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ガーデンパーティー

花堂家のパーティーが開催されるまで数週間。

私はその間に、立花さくらについて調べていた。

エイン学園に通っている中等部での知り合いに手当たり次第連絡を取ってみる。

彼女は学園では品行方正で人当たりが良く、彼女の事を悪く言う人はいない。

ごくごく普通の高校生だ。

何も有力な情報を得られることなくあっという間に日が過ぎると、パーティー当日になってしまった。


花堂家の庭園で開かれるパーティーへ参加する為、私は和服へと着替える。

緊張した面持ちで招待状を握りしめると、強張る顔を手の平でマッサージし、鏡の前で笑顔の練習をする。

兄と並んで車へ乗り込み向かうこと小一時間。

高級住宅地が立ち並ぶエリアで、ひときわ大きな屋敷が目の前に現れた。


私はお兄様のエスコートの元、車から降りると、ギュッと手を強く握りしめる。

ここに……立花さくらがいるかもしれない。

彼女の優良な情報はなにもない、どうでてくるのかな……。

そう思うと不安が胸の奥からこみ上げ、思わずグラリと体が傾くと、私は兄の胸へ倒れ込んだ。

兄は優しく私の腰へ手を回し、大丈夫かい?と心配そうにこちらを見つめる。

私は見上げるように視線を向けると、頬を上げ、大丈夫とニッコリ微笑みを浮かべた。


花堂家の屋敷へ入ると、入口に佇んでいたメイドの案内で廊下を進む。

窓越しに見える庭園には、鹿威しの心地よい音が響く池に、白、赤、黄の睡蓮が浮かんでいた。

庭へと出ると、手入れされた松の木が立ち並び、百日紅や色とりどりの花が咲き乱れている。

そんな手入れされた庭には、いくつもの円卓が並べられ、立食できるようになっていた。

テーブルの傍には、グラスを片手に、なじみの顔がちらほら。

皆それぞれ談笑を楽しんでいた。

私は挨拶回りへと向かうと、そっと談笑に交じる。

笑みを浮かべ相槌をしていると、鮮やかな料理がテーブルに並んでいった。


私は挨拶をすませ、庭園を見渡すと、花蓮の姿を探す。

すると居心地悪そうに庭の隅に佇んでいた。

彼女の隣には、端正な顔立ちの少し幼さが残る真面目そうな青年の姿が見える。

よく見ると、目元が花蓮とよく似ていた。

きっと彼が花蓮の弟、奏太なのだろう。

私はニッコリと微笑み、彼女たちに手を振ると、隣に居た弟が私の姿に大きく目を見開き固まった。

不思議に思いながらも彼を横目に、私は花蓮へと近づいて行くとそっと手を差し伸べる。


「花蓮さん、中央へ行きましょう。一緒に並んで食事でもすれば、悪い噂なんてすぐにかき消せるわ」


花蓮は今にも泣きそうな表情を浮かべた刹那、隣に居た弟が私の腕を掴んだ。


「かっ奏太!?何をしているの!?」


焦った声を上げた花蓮が、慌てた様子弟の手を外そうとするが離れない。

奏太の様子に戸惑っていると、彼はじっと私を見つめ続けている。

どうしたのかな……もしかして私の顔に何かついているの?


「あなたが一条 彩華様なんですか?あの、昔、赤い橋でぬいぐるみを助けましたよね?」


赤い橋にぬいぐるみ……あぁッ!


「えぇ、猫ぬいぐるみ・よね?もしかして、女の子が泣いていたと思っていたけれど、あの子はあなただったの……?」


彼は焦った様子で首を横へ振ると、花蓮を押し退ける。


「ちっ、違います!俺、あのとき近くにて、見ていたんだ。あなたが飛び降りるところを……。それでずっと……もう一度会いたかった」


彼は真剣な眼差しを浮かべると、私の手をギュッと強く握りしめる。


「やっと、本当のあなたに会えた」


彼は子供らしい笑みを浮かべると、私の手を引き寄せ、包み込むようにギュッと抱きしめる。

突然の事に私は口を半分開けたまま、胸の中で固まっていた。

すると突然後ろから強い力で引っ張られたかと思うと、体が引っ張り出される。


「きゃっ……ッッ」


グラリと体が傾くと、誰かの手が私の腰を支えた。


「君たちは……まだ自分の立場が分かっていないようだね?」


「おっ、お兄様!!」


兄の底冷えするような低い声に、私は慌てて体を起こすと、お兄様を抑えようと縋りつく。

青ざめた顔で震えている花蓮が目に映ると、私は大丈夫だからと安心させるように微笑みかけた。


「お兄様、落ち着いて。あなたもダメだよ、突然女性に抱きつくのは失礼だわ」


私は諭すように奏太へ視線を向けると、彼は子犬のような瞳でじっと私を見つめている。


「すみません、嬉しくて……。あの俺は北条 奏太といいます。あの……彩華様の事が好きです。初めてあなたをあの橋で見てからずっと頭から離れなくて……。今日あなたと出会って確信しました。これは運命だって。だから俺と付き合って下さい!」


彼は情熱的な瞳を浮かべながら、私の手を取ると、ギュッと握りしめる。

へぇ……?どうなっているの?

彼は立花さくらを好きだったはずじゃ……えぇ……?

状況についていけない私は、突然の告白に唖然とする。

横目には兄が目を細めながら、彼を睨みつけている姿が映った。

次第に兄の周りにブリザードが吹き荒れると、私は小さく震えあがる。

まずい……怒っているわ……どっ、どうにかしないとッッ。


「あっ、えーと、ごめんなさい。私は高等部卒業するまで、恋人や婚約者、そういったものを作るつもりはないの。それに奏太君のことを全然知らないし……。気持ちには答えられないわ」


「なら、俺を知ってください!卒業するまで3年ですよね、それなら待ちます。彩華様が俺を見てくれるなら、ずっと思い続ける自信があります!」


彼の勢いに頬がヒクヒクと痙攣する。

そう返ってくるか……あぁどうしよう……。

何も思いつかず、ジリジリ後ずさっていると、後ろから大きな影が伸びた。

そっと後ろを振り返ると、虫の居所が悪い不機嫌な二条と、強張った笑顔を浮かべる華僑の姿があった。

えぇ……何この状況?

只ならぬ彼らの様子に私は小さく身震いしていると、二条は強引に私と奏太の間へ入り込む。

一触即発する空気の中、居たたまれなくなった私は、花蓮の元へサッと近づくと、腕をとりその場から避難しようと立ち去った。

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