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鬱積する思い(華僑視点)

別荘へと皆で戻る中、僕の視線は自然と彼女を追っていた。

楽しそうに花蓮と香澄と話す彼女は、いつもの彼女だ。

でもさっき二人っきりの中で見た彼女は、どこか妖艶で僕は胸の奥から湧き上がる気持ちを抑えるのに必死だった……。


皆屋敷へ到着すると、二条家のメイドが作ってくれた夕食を食べ、各々でくつろぎ始める。

今日の彼女の姿がまた脳裏にチラつく中、僕はそれを振り払うように、目を閉じた。

本でも読んで……心を落ち着かせよう……。

僕は静かにリビングの扉を開けると、廊下には楽しそうに話す二条君と一条さんの姿があった。


和気あいあいとした和やかな雰囲気で、何やら話し込む二人の姿に僕の胸が小さく疼く。

僕には入り込めそうにない二人の様子に、僕はサッと目を逸らせると、咄嗟にリビングの扉を閉めた。

中等部で二人と出会って……僕は彼女達と並び立つために色々と努力してきた。

彼女は頑張りすぎる僕にいつも気を配ってくれて、それで……いつしか目で追うようになっていたんだ。

最初は本当に、只一緒に……彼女たちと笑いたかっただけだった。

彼女が僕と同じ趣味を共有してくれて……それで僕の傍で笑いかけてくれて、そんな彼女の姿が眩しかった。


中等部の頃は、まだこの気持ちに気が付いていなかった。

でもここ数年で育った思いは、押さえつけるには大きすぎて……。

僕はそっと扉から離れると、チクチクと痛む胸をおさえたまま、ソファーへと腰かける。

するとリビングで談話を楽しんでいた二条と一条が、別荘の外へと出て行った。


一人になったリビングで、僕は天を仰ぐと先ほどの二人の姿が目の前を掠める。

……二人はとてもお似合いだと思う。

僕なんかと違って、二条君は文武両断、頼れる存在で……僕の自慢の親友だ。

そう……わかっているはずなのに、なぜか僕の心は素直に頷いてはくれない。

僕は自然と小さなため息を漏らす中、強く拳を握りしめる。


今日彼女が他の男に触れられている姿を見て、周りから見た僕は、嫉妬心丸出しだっただろうなぁ……。

こんなにも彼女への気持ちを抑え込んでいるのに、彼女が他の男に触れられている姿を見て、考えるより先に体が動いてしまった。

でも彼女は鈍いから、きっと気が付いていないだろう。


二条くんは一条さんを好きで……直接彼の口から聞いたことはないけれど……誰がどう見ても、二条君が彼女を好きなのは明々白々だ。

僕はずっと昔から二条君を応援すると決めていたのに……どうしてこの思いはこんなにも育ってしまったんだろうか……。

不毛な思いに頭を悩ませる中、また深いため息が自然と漏れる。


中等部の卒業式……。

女の子に囲まれる中、僕は無意識に第二ボタンを死守していた。

彼女に渡そうとか、そういった思いもなくて……その時は自分でもわからないまま、サッと女の子達からそのボタンを隠したんだ。

その行為をまさか二条君見られているとは思わなかった……。

だからあの時、二条君の問いかけられ、咄嗟に嘘をついた。

でも本当に渡すつもりはなくて……いや、こんなの只の言い訳なんだろう。

僕は二条君と彼女の幸せを願っているはずなのに、あの時もうすでに、僕は彼女を好きになってしまっていたんだ。


高等部に入学して、彼女はぐんと大人びた。

そんな彼女の姿に僕はまともに顔を見ることができなくなって、二人っきりで話せば、胸の鼓動が激しく波打つ。

ある日、マンションで二条と彼女が並び立つ姿を見て、僕はそこでようやく自覚したんだ。


それから高等部で周りの男の目に、僕は二条と一緒に彼女を男たちから牽制していた。

表面上は二条君の為だと言いながら、実際は自分の為だった。

でもそんな事を言えるはずもなくて……。

僕は深く目を閉じると、愛おしい彼女の笑顔が何度も蘇っていく。



今日彼女言っていた……もし親友と同じ人を好きになったら、どうするのかと……。

その突然の言葉に、僕は動揺を隠すのに必死だった。

あの本の主人公は最後まで、色々と自分に言い訳をし、好きな人に思いを伝える事ができない。

どんどん深くなる思いに、蓋をして……最後の最後まで隠し通すんだ。

そんな主人公の気持ちに僕も共感した。

だって大切な友だからこそ、応援したと思うのは当然の事。

仮にもし思いを伝えて、彼女たちと一緒に居られなくなる事を考えると、心が狂ってしまいそうで、恐ろしい。


だから僕には、彼女のような勇気はない。

言えば自分は楽になるだろうが、きっと二条君も一条さんも不幸にしてしまう。

だって二人はあんなにお似合いで、いずれ……高等部を卒業すれば、二人は婚約するんだ。

一度は僕の家にも彼女へ婚約を申し込む話も出たが、僕は母さんの失態を利用して、婚約申し込みをやめさせた。

だってもし僕の家から婚約の申し込みをすれば、二条君はきっと優しいから……彼に気を遣わせてしまうだろう。

そんな事は望んでいない。

僕は彼女が好きで……でも二条君には幸せになってほしくて……。

この矛盾した二つの思いが、僕の胸の中で渦となってかき乱す。


そんな矛盾した思いの中、ふとリビングの扉が開くと、そこには二条と彼女の姿あった。


「あれ、華僑君だ!部屋に戻ったのかと思ってた」


「なぁ華僑!今からさトランプやるんだ!一緒にやろうぜ!」


二人は僕に笑いかける中、僕の心はチクチクと鈍い痛みを感じながらも、自然と頬が緩んでいく。

僕は彼らを見上げると、眩しい二人の姿に、僕は薄っすらと目を細めた。

もし二条君と彼女が婚約して、僕は今まで通り笑えるのかな……?

ふとそんな事が頭をよぎると、振り払うように大きく首を横に振った。

違う……言わないと決めたのなら、心から祝福できるように……僕が変わろう。

そう決意すると、僕はニッコリ笑みを浮かべ、トランプを受け取った。


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