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甘い面会

~~二条と華僑のお見舞い~~


二条と華僑が面会へとやってきたある日、私はずっと気になっていたことを口にした。


「ねぇ、私って休みすぎだよね……。絶対出席日数足りないと思うの、だからもう一度2年生のやり直しにななっちゃうよね……。二人と一緒に学園を卒業できないのは悲しいなぁ」


そう呟くと、二条と華僑は同時に勢いよく立ち上がった。


「そんな事ありません、進級試験を受ければ僕たちと同じ3年生になれますよ」


「へぇっ、あれ、でも出席日数は……たりないよね?」


「バカッ、俺も華僑もだけど、歩さんも動いているんだ。だから進級できることは間違いない。心配しなくても大丈夫だ」


えぇ、お兄様まで……。

そこまで進級させる必要があるのかな……?

あぁ~でもそっか、一条家の長女がダブリとか名家に傷をつけちゃうからかな。

そう納得すると、私は顔を上げ二人に向かって笑みを浮かべる。


「そっか、よかった。なら授業についていけるように、しっかり勉強しておかないとね」


「一条さんなら大丈夫でしょう、はいこれ、どうぞ」


華僑は学園で配布されたプリントをこちらへ差し出した。


「そうだ、一条さん。病室での時間つぶしにいいかなと思って、本を持ってきたんです」


プリントに目を通していると、華僑はカバンから本を取り出し、私の前へとそっと置いた。


「これはですね、幼馴染の二人が結ばれる素敵なお話なんですよ。主人公がずっと幼馴染の女の子が好きなんですけど、その子になかなか気持ちが伝わらない。ふふ、まぁ良くある恋愛小説です」


私は差し出された本の表紙に目を向けると、やんちゃ系の男の子と、明るく笑う女の子の二人が描かれていた。

面白そう、後で読んでみよう。


「ありがとう、華僑君」


私は本を開くと、なぜか二条が慌てた様子を見せる。

どうしたのかと彼へ顔を向けると、なぜか視線を逸らされた。

そんな二条の様子に、華僑は小さく笑うと、私の耳元へ顔を寄せる。


「その主人公なんですけどね、ちょっと二条君に似ているんですよ」


彼の言葉に本に目を通してみると、華僑の言った意味がよくわかった。

本当ね、とつられるように笑って見せると、華僑はヒロインの女の子を指さした。


「それと……ヒロインの女の子は一条さんにそっくりなんですよ。ふふっ」


私に似ている?

彼の言葉にキョトンと首を傾げると、二条が焦った様子で華僑の腕を掴み扉へと引っ張っていく。

華僑は楽しそうに笑うと、また来ますね、と二条に引きずられながら病室を出て行った。

二人が出て行った病室で、私は本をペラペラと捲ると考え込んだ。

私ってここまでお転婆にみられてるのかな……?

そんな事を考えながら、本を読み進めていった。



~~ある日の歩と日華のお見舞い~~~


別の日、病室で華僑君に借りた本を読んでいると、ガラガラと病室の扉が開く音に、私はそっと本に栞を挟んだ。

ゆっくりと扉へ目を向けると、そこにはエイン学園の青いブレザーを来たお兄様と日華先輩が立っている。


「彩華、調子はどうだい?」


「お兄様、もうすっかり元気よ。日華先輩もわざわざありがとうございます」


私は二人に微笑みかけると、彼らの後ろから今日の夕食が運ばれてきた。

二人は看護婦の邪魔にならないように道をあけると、私の前に夕食が並べられていく。


「ごめんね、夕食の時間に。どうしても彩華ちゃんの姿が見たくてさ。はいこれ、父から預かってきた薬」


私はいつもの日華先輩の様子に小さく笑うと、丁寧に薬を受け取りそっと近くのテーブルへと置く。

日華先輩の軽口に、兄は冷たい笑顔を浮かべたかと思うと詰め寄っていった。


「ごめん、ごめん、まぁそう怒るなって、ちょっちょ、こわっ」


日華先輩の焦る姿に私は口に手をあて肩を揺らす。

彼らのいつもの掛け合いに気持ちが和むと、私は木のスプーンを手に取った。


「彩華、安静にしておきなさい」


その言葉に顔をあげると、兄は私からスプーンを奪い、そっとベッドわきへと腰かける。

うん、なになに?

スプーンを持っていかれてしまい、どうしたのかと首を傾げていると、兄は手に持ったスプーンで、夕食のご飯を掬い上げる。

まっ、まさか……ッッ。

その様子に呆然としていると、兄は私の口元へスプーンを差し出した。


「おっ、お兄様!?」


「彩華、口を開けて。僕が食べさせてあげるよ」


目の前のスプーンに、カッと頬に熱が集まるのを感じる。

ちょっと待って、あーんはハードルが高い。

戸惑う中、窺うように兄へ視線を向けると、スプーンを返す気はなさそうだ。

くぅ、ちょっと一旦落ち着こうッッ。


私は一度深く息を吸い込むと、兄から視線を逸らし木のスプーンをじっと見つめた。

兄は私の為を思ってやってくれている。

恥ずかしいことなんてない……よね……。


「ほら、彩華、口をあけて」


中々口を開けない私の様子に、兄は耳元で呟く。

甘く響くその声に、更に熱を持った。

恥ずかしくて死にそう……。

私は意を決して小さく口を開けると、兄はそっとスプーンをゆっくりと運ぶ。

何とかご飯を喉に通すが、全く味がしない。


うぅぅぅぅ、恥ずかしすぎるよ。

あまりの恥ずかしさに、顔を真っ赤に兄を見つめると、またスプーンが差し出される。

ええええ、まだ続くの!?

手をだしスプーンを取ろうと試みるが、ダメだよと渡してくれない。

私は涙目になりながらも、そっと口を開くと、兄は満足そうに微笑みを浮かべていた。


そんなやり取りの中、私たちの様子を見ていた先輩は兄からサラリとスプーンを掠めとった。


「やばい、可愛すぎるでしょッッ、俺にさせて、はい、あーん」


その言葉にギョッとしていると、兄はバシッと先輩の後頭部を殴った。


「痛っっ」


頭を押さえる彼からスプーンを取り返すと、ベッドから引き離した。


「お前はもう出て行っていいよ」


「ちょ、待ってよ~、一回ぐらいいいじゃん~!」


そんな掛け合いを前に、私は羞恥心で泣きそうになっていた。

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