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海の家へ

皆で人込みの中足を進めていると、女性の熱い視線と男の熱い視線に気が付き、顔が強張っていく。

そちらへ顔を向けると、女の子達は私たちの集団を指さしキャッキャと騒がしく、男達は鼻の下を伸ばし、私の隣を呆然と眺めていた。

まぁ、こうなるよね……。

視線を外し、自分の周りを見渡すと、お兄様に二条、華僑君に日華先輩、奏太君……。

私の左右には、セクシーな水着姿で妖麗な笑みを浮かべる花蓮の姿に、フリフリの水着姿で可愛らしく微笑む香澄の姿がある。


これだけ綺麗どころが揃えば、注目が集まらないはずがない……。

私はそっと人目から隠れるように肩をすくめる中、香澄はこっちよ!と私の腕を勢いよく引っ張っていく。

振り払う事も出来ず、顔を引きつらせていると、香澄を咎めるように花蓮は私の腕を取り、また言い争いが始まった。

うぅぅ……二人とも大人しくしていてくれないかな……。

あんまり騒ぐと、ますます目立っちゃう。

立花さくらの事もあるし、あまり目立ちたくないんだけれど……。


いがみ合う二人を何とか落ち着かせようと、必死に宥めてみるが……私の声は届かないようだ。

そのまま引きずられるように人が溢れた砂浜の中引っ張られていくと、大繁盛している海の家が見えてきた。

海風にのってソースの香ばしい匂いが鼻を擽ると、自然にお腹がすいてくる。


そうして人が溢れる海の家に到着すると、せわしなく料理を運ぶおばあさんに、二条が声をかけた。


「千里ばぁさん久しぶりだな、いつものとこいいか?」


「おやおや、敦おぼっちゃまに、香澄お嬢様まで……!!お久しぶりですのぉ。元気そうで何よりです」


「おいおい……おぼっちゃまはやめろって!それよりも、奥借りるな」


二条は照れくさそうに店の奥へと進んでいくと、私たちも軽く挨拶すると、彼の後に続く。

関係者以外立ち入り禁止の扉を抜けると、そこはこじんまりとした畳部屋だった。

外の騒がしい声がかすかに届く中、皆がそれそれ席へとついていく。


「いらっしゃいませ!ご注文をお伺いに来ました!」


先ほど通ってきた扉が勢いよく開くと、透き通る女性の声に私の体が小さく跳ねた。

うそ……この声……まさか……。

恐る恐る扉へと目を向けると、ペンを片手にニコニコと愛らし笑みを浮かべた、立花さくらが佇んでいた。


「あれぇ~~~~!皆さんお久しぶりですね!」


彼女は嬉しそうに中へ入ってくると、二条の隣へと寄り添う。


「二条さんは千歳さんのお知り合いだったんですね~!私、千歳おば様に助けて頂いたんです!」


二条はその言葉に反応すると、彼女に視線を向け、千歳さんの話だろうか……私にはわからない話で盛り上がり始める。

私はそんな二人の様子に、そっと目を伏せた。


二条は皆の分まとめて注文すると、彼女は注文書を片手に部屋を後にする。

やっと彼女が居なくなった事に、一息つく中、ふとどこからか香る、焼きそばの香ばしい匂いに、お腹がグーと音を立てる。


皆それぞれが談笑を楽しむ中、立花がまた部屋にやってくると、私たちの席へ料理を配っていった。


「千歳おば様のやきそばは絶品なんですよ!皆さんも堪能してくださいね!」


無邪気な笑みを浮かべ話す彼女の姿に、なぜか胸の奥から不安がこみ上げてくる。

もう……なんで……苦しい……一体何なの……この感情は……。

私は小さく息を繰り返し顔を歪めていうと、彼女はこちらを見ること無くそっと部屋を後にした。


彼女の姿が消えると、先ほどの不安もどこかへと飛んでいく。

私は深く息を吐き出し、改めて手を合わせると、目の前に並べられた焼きそばを口へと運んだ。

なにこれ、美味しい!!!

香ばしいフルティーなソースが程よく麺に絡みつき、絶秒なバランス!

焼き加減もバッチリで、キャベツも焼きすぎず、お肉と麺の相性も最高だわ!!!

私は幸せな面持ちで焼きそばを頬張っていると、隣に居た華僑君が小さく笑っていた。


「一条さん、美味しいですね」


「あっ……、うん、とっても美味しいです……」


私は華僑君に笑われたことに顔を赤くしていると、また入口の扉が開いた。


「失礼します!私もご一緒していいですか~?いつも賄いをここで頂いているので!」


突然現れた彼女を笑顔で二条は迎い入れると、彼女は二条の傍へ腰かけ、また二人だけの世界に入って行った。

私はそんな様子に目を向ける中、彼女が私へニタリとした笑みを浮かべる。

そんな彼女の姿に、また不安と恐怖感がこみ上げてくると、私はすぐに彼女から視線を外し、急いで焼きそばを口へと運んぶ。

食べ終わると、私は勢いよく立ち上がり、水をもらってくるね……と華僑へ話すと逃げるように部屋を後にした。


彼女から離れると、激しくなった鼓動が少しずつ治まっていく。

この何とも言えない不安感は一体なんだろう……。

私はそのまま関係者以外立ち入り禁止の扉を抜けると、人がごった返していた。

そんな中、せわしなく働くおばあさんの様子に、私は声をかけることもできず、そのまま海の家を出ると、外の空気を大きく吸い込んだ。


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