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ある日の下校②

サクベ学園へ進学すると決まってから数日。

学園の進路調査にサクベ学園と記入し、エイン学園への推薦も断った。

偏差値も申し分なく、順調に入学手続きが進む中、私は未だ誰にもその事を話せていない。

気が付けばあっという間に時が過ぎ、卒業まで残り半年ほどとなっていた。

はぁ……そろそろ話さないと、でもなぁ……。


今日も彼らに伝えられないまま、授業が終わり校門へ向かって歩いていると、門の前で香澄がこちらへ大きく手を振る姿が目に映る。


「おねぇさまぁ~」


可愛らしい笑みを浮かべ、勢いよく走ってくる彼女へ笑顔で手を振り返す。


「お姉様~美味しいパンケーキのお店を見つけたの、今から一緒に来ましょう!」


目をキラキラ輝かせながら私を見上げる彼女の姿に胸がキュンとする。

最初の頃が嘘のような可愛らしい笑みに嬉しくなると、行きましょうと頷いた。


迎えの車に断りを入れ、彼女と繁華街の一角にあるカフェへ仲良く足を向けていると、突然呼び止められる。


「おい、お前人の肩にぶつかっといて謝りもなしか。あぁ~いてぇなぁ~」


男は香澄へ演技臭い動きで肩を押さえると、痛い痛いと唸った。

私は香澄を守るように前へ出ると、男たちを窺う。

ガラの悪そうな男達はゲスな笑いを浮かべると、逃げ場を失くすように私たちを囲い始めた。

ちょっと何事なの……?


何とも不穏な空気に私は香澄へ目を向けると、彼女は男たちの態度に怯むどころか、腕を組み、蔑むような瞳を浮かべている。

ちょっと、ちょっと、香澄ちゃん、その態度はまずいんじゃないかな。

私はサッと香澄を背中に隠すと、痛い痛いと呻いていた男が横から香澄の腕を掴んだ。


ドスッ


「気安く私に触れないでちょうだい、か弱い女の子にぶつかられただけで痛がるなんて、バカじゃないの」


香澄は容赦なく腕を持った男の腹に蹴りをおみまいすると、男は蹲るように地面に倒れ込む。

その様子に思わず顔が引きつった。

か、香澄ちゃん……ッッ

挑発的な態度をとる彼女を慌てて宥めようとするが……私の体を押しのけ挑発的に男を睨んだ。


「なんなのよ、さっさと退きなさいよ」


「ちょっと、香澄ちゃん、落ちついて。あの、ぶつかってしまったようで、申し訳ございません。すぐに病院へ案内致しますわ」


私は男へ深く頭を下げると、グイッと腕を強く引っ張られた。


「最初からそういう態度を取ってればよかったんだはなぁ。まぁ病院へ行く前に、あっちで話でもしようぜ」


男は私の腕を捕えたまま、人気の少ない路地裏へ視線を向ける。

怪しげな男の様子に、咄嗟に体を反転させ相手の腕をねじりあげると、男は痛みに私の腕から手を離した。


「おぃ、こいつも何かやってるっぽいぞ」


後ろから聞こえたその声に慌てて振り返ろうとするが、その前に男の腕が私の腰へ伸び動きを封じられる。

破落戸の荒い息が耳にかかると、ゾクゾクと背筋に悪寒がはしった。


「……ッッ、いやぁ」


「なにすんのよ、あんたたち!お姉様から離れなさいよ」


香澄は足技で男を薙ぎ払おうとするも、複数人相手に勝てるはずがない。

あっという間に彼女も男に捕らえられてしまうと、男達の卑しい笑い声が耳に響く。


どうしよう、何とか香澄ちゃんだけでも逃がさないと。

拘束を外そうと身をよじらせてみるが、強く掴まれ動けない。

力では勝てない、ならヘッドバットで……。

一度前かがみになって、後ろへ勢いよく背を逸らせば、顎にヒットできるかな。

私は逃げようとする振りをし、ゆっくりと前へ重心を寄せていると、ふと足元に黒い革靴が視界に入った。


「こんなところで見苦しいですよ。女性が嫌がっているでしょ?」


男の声に顔を上げると、そこには背広姿に端正な顔立ちをした狐目の男が佇んでいた。


「誰だ、お前。邪魔すんなよ」


仲間の男がその狐目の男の前に立ちはだかったかと思うと、突然その場に崩れ落ちた。

狐目の男は倒れた男を横目に、ゆっくりと私の方へ近づいてくる。

破落戸たちは怯えた様子を見せ、拘束の手が緩んだ。

その一瞬の隙に私は腕を振りほどき逃げ出すと、狐目の男が破落戸を捕らえていく。

彼も何か武術を嗜んでいるのだろう、男たちを軽々といなしていくと、地面にたたきつけた。


「いってぇ、……ッッ、くそっ!おい、お前らいくぞ!!」


男が声を張り上げると、破落戸達は慌てた様子でその場を去っていく。

私は恐る恐る狐目の男へ視線を向けると、彼はニッコリ優しい微笑みを浮かべていた。


「大丈夫でしたか、お嬢様方」


「はい……助かりました。ありがとうございます」


私は彼に深く頭を下げると、香澄もお礼を口にする。


「困っている女性を助けるのは男として当然ですよ」


そう言って微笑んだ姿になぜか背筋にゾクッ悪寒を感じた。

何だろうこの感じ、笑顔が怖い……。


私はサッと彼から視線を逸らせると、深く頭を下げ、香澄の腕をとり、逃げるように背を向けた。


あの男から離れたい一心で歩いていると、香澄の声が耳にとどく。


「お姉様、ねぇ、お姉様ってば、そっちじゃないわよ」


ハッと我に返り慌てて振り返ると、苦笑いを浮かべた。


「もう、お姉様~あんな奴らに謝る必要なかったのに……。それよりもお姉さま!さっきの方とっても素敵でしたわね。まぁ~お兄様の次にですけど。あの破落戸たちをあっさり片づけて、私たちに微笑んだ姿、とてもドキドキしましたわ~」


香澄の頬を染める姿を横目に、私は歩いて来た道へ目を向けると、先ほどの男の笑顔が脳裏にチラついた。



**********おまけ*************

     狐目の男視点

****************************

あれが歩君の妹ちゃんか。

名家によくいる傲慢な感じをイメージしていたけれど、なかなか面白そうな女の子だ。

一筋縄ではいかない、それに勘も良い。

出来れば助けた事を口実に誘い出すつもりだったけれど残念だな。

まぁいい、別の方向からせめてみよう。


彼女の背を眺めていると、破落戸の男が腕をおさえながら俺の前へと現れる。


「いってぇ……。言う通りにしたんだから。さっさと金をだせ」


品の無い男を一瞥すると、俺は財布を取り出し金を渡す。

あさましい男たちの姿を眺めると、その場を立ち去った。


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