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手繰り寄せた先に(日華視点)

そうして彼女の嫌がらせの原因を探り始めた。

いつものように教室へ入ると、女の子たちが俺の傍に集まってくる。

俺は笑みを浮かべながら他愛のない会話に花を咲かる中、じっと様子を覗っていた。

そうしてずっと喋りっぱなしだった女の子会話が途切れたのを見計らって、俺はゆっくり口を開く。


「ねぇ~ところでさ、1年生の一条 彩華って子知っている?」


俺が一条の名前を出すや否や、先ほどまで和気あいあいだった彼女たちの雰囲気が豹変した。

コソコソと相談を始める女たちを眺めていると、俺の正面に立っていた化粧の濃い女が顔を上げる。


「日華君も彼女の事が気になるの?あの子、やめておいた方がいいわよ、あまり良い噂を聞かないし……」


「へぇ~どんな噂なの?」


俺は笑みを浮かべながら問いかけると、俺の隣で腕を絡ませていた女が、見上げるように視線を向けた。


「1年生の間で人気の二条君と華僑君をフタマタしているらしいわ」


「そうそう、それにB組の子の彼氏を寝取ったって噂もあるみたい」


「私も聞いた、確か……彼女持ちのF組の男の子と抱き合ってたとかなんとか。それが理由で彼女と別れちゃったらしいよ。怖くない?」


「本当にね、あれだけ色んな男に手を出していれば、恨みも相当買ってそうだよね~」


根も葉もない噂に大きく目を見張る。

女の子達からはどんどん彼女を中傷する言葉が吐き出された。

クスクスと失笑し楽しむ彼女たちに苛立ちを感じると、俺は笑みを消しスッと目を細めた。

俺の様子に彼女たちは何かを察し、慌てた様子で話を変えた。


どうしてこんなひどい噂が流れているんだ?

彼氏を奪う、男好き……そんなことあるはずないだろう。

彼女自身そういうタイプではないし、歩の目がある内は、男とそんな関係になるなんてありえない。


考えられるに、誰かが意図的に彼女を貶めようとしているのだろう。

だがどうして?

彼女は人から恨みを買うような子じゃない、自分に厳しく人優しいそんな彼女が……。

一体全体どうなってんだ、あぁくそっ、誰がこんな噂を。

ダメだ、ここで怒りを振りまいても意味がない。

落ち着け、落ち着け。

俺は頬を引き攣らせながら、何とか怒りを鎮めると、彼女たちにニッコリと微笑みかける。


「ところでさ、さっきの話なんだけど、一条さんの噂って、みんなどこで聞いたの?」


俺の言葉に女子生徒達は考える素振りを見せる。


「えーと、どこだったかな~結構みんな知っているんだよね」


「うんうん、私は隣のクラスの子から聞いた気がする」


「私は部活の後輩に聞いたかなぁ~」


彼女たちの話から、俺はすぐに噂の元を探ろうと動き出すが……噂は広がりすぎて答えにはいきつかなかった。


何も成果がないまま放課後になり、俺は1年A組のクラス近くへと足を運んだ。

1年の廊下には誰の姿もないそんな中、A組の教室から甲高い女の声が聞こえてくる。

外から差し込む夕日は幾分傾き、そろそろ下校の放送が鳴り響くだろう。

そっとA組の教室を覗き込むと、3人の女たちがゲスな笑いを浮かべ、彼女の机の周りを囲んでいた。


見つけた。

俺はニヤリと口角を上げ勢いよく扉を開くと、耳障りな笑い声が止んだ。

静まり帰った教室の中、笑みを浮かべ中へ入ると、彼女たちは血相を変え教室から逃げ出していく。

そんな彼女たちの世姿に、俺はすぐに廊下へ先回りすると行く手を阻んだ。


「何してたんだ?」


「えっ、あの……えーと、その……ッッ」


挙動不審の彼女たちの様子に笑みを消し、胸についている名札を確認すると、真ん中に立っていた女の腕を掴み、黒い油性マジックを取り上げる。


「なんでこんなことをしている?」


「ちょっ、離してよ!だって、あの子が悪いの。二条君と華僑君フタマタなんてしているから、思い知らせてやっているだけよ」


ヒステリックに叫ぶ女の声に俺は深いため息をつくと、掴んだ腕に力を込める。


「どこから聞いたんだ?その噂」


「いたっ、みんな知っている事よ!それに二条君と華僑君だけじゃなくて、他の男にも手をだしているのよ!彼氏を取られたって友達が泣いてた。だから罰を受けて当然なのよ」


女は勢いよく顔を上げると、自分を正当化するようにそう言い放つ。

そんな女の様子に我慢ならなくなると、俺は壁を思いっきり殴った。


ドンッ


「全て根も葉もない噂だ。あんたらの名前は覚えた。次見つけたら容赦しないからな」


脅すように彼女たちへ言い聞かせると、俺の手を振り払い急ぎ足で廊下を駆け抜けていく。

バタバタとの足音が遠ざかると、俺は教室へと足を向けた。

この間見た時同様、彼女の机には誹謗中傷する言葉が書きなぐられている。

俺は落書きを一瞥すると、すぐにそれを消し去った。



あれから数日、放課後時間を空け、毎日彼女の教室へ足を向けるが、彼女の机に落書きされている様子はない。

あの3人は悪いけど、日華家の名前を使い、きついお灸を据えてある。

だからもう大丈夫だろう。

只……彼女達をつぶしても悪い噂が消える様子はない。

主犯はまだこの学園の中だ。


歩も色々と探っているけど、彼女に直接手を下したやつらは、皆噂に踊らされたやつらばかり。

中々犯人像が掴めないまま、数日が過ぎた。

噂はさらにひどくなっている。

このままだともっとひどい嫌がらせが起こるかもしれない。

そう考えた俺は、二条と華僑にこの事を伝えると、彼女に気を配ってくれとお願いする。

彼らは初耳だったようで、驚愕した表情を浮かべると、じっと何かを考え込んでいた。


「まぁ、とりあえず彩華ちゃんに注意を払ってほしい。だが直接助けるのはダメだ。原因の1つに君たちの二股説があるからな。あっ、それと~歩がかなり怒っているから、この騒ぎが解決すれば、二条と華僑は覚悟しておいた方が良いかもね」


俺は小さく笑うと、彼らを一瞥し教室へと戻っていった。


それからも俺は女の子達から聞いた噂話を集め、歩と情報を共有していく。

ついこの間、彼女は誰かに花瓶を落とされたとの話を聞いた時は、腸が煮えくりかえりそうだった。

二条が助け事なきを得たようだが……。

彼らに伝えといて本当によかった。

でももし当たっていたら……そう考えるだけで、俺の中にある狼の血が疼きだす。


「そういば亮、女の話ばかりだが、その噂にある男の方はどうだったんだ?」


男の方……?

俺は訝し気な視線を歩へ向けると、目がスッと細くなった。


「まさか……確認を取っていないのか?どう考えても彩華が男に手を出すはずがない。なのに噂が流れている。とういうことは男の方が話しているかもしれないと安易に想像できるだろう?」


俺は目から鱗が落ちると、すぐに部屋から飛び出していった。

確か男の方は、、1年のB組とF組。

彼らの事は一応調べてはいたが、歩に言われるまで、全く気にしていなかった。


俺はすぐに1年の教室へ向かうと、噂に出てきた男を呼び出す。

人通りの少ない校庭まで連れてくると、彼らは怯えた様子で辺りをキョロキョロしながら小さく震えだした。


「なぁ、お前らが彩華ちゃんに言い寄られたってのは、本当なのか?」


彼らは俺の言葉にキョトンとした顔を見せると、彩華?と小さく呟く。


「あー、一条だ。一条に言い寄られたのかって聞いてんだ」


一条との名前に彼らはビクッと肩を跳ねさせると、またせわしくなく目をキョロキョロと動かし始める。

彼らはモゴモゴと俯く姿に、俺は胸倉を掴みかかると、土ぼこりが舞った。


「さっさと答えろ」


「いや、えーと、あの……はい……言い寄られました……」


「嘘をつくな、彩華ちゃんがそんな事をするはずないだろう。正直に答えろ。なぜそんな嘘をつく?」


男は歯をガチガチいわせると、今にも泣きそうに顔を歪め頭を垂れた。


「あっ、へぇと、すみません、すみません。いっ、言えないんです……ッッ俺たち……その……うぅ」


隣で無言のまま立ち尽くす男へ顔を向けると、懇願するように目で訴えかけてくる。


「言えない?なぜだ」


「あの、話せば長くなるんですけど……俺たちの家は医療機器メーカーで、その逆らえば大口の日華病院からの受注がなくなるんだ……それで……えっと……」


ボソボソと話される小さな声に、俺は胸倉をつかんでいた男の手を離すと、鋭い視線を投げる。


「はっ、俺の名は日華 亮。日華病院は俺の父が教授をしている。それでも答えないのか?」


俺の言葉に二人は顔を見合わせると、怯えた様子で後退りコソコソと何かを話し始めた。

話し合いが終わると、一人の男が恐る恐る一歩前に進み出る。


「日華病院なら……条華族を知ってますか?」


「あぁ、俺もその一人だ。この学園でその名を聞くとは思わなかったな」


その答えに男は慌てて顔を上げると、口を大きく開く。


「失礼致しました。俺たちは北条様に頼まれたんだ。一条に言寄られたって言いふらせって。さもないと家を潰すって……。北条様のところは名家だってことは有名で……条華族の話を聞いたんだ。……それで、家のためにもいいなりになるしかなかったんだ」


「そうなんです、脅されて仕方なく……すみませんでした。正直一条さんとは話をしたこともなくて……もう言わないので勘弁してください……」


北条?聞いたこともない。

俺たちと同じ条華家だって?笑わせる。

俺達が名前も聞いたことないって事は、精々分家の下層だ。

そんな奴が条華家のトップに君臨する彩華ちゃんを貶めるなんて、バカとしか良いようがないな。

俺はガタガタと震えながら何度も謝る二人を一瞥すると、歩の元へと踵を返した。


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