さぁ、別荘へ
あれからてんやわんや騒然となる中、最終的には皆で二条家の海の家へと行くことになった。
あっという間に時は流れ、別荘へ行く当日。
私は香澄と花蓮と車へ乗り込み、別荘へ向かっていた。
女同士和気あいあいとした雰囲気……ではなく、むすっとした二人の様子に、私は様子を覗うようにビクビクとしていた。
先ほどまで、何とかこの雰囲気を変えようと努力してみたが無理だと断念。
不穏な空気が漂う車内で、私はじっと存在を消すように口を閉ざしていた。
居心地の悪い雰囲気の中、車で走る事数時間。
車がゆっくりと停車すると、窓の外には真っ青な海が広がっていた。
わぁっ、綺麗!
感嘆とした声を持たす中、サンサンと照らす太陽の下で、海がキラキラとダイヤモンドのように光輝いている。
そんな海に見惚れていると、ゆっくりと車の扉が開いた。
車を降りると、二条、華僑君、日華先輩に、お兄様……その後ろから奏太の姿が見える。
あれ、奏太君も来ていたんだ。
私の不思議そうな顔に気が付いたのか、花蓮は私に顔を寄せると、奏太がごねてね……一条様に頼んで、同行させてもらったと話す。
花蓮さんいつの間にお兄様と親しくなったんだろう……。
お兄様に頼んで連れてきてもらうなんて、なかなか出来る事じゃないと思うんだけど……。
申し訳なさそうにする花蓮に、私は人数が多い方が楽しいわ!と笑みを浮かべると、彼女はほっと胸をなでおろしていた。
そうして私たちは二条に連れられるままに足を進めていると、海沿いに佇む大きなペンションのような家が見えてきた。
まさか……あれが?
さすが二条家、別荘も大きいわね……。
その大きなペンションに誘われると、二条の案内の元、各自割り振られた部屋の鍵を渡される。
わぁお、一人一部屋ですか……。
鍵の番号を頼りに、私は自分に用意された部屋へ入ると、ガラス張りの窓からオーシャンビューが一望できる。
わぁ……素晴らしい眺めね。
私は荷物を片手にその景色に見惚れていると、ノックの音が部屋の中に響いた。
どうぞと声をかけると、香澄がウキウキした様子で、勢いよく私の元へと駆け寄ってくる。
「お姉様!!早速海に行きましょう!!!お姉様の水着も持ってきたの、はいこれ!早く着替えて」
香澄ちゃんの勢いに押されるままに私は水着を受け取ると、早く早くとせかす様に脱衣所へと押し込まれていく。
「あのね……香澄ちゃん、言いにくいんだけれど、私も水着を持ってきてあるの」
「えぇ~サイズはピッタリのはずよ!私はお姉様にこれを着て欲しいの……ねぇ~ダメ……?」
サイズはピッタリですか……一体いつの間に測ったのだろうか……。
背中越しに聞こえるシュンとした彼女の声に、わっわかったわ!と慌てて返事をかえすと、香澄はやった!と嬉しそうに声をあげた。
脱衣所に入り、手にしていた黒い水着を広げてみる。
黒の紐ビキニ。
香澄ちゃんまたこんな……はぁ、着るっていっちゃたしなぁ……。
私は諦めるように水着を身に着けると、洗面台に置かれていた鏡には、セクシーな私が映し出されていた。
なんかどっかのグラビアにのっていそう。
はちきれんばかりの胸に、脚には紐がくいこんでいた。
彩華のスタイルは申し分ないが、うぅぅぅ……でもこれは恥ずかしい……。
お兄様の選んでくれたワンピースの水着の方が……うぅぅ……。
恥ずかしさのあまり、鏡から目を逸らせると、外から香澄のせかす声が聞こえてくる。
はぁ、このまま出て行くしかないかな……。
私はそっと扉を開けると、感極まった表情の香澄が、お姉様と私に抱きついてきた。
そんな姿が可愛くて、つい頬が緩む。
香澄は私も着替えてくる!と私から勢いよく離れると、勢いそのままに部屋を出て行った。
台風が過ぎ去ったような感覚に呆然とする中、私は急いでカバンからパーカーを取り出すと、水着の上に羽織る。
チャックを胸元辺りまで閉めると、私は今一度窓から見える海をじっと眺めていた。
そうして香澄がまた部屋にやって来ると、引っ張られるままに別荘の外へと連れられて行く。
外へ出ると、生暖かい潮風を肌にうけ、私は海を堪能するように、大きく息を吸い込んだ。
海だぁ……!海なんて、前世以来だなぁ~。
徐に顔を上げると、日が西へと少し傾いていた。
プライベートビーチの為、海に人の姿はない。
砂浜の上をサンダルで歩いて行くと、水着に着替えたみんなの姿があった。
「彩華、用意していた水着じゃないのかい?」
お兄様は私の姿にすぐに駆け寄ってくると、目を見開き驚いた様子を見せる。
兄はラフなパーカー姿に、ブラウンの髪が太陽の光で鮮やかに輝いていた。
「あっ……その……えーと、香澄ちゃんが用意してくれたみたいで……ごめんなさい」
その言葉に兄は、私の腕にからんでいた香澄を睨みつけると、香澄は小さく舌を出して兄を威嚇した。
バチバチと音が聞こえるんじゃないかと思えるほど、鋭く睨み合う二人に困り果てていると、奏太が私の傍へと走り寄ってくる。
「彩華さん、とっても似合っています!!」
奏太は私の前に立つと、綺麗な体からのぞかせる男らしい体と鎖骨が視線に入り、私はサッと目線を上げた。
ニコニコと人懐っこい笑顔で話しかける奏太に、笑みを返していると、後ろからコラッと花蓮が奏太を私から引きはがしていった。
そんな二人様子を微笑ましい面持ちで眺めている中、彼らの後ろから二条と華僑君の姿が見え、私は大きく手を振った。
彼らは少し顔を赤くしながら私の傍へやって来ると、二人の水着姿に視線を向ける。
二条は腹筋がわれ、腕は程よく筋肉がつき、しなやかに伸びていた。
華僑君も華奢だと思っていたが、脱ぐと肩幅が思っていた以上に広く、目のやり場に困る。
イケメン半端ない……。
二人の姿は某雑誌に掲載されるだろうと思えるほど、整っていた。
きっとここがプライベートビーチじゃなければ、女の子達がハイエナのように集まって来ていただろう。
そんなどうでもいいことを考えていると、後ろから爽やかな微笑みを浮かべながら走ってくる日華先輩の姿が見える。
彼の水着姿は、テレビで見るアイドルよりも輝いていた。
眩しい……!!!
そうして皆と合流すると、勢いよく海に飛び込む二条と奏太を横目に、私は砂浜の上を歩いていく。
後ろから香澄と花蓮が走り寄ってくると、私は二人に引っ張られるように海の中へと連れられていった。
熱い日差しの中、水の中に入り、楽しそうに笑う二人の様子に、私は自然と笑みを浮かべたのだった。
しばらく海で遊んでいると、また始まった花連と香澄の争う姿を横目に、私は一人砂浜へとあがった。
濡れた髪を一つにまとめ、砂浜に置いていたパーカーを羽織ると、パラソルの方へと足を向ける。
すると後ろから一条!との声に徐に振り返ると、二条が私へ向かって走ってきていた。
二条に軽く手をあげ立ち止まると、彼は照れるような素振りを見せ、慌てた様子で私から視線を逸らせる。
次第に二条の姿が大きくなる中、彼は何かに躓いた様子を見せたかと思うと、大きくバランスを崩す。
そんな二条を支える為、私は咄嗟に手を伸ばすが……男の人の体重を支えられるはずもなく、そのまま二人で砂浜の上に倒れ込んだ。
「きゃぁっ!!」
「わぁっ!?」
いたたた……。
砂浜に仰向けに倒れ込み、ふと目を開けると、私の目の前に二条の顔があった。
整った綺麗な顔のドアップに見惚れていると、二条と視線が交わった。
二条は私に体重を掛けないよう、砂浜に両手をつくと、床ドンのような体制になっている。
この体制は……まるで私が押し倒されたような……、いやいや何考えているの自分!!
そんな事が頭をよぎると、次第に頬に熱が集まり、私は思わず二条から目を逸らせる。
私の様子に二条は、顔を真っ赤し悪いと小さく呟く中、彼の吐息を感じ、私の体は自然と強張っていった。




