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優しい彼の腕の中で

私は二人に続くようにリビングを出ると、またグラリと体が傾いた。

咄嗟に体を支えようと壁に手をつく前に、私の体は誰かの胸の中へ倒れ込んでいた。


「彩華、はぁ……全く熱があるじゃないか」


咎めるような声に私はゆっくりと顔をあげると、そこには心配そうな表情を浮かべた兄が佇んでいた。

兄は徐に私の額へ手を伸ばし、ひんやりとした彼の手に心地よさを感じる。

そのまま彼の胸の中に体を預けていると、頭が上手く回らない。


「熱……どうりで体がだるいと……えっ!?」


兄は私の言葉に深いため息をつくと、私を支えるように腰へと手を回す。

そっと私の脚を持ち上げたかと思うと、そのまま私を抱き上げた。

不安定な体勢に慌てて兄の首へとしがみつくと、私は兄を見上げるように視線を向ける。


「おっ、お兄様!!!私は大丈夫よ……!一人で歩けるわ」


恥ずかしさに必死で訴えかけると、兄はスッと目を細め私に視線を向ける。

怒った様子の兄に私は小さく肩を跳ねさせると、思わず視線を逸らせた。


「大人しくしてなさい」


兄は子供に言い聞かせるように諭す様に、私は素直に従いギュッと兄の首へとしがみつく。

そのまま首筋へと顔を埋めると、心地よい香りに包まれた。

前を歩いていた香澄と花蓮は慌てて私の元へやって来ると、心配そうな瞳を浮かべる。


「お姉様、大丈夫!?……私、すぐにお医者様を呼んでくるわ!!」


「彩華様、気が付かなくてごめんなさい……お部屋でゆっくりお休みになって……私もすぐにお部屋にお水をお持ち致しますわ」


慌てた様子でスマホを取り出す香澄と、駆け足でダイニングキッチンへ体を向ける花蓮の様子に、大げさだよ!と口を開こうとすると、兄は私を抱いたまま、スタスタと歩き始める。

突然の揺れに私はバランスを崩すと、ギュッと兄へ首へとしがみついた。

そんな私の様子に、兄は腕に力を込めると、小さく笑みを浮かべていた。


そのまま自室へ運ばれると、兄は慎重に私をベッドへと下す。

兄は心配に私を見つめ、どこからか体温計をもってきたかと思うと、私へと差し出した。

熱を測ってみると、体温計には38.5℃と表示される。

あちゃ……結構熱が高い。

昨日、髪が濡れたまま外に居たからかなぁ……。

ぼうっとそんな事を考える中、私はゆっくりとベッドへ沈んだのだった。


暫く休んでいると、香澄が白衣を着た女性と一緒に部屋へとやってきた。

私は慌てて体を起こし、女医の指示に従う中、兄は香澄によって部屋から追い出されていく。

聴診器が胸にあてられ、口を大きく開いた。


「そうね……咳もないようだし、喉もそんなに腫れているようすはないわね。今日一日ゆっくり休めば大丈夫だと思うわ。一応お薬を処方しておくわね」


「ありがとうございます。でも……あのすみません……こんな軽い症状で、わざわざお越しいただいて……」


私は申し訳ない気持ちで、深く頭を下げると、女医は人当たりの良い笑みを浮かべ、小さく笑う。


「いいのよ。それよりも、珍しく香澄から連絡が来て嬉しかったわ。あなた以前、日華病院に入院していた一条家のお嬢様よね?ふふっ、私は香澄の従妹なの。あの子、わがままで気が強い子でしょ。中々友達が出来なくて心配していたのよ。でもあなたみたいな子が傍に居てくれて嬉しいわ。これからも香澄の事を宜しくね」


女医はニッコリと優しい笑みを見せると、持ってきていたカバンから薬を取り出し、そっと机に置いていく。


「これを食後に三錠飲んでね。それと、もし熱が下がらない場合は、こっちの解熱剤を飲むのよ」


私はその言葉にわかりましたと静かに頷くと、彼女はお大事にと笑みを浮かべ、静かに部屋を出て行った。

香澄ちゃんの従妹……綺麗な人だわ。

あぁ、それよりも薬代に診察料……、後で二条家に聞いておかないと。

熱でぼうっとする中、ベッドへ横たわると、また静かに扉が開く。


「彩華様、大丈夫ですか?これお水ですわ」


「お姉様ごめんなさい……体調が悪い事に気が付かなくて……」


シュンとした様子を見せる香澄に、私は慌てて体を向けると、ニッコリと笑みを浮かべる。


「私の方こそごめんなさい、只の風邪みたいだから、一日寝れば大丈夫だとお医者様が言っていたわ。……それよりも、お買い物に行けなくてごめんね。今日は二人で行って来て」


そう話すと、二人は私の看病をすると声をそろえて訴える中、私何とか二人の説得を試みる。

中々納得しない二人をなんとか言いくるめると、二人は渋々と言った様子で部屋を出て行った。


静かになった部屋で一人天井を見上げていると、心細くなってくる。

バカンスに来て、熱を出すなんて……私何をやってるんだろう……。

それに今日は……立花さくらが兄を攻略するのだろうか。

一体どうなるんだろう。

複雑な思いが胸にこみ上げてくる中、また扉が開く音に目を向けると、そこにはスーツ姿の兄が佇んでいた。


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