?」

誰かは必死にその少年に問いかけるが、答えてはくれなかった。

少年が突然、この世のものとは思えない険しい表情になった。

それを見た誰かは恐怖に震えおののいた。

体が言うことを聞いてくれなかったのだ。


森が瞬く間に業火の炎に包まれていく。急に場面が変わったと思いきや、3mはある巨体の鬼が呻き声をあげながら倒れていく。全身が赤に染まっているので、それが鬼の体なのか、血の色なのか、炎の色なのか分からなかった。

「熱つい……助けて……うわぁぁ!」

所々で呻き声が聞こえ、誰かは耳をふさいでしゃがみこんだ。

痛い、助けて、怖い、死ぬ、殺される、熱い、と鬼は悲痛な声をあげながら倒れていく。その様を延々と見ていた誰かは、泣きじゃくり、鼻を垂らして顔をぐちゃぐちゃにしながら、その場から逃げるように走った。


もはや、どちらが鬼なのか分からない。

犬と猿と雉を連れた、大勢の男たち。白い羽織を羽織った背には桃の刺繍が施されている。

目をギラギラと光らせて、逃げる鬼を捕らえては剣で頭を突き刺していく。鬼の頭を切り落とす度に跳ね返る血が、白い羽織を赤く染めていった。


まるで温泉でも探し当てた後のように、噴き出す鬼の血が、3匹の()()()の動物を連れた男たちを、真っ赤に染めていく。


そしてまた、急に場面が変わったと思うとあの少年が目の前にいた。

「君も鬼なんだね? 僕と同じだ。こっちへ来なよ? 楽しいよ?」

最後の一言だけが、怨念が渦巻いたように暗く低い声に聞こえた。




「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

肩で息をしながら、目覚めた龍鬼は、青ざめた顔で雷鬼を見た。

汗でびっちょりと濡れた栗色の髪を、上にあげた。滴り落ちる汗を拭いながら、龍鬼はテントの外に出た。


「ん? 兄貴、何か凄い声したけど大丈夫か?」

雷鬼が、義兄がテントの入り口を潜ろうとする所に声をかけた。

龍鬼は振り向くと、もう朝だ、そろそろ起きて仕度しろ、と言い外へ出ていった。


イナズマタウンの極東、『オリエンス』という場所で2人は野宿しており、ここはすぐ側に海があり、一番に太陽の光を感じる事が出来る。辺り一面に海が広がり、朝日がキラキラと輝いている。

(さっきの夢は……一体何だったのか? 不吉な予感がする。何か良からぬ事が起こるのではないだろうか?)

龍鬼は宝石のように、輝く海を見ながら深呼吸し、いつまでも海を眺めていた。

だが、龍鬼の予感は見事に的中する。


寝惚けた顔で龍鬼の隣に立ち、朝日を見つめる雷鬼はまだ16歳。だが、彼には既に心に決めた許嫁がおり、彼女が安心して暮らせる世の中を作ってみせると言い残し、龍鬼と共に旅だったのだった。

3つ上の龍鬼にも妻がおり、病弱の妻だが雷鬼と違い彼は、妻の為に秘薬を手に入れるべく旅に出たのだった。

幸いここはイナズマタウン。貿易の要だ。ウォールタウンからヒールタウンに続く貿易の中に、妻の病気に効く薬ぐらいあるだろうと思い、歩き回っている。


雷鬼とは幼なじみであり、義兄弟であり、大親友でもある。

先程見た悪夢の恐怖を振り払うように、龍鬼は雷鬼に話しかけた。


「プルクラは今、どうしているだろうな?」

「なっ! そ、そんな事! い、今関係ないだろ! ば、馬鹿野郎」

「ふふ。冗談だよ。悪かったな」


まだあどけなさを隠せない義弟の事が可愛くて仕方無い龍鬼は、ついからかいたくなる気性があった。

だが、顔を真っ赤に染めて蒸気する、義弟の顔を見ていると、龍鬼は少し安堵した。



ゴォッという物音がしたので、2人は振り替えるとそこには1頭の巨大な鳥と、1人の男が立っていた。

赤い神々しい光を放つ巨大な鳥が今の音の正体だろう。

2人がいたテントが燃えていた。

そして、男が2人に近付くと手を腹の前にやりながら深々と頭を下げた。

「私はドゥーコ・ブラーク。……君たちは()()()を引いているんだろう? 素晴らしい血だ。是非、私に協力してくれないかい?」

白装束を纏い、黒い長髪の男が2人に問いかけた。

龍鬼は、ドゥーコ・ブラークと名乗った男の顔を見た途端、あの悪夢に出てきた、桃の羽織を羽織った男の顔に似ていると思い、恐怖で体が動かなくなってしまった。

(まさか……夢の中に出た男が……存在するというのか……)

心臓が鼓動を打つのがはっきりと分かった。そして鬼の特殊能力でもある、生命エネルギーを感知した瞬間分かった。


【この男は危険だ!!】


途端、隣でバチバチと音が鳴ったのでそちらを振り向くと、雷鬼が雷を纏い戦闘体勢に出ていたのだ。

「『鬼狩り』か……上等じゃねえか!」


(やめろ! 雷鬼!)

声が出ない。バチンッと消えてしまった雷鬼を止める事も出来ず、龍鬼はただ見ているしか出来ない。


雷鬼はあっという間にドゥーコ・ブラークに敗れ去り、彼の能力であろう、暗い闇の中へと落ちていくのを龍鬼は見届けた。

「さて、君はどうするかね? 大人しくついてきてくれれば、手間が省けるのだが……」

乾いていた汗がまた、大量に噴き出してきた。

歯をガタガタいわせて、震えている。全身が突然金縛りにあったように、動いてくれない。

目の前が真っ白になっていく。


男の手が、龍鬼の肩に触れた瞬間、全身の力が抜けて膝まずいた。

絶望したような顔で、口を空けたままの龍鬼は、そのまま闇の中へ引きずり込まれていった……。


「『鬼狩り』完了だ……」

ドゥーコ・ブラークはそう小さく呟くと、闇に浮かぶ龍鬼に()()()を言うと、蓋を閉じるように、闇を遮断した。

※10/ 21に修正しました※

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