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舞い散る雪

入院は長引き、元の病室へ戻ると、あっという間に冬の始まりが訪れた。

まぁ、自業自得だけどね。

鮮やかだった紅葉は落ち葉へと変わり、窓の外では雪がちらつき始める。

あと一ヶ月でクリスマスか。

一条家はクリスマスを祝う習慣はなかったが、粉雪を眺めていると、今の自分になる前の記憶が蘇る。


前世では家族四人で食卓を囲んで、クリスマスを祝っていたなぁ。

クリスマスツリーを弟と一緒に飾り付けして、普段より豪華な食事が並ぶ。

お父さんが仕事帰りにケーキを買ってきてくれて、それが待ち遠しかった。

そうだ、弟と毎年プレゼントを交換していた気がする。

お小遣いの範囲で用意するのに、四苦八苦していたのは良い思い出。

あぁ、懐かしいなぁ。


思い出に感慨深くなってると、病室の扉が開き、私は窓から視線を外した。


「どうだい調子は?」


「日華先生、いつもありがとうございます。痛みもないですし体調も良好です」


大丈夫だとアピールするため、肩を上げグルグルと回してみる。


「そうかい、安心したよ。でもまだ安静にね。今日はねお礼を言いに来たんだ、改めて俊を治してくれてありがとう。いくらお礼を言っても足りないよ」


先生は私の傍にやって来ると、ベッドわきへと腰かける。


「ふふ、俊君が元気になって私も嬉しいです」


そう微笑むと、パタパタと小さな人影が私のベッドの傍に近づいてくる。


「あやかお姉ちゃん~!」


先生を跳ね除け小さな腕を開くと、私の胸の中に顔を埋めた。

元気いっぱいな俊様子に、彼の髪を優しく撫でると、ギュッと抱きつく小さな腕に力が入る。


「僕退院できたんだ。あやかお姉ちゃんも早く退院して、僕と結婚してください!」


脈絡のない彼のプロポーズに目を丸くしていると、先生が俊君を捕まえた。


「こらこら、一条さんが困っているだろう?それに俊はまだ8歳だ」


「だって、僕ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいんだもん!」


「それなら、亮のお嫁さんになってもらえればいい。そうすればお姉ちゃんは俊の本当のお姉ちゃんになるよ」


またも突拍子もない提案に私は顔を上げると、先生はどうかな?と意地悪そうに微笑んいる。

いやいや、どうしてこんな展開に……?


「えっと……その……あの……」


なんと返していいものか、言葉を詰まらせていると、病室にまた人が現れた。


「俺はいつでも大歓迎。彩華ちゃんみたいに素晴らしい女性を婚約者にできるなんてとても光栄だよ」


えぇ……この状況でその軽口は頂けないッッ。

ご本人の登場に軽く頭痛がすると、俊が私の手を強く握りしめた。


「ダメ!本当のお姉ちゃんになるのは嬉しいけど……僕がお姉ちゃんと結婚するんだ」


俊はベッドへと這い上がってきたかと思うと、頬に柔らかい感触がした。

目の前に現れた俊君の顔を見つめると、真っ赤に頬を染め小さな腕が私を捕まえる。

かっ、可愛すぎでしょ!

天使がいる、ここに天使がいる!

あまりの可愛さに私は心の中で悶えていると、先生が私を覗き込むように顔を向ける。


「一条さん、こんな時に話すことではないのかもしれないが、婚約の話を真剣に考えてくれないだろうか?私たちのような存在を受け入れてくれる女性は少ないからね」


先生の言葉に現実に引き戻されると、私は頬を引き攣らせる。


「えーと、その……わっ、私の一存では決めかねるので……」


「ははっ、君のお母様と話したけれど、一条さんが決めた相手ではないと婚約できないとおっしゃっていたよ」


すでにお母様と、はぁ……行動が早い……。

事態が暗転する中、私はそっと先輩へと視線を向けた。


アイドルグループに所属していてもおかしくないような容姿。

それにゲームのアイテムである丸つき草を使う事になった彼が攻略対象者でないなんてありえない。

はぁ、どうして攻略対象者ばかりが私の周りに……。

いやゲームの当て馬役なんだから当然ね。


「返事はすぐにとは言わない、だけど真剣に考えてほしいんだ。それじゃお大事に」


難しい顔をしている私にそう声をかけると、病室を出て行った。


あぁ、できれば日華先輩も連れていってほしかったなぁ……。

日華兄弟と取り残された病室で、先輩がこちらに近づいてくる。

先ほど先生が座っていたベッドわきへと腰かけ、優しい笑みを浮かべる。

すると俊は近づいてきた先輩を威嚇するように、私と彼の間に割り込んだ。


「お兄ちゃんだめだよ!あやかお姉ちゃんは僕のなんだから!」


「俊、決めるのは彩華ちゃんだよ」


そう諭すように微笑みかける先輩に、私は苦笑いを浮かべると、このいたたまれない現状に頭痛がひどくなる。

こめかみを押さえていると、先輩がおもむろに私の肩へと触れ、服の隙間から見える傷口に小さく顔を歪めた。


「何度謝っても謝り切れないね。女の子にこんな傷を残してしまって……本当にごめん」


「いえ、小さな傷ですし、気にしないでください。私自身まったく傷が残っても気にしていません」


大丈夫だと笑うと、先輩は艶やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと顔を近づけてくる。


「俺はいつでも責任を取る覚悟があるよ、一条さんが頷いてくれば……ね」


「けっ、結構です!」


アイドル感満載のサワヤカな笑みに、声を荒げるとそれは残念と彼は小さく笑った。


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