逃げ延びた先に
私は記憶を頼りに全力疾走する中、次第に息があがり、走るペースが遅くなっていく。
もう少し……、ここを抜ければ……。
酸欠状態になり、視界がぼやける中、それでも私は必死に足を動かした。
そうしてようやく長い長い竹林を抜けると、そこには小さな祠が目に映った。
あった!!あれだ……!
私は祠の前で立ち止まると、肩で息しながら、徐に顔をあげた。
薄暗い中、良く手入れされた小さな祠の後ろには、人ひとりが通れそうな空洞が目に映る。
この祠……どうしてゲームの中に出てきたんだっけなぁ……。
私は必死にゲームの記憶をたどる中、薄っすらと記憶が蘇ってくる。
確か……ここで何かイベントがあった気がする。
探索系の……何だっけ……。
攻略対象者が先に思い浮かぶと、記憶に靄がかかっていく。
ダメ、ダメ……えーと、探索で何かを見つけた気がする。
そっと祠に手を伸ばしてみるが、特に変わった様子はない。
中に何かあるかと思い覗き込んでみるが……何も見当たらなかった。
そんな事をしていると、後ろからガサガサと落ち葉を踏みしめる足音が耳に届く。
まずいな……。
焦る中、私は視界に入った洞窟へと足を向ける。
このまま逃げても、きっといつか捕まる。
だって痛みを感じないのであれば、きっと疲れも感じないだろうし……。
……私の体力は、もう限界……。
私は大きく息を吸い込み祠の後ろを覗くと、洞窟の前には立ち入り禁止と大きく書かれた看板と、洞窟の中へ入らないようにと、太い縄が掛けられていた。
うぅ……今回は許してほしい……神様ごめんね!
私は静かにパンパンと手を合わせると、慎重に縄を潜っていった。
洞窟の中は思ったよりも深いようで、私は壁に手をつき、スマホを片手に、慎重に足を進めていく。
時々聞こえるポタポタと反響する水音に、神経をとがらせた。
どこか……身をひそめる場所はないかな。
もしここに奏太君が入って来た時に……奇襲をかけて気絶させたい……。
ゆっくりゆっくり足場を踏みしめる中、まだ奏太が追いかけてくる様子はない。
暗闇の中、道なりに奥へ奥へと進んでいくと、遠くになぜか小さな明かりが見えた。
まさか……こんなところに……誰かいるの……?
私は恐る恐る明かりの方へと向かっていくと、そこは広い空間になっていた。
丸い空間の中に、蝋燭がいくつも並び弧を描いている。
人の気配はなく、辺りは静寂に包まれる中、洞窟の中を通り抜ける風の音が耳を掠める。
私はこの異様な光景を目の前に、呆然と立ち尽くした。
誰もいないのに、どうして蝋燭が……?
いやいや、誰かが居たのかな……それはそれで恐ろしい……。
誰も居ない空間に、蝋燭の揺らめきで私の影が大きく揺れる中、私は徐に蝋燭の輪の中へと進んでいく。
辺りを慎重に見渡していると、突然声が響き始めた。
おかえりなさい、おかえりなさい。
待っていたんだ、待っていたんだ。
早くしないと、早くしないと。
《また捕まっちゃうよ》
腕を千切られ、脚を食われて~。
君が動けなくなっちゃうよ~。
血がいっぱい溢れて、真っ赤な海ができちゃう~。
ねぇねぇ早くしないと、ねぇねぇ早くしないと。
《また始まっちゃうよ》
何、何なの……。
私は悲鳴をあげそうになる口を両手で必死に抑え込むと、ガクガクと体を震わせる。
音楽のように囁かれる言葉に、ギュッと目を瞑った。
しかし声は消える事無く、どんどんどんどん大きくなっていく。
早くしないと~、早くしないと~。
急いで~、急いで~
《もうすぐあいつがやってくる》
子供の様な甲高い笑い声が響く中、わけのわからない言葉とは別に、遠くから足音が耳に届く。
まさか……奏太君……嘘でしょう……。
私は慌てて振り返ると、まだ奏太君の姿は確認できない。
「もう……私はどうすればいいのよ……。こんなところで……」
そう項垂れる中、声は私の呟きに一瞬収まったかと思うと、蝋燭の炎が大きく揺らいだ。
どうすれば、どうすれば。
どうしよう、どうしよう。
助かりたいなら、助かりたいなら。
《これを食べて》
その言葉を合図に、蝋燭の炎が全て消えた。
真っ暗な暗闇の中、足元にコロコロと何かが転がった。
私は屈み、震える手を足元へ伸ばすと、小さなビー玉のような物が落ちている。
スマホの画面を手元に近づけると、小さな青い玉があった。
真っ青で、海のような不思議な玉。
スマホの液晶に反射して、中の模様がユラユラと揺れている。
何……飴……?
これを食べるの?
手で触ってみるも、スベスベとして、ガラス玉のようだ。
こんな設定……ゲームにあったかな……。
じっと真っ青なビー玉を見つめる中、必死にゲームの記憶をよびおこしていた。
今年最後の投稿となります。
改めまして、今年一年、ご愛読頂きまして、誠にありがとうございます。
拙い文章で、本当に申し訳ございません。
またコメント等たくさん頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。
来年も皆様に楽しんで頂けるよう精進していきますので、宜しくお願いいたします。




