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おまけ:ある日の登校日(二条視点)前編

これは夏休みに入ってすぐ……海の別荘へ行く前のお話です。



ミーンミーンと煩い蝉の音が庭から響く中、俺は怠惰に制服へ袖を通すと、カバンを手に家へ出た。

今日はサクベ学園の登校日だ。

外はサンサンと輝く真夏の日差しが照り付ける中、ダラダラと頬に汗が流れ落ちていく。

雲一つない青空を見上げる中、通いなれた道を歩き続ける。

アスファルトから照り返す熱に焼かれながらに学園へ到着すると、何やら教室が騒がしい。


夏休みに入って浮かれてる奴が多いのか……?

そんな事を思いながらに中へ入ると、教室の一角に男たちが集まり、何やら雄たけびを上げている。

そんな男たちを横目に、俺は自分の席へと足を向ける。

すると集団の中に居た一人の男子生徒と目が合うと、そいつはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらに、軽く手をあげた。


「オスッ、二条!なぁなぁ、ちょっとこれ見てみろよ」


その声に俺はカバンを置き、呼ばれた男子生徒の元へ足を向ける。

そして男たちの輪の中へ入ってみると、中心に居た生徒が、何やら雑誌を持ち上げながらに、俺へと見せつけた。


「ちょっ、見てくれよ!この子、A組の一条さんに似てないか?」


雑誌に目を向けると、そこにはパーカーを羽織った水着姿の綺麗なグラビアモデルが、胸を強調させながらに、こちらへ笑いかけていた。

突然の事に俺は呆気にとられていると、雑誌のページがペラペラとめくられていく。

すると妖麗な笑みを浮かべながらに先ほどのグラビア女性が、上着をはだけさせ男を誘うような視線でベッドへと寝そべっている。

男を誘うようなその姿に一気に熱が高まると、俺は慌てて目を逸らせた。


「はぁあっ、似てねぇ!!!てかお前ら学校で何を見てんだ!」


「まぁまぁ、怒るなって二条。俺も一条さんの方が綺麗だと思うしな!でも、一条さんもこれぐらい胸がありそうだよな~。あのブレザーの上からでもわかる膨らみは……やべぇ、鼻血でそう」


一条の姿を想像しているのだろう男から、俺は素早く雑誌をひったくり丸めると、バシッとそいつの頭を叩く。


「いてぇっなぁ、何すんだよ!」


「うるせぇ!やめろ、想像すんじゃねぇ!!!」


「まぁまぁ、そんな怒るなって。てか二条の反応さすがだぜ!さっき華僑に見せても無言だったからなぁ~」


茶化すように笑う奴らを睨みつけると、俺はバンっと勢いよく雑誌を机へ叩きつけた。

そんな俺の様子に周りはケタケタと盛り上がる中、苛立ちがつのっていく。

こいつら……っっ。

男たちを睨みつけながらに、大きく息を吸い込んだ瞬間……教室に始業のチャイムが響き渡った。


俺は振り上げた拳をゆっくりと下ろすと、チャイムの音と共に、ガラリと教室の扉が開く。

担任の先生が入ってくると、教室内は次第に静かになっていった。

その様子に俺も慌てて席へ戻ると、先ほどの騒ぎは何だったのかと思うほどに……教室は静まり返ってた。


そうして授業が始まり、カリカリとペンの音が響く中、俺の脳裏には何度も先ほどのグラビアモデルの姿が頭にチラついてた。

くそっ……、あぁもう、一条の方が数段可愛いが……。

一条も制服を脱ぐと、あんな姿になるんだろうか……。


ふと邪な気持ちが頭をもたげると、グラビア女性の顔が一条の顔へと変わっていく。

可愛らしい笑みを浮かべながらに俺へ微笑みかける姿は、どんな女よりも美しい。

次第にイメージが鮮明になっていく中、先生の話が右から左へ流れていくと、ノートを滑らせていたペンが止まった。


あいつならきっと……あんな格好したら恥じらいながらに手で体を隠すだろうな……。

頭に浮かぶ一条は恥じらう素振りを見せると、体を隠すように俺に背を向けた。

彼女の真っ白な滑らかな肌に吸い寄せられるように近づいてみると、そのまま後ろから優しく抱きしめる。

腕から伝わる震えに胸が熱くなる中、彼女はそっと顔を上げると、真っ赤に潤んだ瞳で俺を見上げた。


「二条……」


掠れるような甘い声に彼女の肩を強く引き寄せると、俺の胸の中へ閉じ込める。

距離がさらに近づき、彼女はそっと俺の胸から顔を上げると、頬が赤く染まっていた。

恥じらうその表情に、彼女のぷっくりと真っ赤に浮かぶ唇……。

あぁ……どんな味がするんだろうか……?

俺は本能のままゆっくりとその唇へ顔を近づけていると……彼女の瞳が閉じられていった。

一条……俺は……。


トントンッ


突然、背中を軽く叩かれ、俺は大きく肩を跳ねさせると、ハッと我にかえった。

状況が読み込めない中、勢いそのままにガタンッと大きな音を立てると、咄嗟に立ち上がる。

するとシーンと静まり返った教室の中、驚き目を丸くさせた先生と視線が絡んだ。


「おい二条、突然どうしたんだ?顔が赤いみたいだが……大丈夫か?」


その言葉に皆の視線がこちらへ集中すると、俺は恥ずかしさのあまりに目を伏せた。


「いえ……何でもありません……すみませんでした」


そうボソボソと謝ると、静かだった教室にドっと笑いがおきる。

俺はそそくさと席へ着席すると、邪心を振り払うように、必死にノートへペンを走らせていった。

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