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密室で(二条視点)

歩からようやく解放された俺は、覚束ない足取りで、自分の部屋へと戻ってきていた。

きっつ……、まぁ……さっきのは俺が悪い……。

弱って泣きそうな表情を浮かべる彼女につい魔がさして……。

いや、だってさ……涙を必死に我慢して、悩める彼女を放っておくことなんてできないだろう……。

先ほど彼女を抱きしめた柔らかい感触を思い出す様に、そっと手を見つめると、自然と顔に熱が高まっていく。

昼間の水着姿も綺麗だったなぁ……。

あぁもう、どうして俺は素直に可愛いと、言えないんだろうか。


深いため息をつきベッドへ寝転がると、昼間見た一条の水着姿を思い出し天井を見上げる。

恥じらう一条の姿が映し出されたかと思うと、次第に先ほど見た恐怖の歩さんの姿へと変わっていった。

ぐはぁ……もうダメだ……さっさと寝よう……。

俺は隠れるように布団の中に潜り込むと、静かに瞳を閉じた。


喉の渇きに目を覚ますと、おもむろにベッドから起き上がった。

ベッドわきに置いてある時計に視線を向けると、時間は真夜中の12時を過ぎている。

あぁ……変な時間に目が覚めちまったなぁ……。

首をポキポキと鳴らし大きく背筋を伸ばすと、俺は怠惰にベッドから下り、そのまま廊下へと出て行った。


寝ぼけながらダイニングキッチンへと足を向けると、部屋には明かりがついていた。

うん……こんな時間に誰だ……?

俺はそっと部屋へと近づいていくと、中から男女の話し声が耳に届く。

よく聞こえない為、ドアに耳を押し当てた。


「待って……日華先輩……んっっ」


「大丈夫、彩華ちゃん。痛いのは最初だけだから、ほら体の力を抜いて……いくよ」


「はい……んんっ、やぁっ、待って待って……ゆっくり……その……」


いかがわしい二人の声に、俺は慌てて耳を離すと、その場で放心状態になった。

あの声は……一条と……日華……?

一体何をしているんだ……?

いやいや……嘘だろう……まさかそんな……。

待て待て落ち着け……一条に限ってそんな事はないはずだ。

でも、あんな声……。


先ほどの彼女の甘い甘美な声が蘇ると、俺の顔に熱が集まっていく。

違うって!!!

俺は何を考えてんだ……!!

そんなことあるはずないだろう!!!!

自問自答しながら、心の中で大きな叫び声をあげる中、俺は意を決し今一度、扉に耳をそばだてる。


「いたぁ……あぁっぃ……痛ぃ……、それ以上は無理……んっっ」


「ははっ、彩華ちゃん可愛い。ほら、俺に身を預けてみて……だんだん気持ちよくなってきたんじゃない……?」


「はぁ、はぁ……ぃたぁ……んっ……いたぁ……っっ、はぁ、……もう無理です……っっ」


いや、これは……やっぱり……!

いやいや、そんなことあるはずないよな……?


「お願い……はぁ、はぁ、……日華先輩……もう、許して……いたぁ……っっ……」


一条……!!!!

俺は一条の声に、咄嗟に扉のノブを回すと、勢いよく扉を開け放った。


「日華!!一条に何して……ッッ!?」


視線の先には、一条がグッタリした様子で机に項垂れながら大きく目を見開き俺に視線を向けている。

その隣には、小さく肩を震わせ笑っている日華の姿があった。

あれ……?

いやいや、一体全体どうなってんだ……?

呆然と二人の姿を眺める中、項垂れていた一条と視線が絡んだ。


「二条……?大きな声を出してどうしたの?真夜中よ」


「えっ……あぁ~……いや……その……喉が渇いてだな……それで……」


「あぁ、ちょっと待ってて。水でも持ってくる」


彩華は徐に立ち上がり、腕を上げ、うーんと背筋を伸ばすと、日華に視線を向けた。


「日華先輩ありがとうございました。腕がうずうずするの、治まったみたいです」


「それはよかった。可愛い彩華ちゃんのためなら、お安い御用だよ」


日華がそう笑顔で笑いかけると、一条はもうっ!と顔を真っ赤にしながらキッチンの奥へと消えていった。

俺は一条の姿を目で追っている中、日華がニヤリと口角を上げ、こちらへと近づいてくる。


「二条、何を想像したんだ?……はぁ、俺はお前と違って、彩華ちゃんに無理強いしたりしない」


「あれは違いますってッッ……まぁ……その後は…………いやいや、それよりもここで一体、何をしていたんですか?」


「何って、彼女が腕が痛いって言うからさ、ストレッチの手伝いをしていただけだよ。ほら俺って、医者の息子だからね」


日華は笑いながら話すと、俺の背中を軽く小突く。


「まぁ、色ボケも大概にしておけよ」


そう言い捨てると、日華は軽く手を振り、俺の横をすり抜け部屋を出て行った。

俺は自分の卑猥な考えに、一人頭を抱えていると、パタパタと小さな足音が耳に届く。

ゆっくりと顔を上げると、そこにはコップを片手に、俺へ笑みを浮かべる一条の姿が目に映る。

彼女は俺の傍に来ると、そっとグラスを持ち上げた。


「はい、水。…………どうしたの、水はダメだった……?お茶の方がよかったかな」


中々受け取らない俺に、一条は不安げな表情を浮かべる。

そんな彼女の姿にハッと我に返ると、俺は慌ててグラスを受け取った。

よかった、と笑みを浮かべる彼女の様子に、俺は真っ赤になった顔を隠す様、腕で顔を隠すと、彼女から視線を逸らせ、ありがとうと小さく呟いた。

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