モテる彼女(二条視点)
今日は花堂家主催のパーティーが行われる。
エスコート役は必要なく、俺は一人、花堂家へと向かっていった。
会場へ到着すると、入口で花堂の長男と楽しそうに会話をする華僑の姿を見つけた。
華僑の家は花堂家とは深い仲だ。
俺も花堂家に挨拶をかわし、3人並びながら会場である庭園に向かうと、人が大分集まっていた。
もう、一条は来ているのだろうか?
俺はザッと庭園を見渡し、一条の姿を探していると、中央から外れた庭園の隅に彼女の姿を見つけた。
さっさと傍にいって牽制しておかないとな。
まぁ歩さんの威圧感があれば、男どもは一条に近寄ることも出来ないと思うが……。
俺はさっさと挨拶回りを済ませ、すぐに彼女の元へと足を進めていく。
彼女の笑みを浮かべる姿に俺は立ち止まると、彼女はどうやら誰かと話している様子だった。
木の陰から除く人影に視線を向けると、一条を虐めていた主犯格の女の姿があった。
どうして一条はあの女と楽しそうに話しているんだ?
確か歩さんが手を下したはずじゃ……?
俺は訝し気に北条を見据えていると、北条と彼女の間に、別の人影が現れた。
安っぽいフォーマルなスーツ姿で小柄な男。
俺は足を速めると、その男が突然彼女を抱きしめた。
彼女は突然の事についていけていない様子で、体を強張らせその場に固まっている。
慌てて駆け出した刹那、歩さんがその男から彼女を引きはがした。
その様子にほっと息を吐くと、こちらへと振り返った一条と視線が絡む。
長い黒髪をアップにし、淡い黄色の着物に白い蘭の花が描かれている。
一条のスタイルが隠れてしまうのはもったいないが、和装もいいなぁと見惚れていると、小柄な男がまた一条に絡む。
歩さんの纏う空気が次第に凍り付く中、小柄な男は気にした様子もなく、突然彼女へ告白した。
あまりの衝撃に唖然としていると、隣で華僑が頭を押さえている。
歩さんにもひるまないなんて、何なんだこいつ、いったい誰だ?
彼女がたどたどしく断りを口にするも、男はグイグイと彼女に攻め入った。
「お前、いい加減にしろよ」
困った様子の彼女を見かね、俺は男にドスを聞かせると、男は一瞬怯んだ。
「あんた、誰だよ」
「はあぁ、何だその口の聞き方は、俺は二条家の者だ。お前こそどこの家なんだ?」
「俺は北条家、北条 奏太だ。てか二条家って……、確か一条家に婚約を断られたんじゃないのか?」
痛い所を突かれた俺は頬を引き攣らせていると、奏太は口角を上げた。
「振られたのに、未練タラタラだな。彩華さんは俺の婚約者になるんだ、二条家は黙っていてよ」
「ちげぇ!!俺は振られてなんて……ッッその前にお前も振られてただろう!」
俺の言葉に奏太は目を逸らすと、フンッとふてぶてしい態度を見せた。
売り言葉に買い言葉で言い合いをしていると、いつの間に一条がいなくなっている。
慌てて会場を見見渡すと、中央に青ざめた彼女の姿を見つけた。
奏太を置いて慌てて中央へ足を向けると、見知らぬ女の姿が目に入った。
一条とはまた違う、可愛らしいと印象を受ける女。
華奢な体つきで、優しい微笑みを浮かべている。
その女に気を取られていると、一条はその場から逃げるようにどこかへと走り去ってしまった。
追いかけようとするが、先ほどの女が俺に近づいてきていた。
「ごきげんよう。あの、二条様ですよね?私、さくらって言います」
ニッコリと笑みを浮かべる女に苦笑いで応対すると、彼女はグイグイと俺の前に迫ってくる。
何なんだこいつは、見たことない奴だが……どこのお嬢さんだ?
苗字を言わないのはこちらを試しているのか……チッ、正体がわからない以上、邪険に扱う事も出来ない。
一条の様子が気になるが、俺は不承不承で女の話に愛想笑いを浮かべる。
馴れ馴れしく触れる女に嫌気がさす中、一条の真っ青な顔が何度もチラついた。
「でね、二条様!ってあの~聞いてます?」
さくらは上目遣いで見上げると、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
そんな様子に俺は慌てて取り繕うと、営業スマイルを見せる。
そんな俺の様子に、さくらはもう!と可愛く頬を膨らませたかと思うと、プイッとそっぽを向き、次は歩と華僑にからみ始めた。
解放されたことにほっと胸をなでおろす中、華僑は困った笑みを浮かべ彼女の話に相槌を打っている。
後はまかせたと視線を送ると、華僑は苦笑いを浮かべていた。
さくらを華僑に任せ、俺は先ほど彼女が消えた方へ歩いていくと、屋敷のロビーで椅子に腰かける鮮やかな白い蘭の花が描かれた着物が目に入る。
彼女は疲れた様子で俯く姿に駆け寄ろうとすると、突然彼女の後ろに人影が現れギュッと彼女を抱きしめた。
俺は慌てて彼女の元へ足を向けると、彼女の小さな悲鳴が耳に届く。
人込みを掻き分け、なんとか彼女の元へたどり着くと、男の腕から強引に奪い取った。
驚いた彼女は俺を見上げ、彼女が言寄られていることにポロリと本音がこぼれる。
「なんでこうも次から次へと……」
俺は彼女を守るように前に立つと、威嚇するように男を睨みつけた。
しかし異国の男は、意に介さなずニッコリと余裕の笑みをみせる。
そんな姿に苛立つ中、煩い女の声がロビーに響くと、男は彼女の前にひざまずいた。
何だと?訝し気に男を睨みつけていると、彼女の手の甲にキスを落とす。
その姿は過去に一度、お披露目の時に見たあの男と重なった。
こいつ……ッッ一条のお披露目会に来ていたアベルか。
ようやく気が付いた正体に苛立っていると、男は一条に婚約者になってくれと、優しい笑みを浮かべながら言い放った。
またかよ!
イライラがピークに達しアベルに掴みかかろうとした刹那、さくらが口を開いた。
「アベル様、ダメよ。一条様には、婚約者がいるんですから」
「コンヤクシャ?」
「えぇ、そう。そこにいる二条様です。こんな格好いい婚約者がいて羨ましいです~」
さくらの言葉に手を止めると、俺はおもむろに顔を向ける。
俺と彼女が婚約者?
良い響きだが……俺は一度断れらている。
本当だったらどんなに嬉しいか……。
でもどうしてこいつはそう思ったんだ?
俺が公に一条家に婚約を保留にされているのは、名家の間では周知の事実だ。
なのにこいつは……もしかして条華族と関係のない令嬢なのか?
訳の分からない言葉に呆然としていると、アベルは一条の手を握り詰め寄った。
彼女が婚約者ではないと口にすると、その言葉は俺の胸をグサグサと刺していく。
チクチクとした痛みに顔を歪めていると、アベルは彼女の頬へキスをおとした。
その光景に俺の怒りが爆発すると、胸倉をつかもうと跳びかかる。
しかしそんな俺を嘲笑うかのように軽々身を翻すと、入口へと去っていった。
何もできなかった俺をバカにするように笑う奏太と言い争っていると、彼女は困った様子で顔をあげた。
苛立った俺の姿に彼女はビクッと肩を跳ねさせると、彼女の瞳に俺の姿が映し出される。
「あの……喧嘩はほどほどにね……」
上目づかいで縋るような姿に、俺は理性を総動員して抱きしめたいとの気持ちを抑え込むと、ゆっくりと彼女の手を取る。
先ほど口づけされた手の甲を持ち上げると、上書きするように唇を押し付けた。
彼女は真っ赤に頬を染めると、オロオロと狼狽する。
「もう、一人になるな」
彼女を真っすぐに見つめながら言い聞かせると、彼女は顔を真っ赤にコクコクと何度も頷く。
その姿が可愛くて見つめていると、歩さんあが俺の手を思いっきり振り払った。
「お前も、調子にのるな」
叩かれた手がジンジンと痛む中、耳元でボソッと囁かれた言葉に、俺は引き攣った笑みを浮かべると、すみませんと素直に謝ったのだった。




