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しつこい女(歩視点)

はぁ……。

生徒会室で大きなため息が漏れると、僕は椅子へと体を預ける。

最近鬱陶しい女にまとわりつかれ、疲れはピークに達していた。

やっと一人になれたが……はぁ……。

会計書類の山を茫然と眺めていると、何やら部屋の外が騒がしい。


まさか、もう僕がここに居るとわかったのか?

うんざりした表情を浮かべながらドアへ目をやると、ゆっくりと扉が開いていく。

まったく勘弁してくれ……。


「おつかれの様子だね、歩」


開いた扉から良く知る軽い声に僕は顔を歪めると、姿勢を正し、返事を返すことなく積み上げられた書類を手に取った。


「おいおい、まぁいいや。それよりも、外にあの女が待ってるぜ」


その言葉に僕は日華を睨みつけると、ヘラヘラとした顔が目に入った。


「怒るな、怒るなって。まぁでもあの女すごいよな~、こんなに露骨に嫌がられているのに、付きまとう図太さは尊敬に値するよ。俺なら早々に心が折れているね」


僕は日華の言葉にまた大きなため息を吐くと、あの女との出会いを思い返した。


あれは、生徒会選挙が行われ僕が生徒会長に選ばた日。

可愛い妹が高等学校へ進学したときに、変な男に引っかからない様色々と模索していた。

まぁその為に、生徒会なんて面倒な役を引き受けたといっても過言ではない。

僕は皆が帰った教室で一人、学園の書類に目を通していると、一人の女性が教室へとやってきた。


基本学校では表情を変えることがない僕だが、その日は彩華からメールが届いていたんだ。


[お兄様、今日は何時ぐらいに帰ってくる?お母様もお父様もお仕事でいないの。それでね、お兄様が早く帰って来るなら、一緒にご飯を食べに行きたいなって!]


そのメールに僕は自然と頬を緩ませると、すぐに彼女へ返事を返した。

返信が完了したと画面に表示された瞬間、ガラガラと教室のドアが開く。

僕はおもむろに顔を上げると、御令嬢がこちらをじっと見つめていた。


「あの、ごめんなさい、まだ人が残っていただなんて……。忘れ物を取ったらすぐに出ていきますわ」


忘れ物か、そういえば彩華もこの間学校へ行くのに家にカバンを忘れていたな。

彼女の姿が彩華と重なると、僕は彩華に向ける笑顔で彼女を見たんだ。

すると彼女は顔を真っ赤に染めたかと思うと、そのまま教室から逃げ去っていく。

僕は自分がどんな顔をしていたのか知らぬまま、彼女の事など頭からすぐに抜け落ちると、彩華と夕食を共にするため、さっさと帰宅した。


次の日いつもと同じように学園へ登校すると、校門のところで令嬢がこちらをじっと見つめていた。

昨日の出来事などすっかり忘れていた僕は彼女を一瞥し、そのまま通りにすぎようとした瞬間、突然僕の腕が後ろへと引っ張られた。

無言で捕られた腕を振り払い、冷たい視線を向けると、女は気にした様子もなく僕に顔を向ける。


「私、唐梨子 夢美と申しますわ。あの、好きです!私の恋人になってください」


はぁ!?

突然の告白に呆然とする中、彼女は僕の手を取るとギュッと握りしめる。


「興味ない、離せ」


女に触れられ寒気がすると、僕はまた思いっ切り振り払った。

今にも泣きそうな顔を見せるが、僕は彼女を置いたまま教室へと足を進めると、またも腕を取られ後ろへとバランスを崩す。

チッ、鬱陶しい……。

思わず舌打ちをし、鬱陶し気な視線を見せると、彼女は目を真っ赤にしながら必死な形相で僕を引き留めた。


「待ってください、私、絶対に諦めませんから!!!」


彼女はそう叫ぶと、そのままどこかへ走り去っていった。



それからだ……あいつが僕に付きまとい始めたのは。

授業が終わると僕の教室にやってくる。

朝の登校時間も門で待ち伏せ。

生徒会室に空気を読まず入ってきて邪魔をしにくる。

どんなにきつい言葉を浴びせても、冷たい態度を取りつづけても、さらに言えば、はっきり拒絶を示しても……気にせずやってきては諦める気配がない。

こんな女は初めてだ、大抵冷たい態度を見せれば近づいてこなくなるからね。

初めて経験するしつこい女の存在に、僕の精神はジワジワと削られていた。


「歩、大丈夫か?ぼうとして、大分参っているいるみたいだな。もう嘘でも恋人がいると言ったらどうだ?」


「あれだけしつこい女だ、そんなこと言えば会わせろと言いかねない。僕にはそんな相手を任せようと思う女がいない」


日華は僕の言葉に何か思いついたのか、ポンッと手を叩くと楽しそうに笑みを浮かべる。


「それなら彩華ちゃんにしてもらえばいいじゃないか。彼女化粧っけないし、まぁ~それでも可愛いんだけど。あぁ、ちょっ怒んないんでよ。まぁ……それは置いといて……えーとそれでだな、彼女に化粧して、ウィッグでも被せれば、ばれないんじゃないか?」


「彩華は何をしても可愛んだ。彩華か……悪くないが、素直に頷いてくれるとは思わないな」


ボソッとそう呟くと、外で待っている女の存在に頭を抱えたのだった。


良い案も思いつかないまま、あの女に煩わしい思いをさせられる毎日。

ようやくやってきた休日に、僕は家でリラックスしていると、父が忙しそうにしていた。

父のところへ向かうと、他県のマンションやアパートのカタログ、その周辺の地図などの資料が散乱している。


「父さん、引っ越しでもするの?」


僕は必死に書類を目で追っている父に声をかけるが、パンフレットに熱中しているようだ。


「もしよかったら僕も手伝うよ」


「おぉ、いや、彩華の住む場所を探しているんだが、うーむ、ここは立地はいいが……うむ……」


彩華の住む場所?

僕は眉を寄せると、父の肩を叩いた。


「どういうことですか?」


「なんだ歩……ッッ、もしかして彩華から聞いていないのか……?」


何のことだ、僕は何も聞いていない。

まさか彩華が家を出るのか……?

父は驚いた表情を浮かべると、慌てて口をつぐむ。

僕は詰め寄るように体を乗り出すと、父は目を泳がしながら、言葉を詰まらせたんだ。


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