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首謀者は

一人屋敷へ戻ると、女中は不満をあらわにして玄関先で私を待っていた。

私はニッコリと微笑みを浮かべると、女中は渋々といった様子で、静かに彼女が待っている応接室へと連れて行く。

女中は終始何か言いたげな表情でチラチラ視線を向けるが、私は笑顔を崩さず口を閉ざした。

そんな私の姿に女中は小さく息を吐きだすと、部屋の前で立ち止まり静かに襖を開ける。


その先へ目を向けると、そこには土下座をした花蓮の姿があった。

額を畳にくっつけピクリとも動かない。

土下座……これはちょっと……。

私は顔を引き攣らせながら座布団へ腰を下ろすと、すぐに顔を上げてほしいと願い出る。

彼女は緊張した面持ちで顔を上げると、焦燥しきった顔をこちらへ向けた。


「この度は本当に申し訳ございませんでした」


「いいのよ、それに堅苦しい話し方はやめにしない?今は誰もいないわ」


閉まった襖へ目を向けると、私は笑みを作る。

彼女は目を伏せながら気まずげにボソボソ呟くと、困った様子で押し黙った。

そんな彼女の様子にリラックスさせるように彼女の肩へ手を置くと、口を開く。


「大丈夫、普通に話して、彩香と呼んで。私も花蓮さんと呼ぶわ」


彼女はわかりましたと頷くと、真っ赤に腫れあがった瞼をこちらへ向けた。


「彩華様、ごめんなさい。私……何も知らなくて……。あんなことをしたかったわけじゃないの。ある人に脅されて、それで……ッッ。こんなこと信じてもらえるかわからないけれど、あなたをあの学園から追い出さないと私の弟が……奏太があの女に人生を壊されされちゃう。でもこんな事になってしまって、家が……全てが……もう無茶苦茶なの……」


彼女は唇を噛みしめると、ポロポロと大きな雫が頬をつたっていく。


「あの女?あなたが私をいじめていたのは、誰かに命令されていたの?」


彼女はコクリと頷くと、また深く頭を下げる。


「こんなの言い訳だ……と思うかもしれない。でも私は、立花 さくらに指示されただけなの。まさか、あなたが一条家のお嬢様なんて考えもしなかった。サクベ学園に来ているなんて思わなかった。北条家なんてちっぽけな家だと、あなたのような高貴な方に会う機会もなかったから……。ただあなたを追い出せば、弟が彼女から解放されると思ってやったわ。自分勝手で身勝手な行動だったと自覚している。こうなってしまったのも自業自得……だけど、だけど……ッッ」


立花さくら、その名に雷が落ちたかのような衝撃を受けると私は放心状態になった。


立花さくら……嘘でしょ。

その名は乙女ゲームのデフォルト名。

どうしてヒロインが……?

それよりも私がサクベ学園に居るとどうして知っているの?


一度も出会ったことはない。

ヒロインの顔は覚えている、パッケージに大きくのっていたもの。

なのに私という存在を知ってる、それは即ち彼女も前世の記憶を持っている……?

恐ろしい結論に達し、私は小さく体を震わせた。


「……その立花さんという方は、今はどうしているの?」


恐々と言葉にすると、体が小さく震えだす。


「立花は私たちの家が条華家から外されたと知るや否や、手のひらを返したように家に来なくなったわ」


静まり返った部屋の中で、彼女は目をウルウルさせながら、頭を垂れる。

ポタポタと水滴が机に落ちると、彼女は声を殺し唇を噛んだ。


「……ッッ、こんなこと言うのは間違っていると、自覚しているわ。うぅ……でも、でも……もう私だけの力じゃどうにもならない。一条家に見放された私たちは、取引先からも手を引かれ、分家からも切り離されてしまった。私はあなたに酷いことをしたから罰を受けても当然。だけど、父や母やそれに弟は……何も悪くないわ。会社もう倒産寸前まで追い込まれて、一家路頭に迷う未来しか見えない。お願い……許してくれとは言わないわ。どんな形でも償うから……。でもどうか……どうか家族だけは助けて……お願いします」


追いすがるような声で深く頭を下げると、私は彼女の手をそっと握りしめる。

違う、これは私の責任……。

私が学園を変えたことで、巻き込んでしまった被害者。

私がエイン学園に素直に進学していれば、こんな結末にはならなかった。


「花蓮さん顔を上げて。こちらこそごめんなさい、お兄様はやりすぎたの。私からお兄様に話をして、あなたの家を元通りにするわ。それと近々行われる花堂家が主催するパーティーへ、私と一緒に出席しましょう。そこで一条家との仲を見せつけられれば、会社を立て直すのも早いはずよ。だから安心して。今日はもうゆっくり休んだほうがいいわ。ただ……今度でいいのだけれど、もう少し詳しく立花さんのお話を、聞かせてもらってもいいかしら?」


私の言葉に、花蓮は大粒の涙をこぼすと、ありがとうございますと小さく頷いた。

沈黙が部屋を包み、彼女はまた深く土下座すると、畳に額を押し付ける。


「この御恩は一生忘れません。どんな形でも必ず罪は償いますわ」


彼女の絞り出すような声に私はそっと手を添えると震える体を抱きしめた。


彼女を家に返すと、私はすぐに兄の部屋へと向かう。

兄は私が来ることがわかっていたようで、深いため息を吐くと、わかったよと呟きながら、北条家にかけていた圧力を外すよう手配をしてくれた。

その後、すぐに私は断るはずだったパーティーへ参加すると返事を出すと、北条家にも招待状を送るよう、花堂家へと指示を出したのだった。

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