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認められない思い(二条妹視点)

そんなある日、校庭を歩いていると、裏庭であの女の姿を見つけた。

どうやら二条の友人である華僑と何やら話しているようだ。

私はこっそり近づいていくと、揉める声にそっと身を潜める。


「一条さん、最近どうして二条君を避けているの?」


「えーと、いや~、その……う……ん、避けてはないよ?」


「そんなわけない、あんなに露骨に避けて、気が付かないはずないよ。二条君の様子を見た?最近塞ぎこんでいるんだよ!それに一条さんも無理して笑っているよね?ねぇ……二人の間に何があったの?」


「……何もないよ、二条は何も悪くない。私が勝手に避けているだけ。……自分勝手な事をしてると自覚している。えーと、その……最近変な噂を耳にして、私が二条の婚約者になるとか、一度断ってるのにね。だから少し距離を置いた方がいいのかなって」


「……一条さんは二条君と婚約したくはないの?」


「それは……ッッ、私が二条と婚約するなんてありえないの。彼の傍に居るのは私じゃない。何言ってるんだって思ってるよね……。だけど彼の傍に居続けて、気持ちが大きくなったとき……離れていく現実に耐えられる自信がない……」


「一条さんどういう意味?どうしてそんなことがわかるの?」


「それは……ッッ、言えない。でも人の心なんて変わっていくもの。ましてやこの世界ならなおさら……」


彼女は意味深な言葉を呟くと、深く頭を垂れ黙り込んでしまった。


今のはどういうことなの?

彼女もお兄様の事が好きなんじゃないの?

婚約者になりたいんじゃないの?

婚約を断ったなんて知らなかった……。

私は物陰からそっと顔を出すと、弱弱しく笑った彼女の姿が目に映った。


「それにね、香澄ちゃんの誤解も解ければ嬉しいなぁと思ってるの。香澄ちゃんはどうも私に二条が盗られてしまうと思っているみたいでね、あんな可愛い子に敵視されるのは悲しいわ。できれば香澄ちゃんとも笑顔で話せるようになりたい」


衝撃的な言葉に、私はその場から逃げるように離れると、頭の中で彼女の言葉が反芻する。


笑顔で話す?

つまり仲良くなりたいってこと?

こんな私と……?


私の周りに集まてくる女たちは、いつも兄目当ての人ばかり。

仲良く話していても、結局最後には兄を紹介してほしい、そう言ってくる。

私と仲良くなりたいなんて、思っている女なんていなかった。

そうやって何度も何度も裏切られてきたから、私には兄だけでいいそう思ってきた。


だから私に友達なんて一人もいない。

陰でわがままな高飛車な女と言われていることも知っている。

そんな事言うやつらも、私の前ではヘコヘコとご機嫌を取りに来るの。

でも彼女の笑顔は違うの?

お兄様の事は関係なく……純粋に私に向けられていたというの……?

何とも言えぬ気持ちが胸に込み上げてくると、叫びたい衝動にかられた。


あの日から、私は一条彩華の監視をやめ、彼女の言っていた言葉をずっと考えていた。

授業が終わり、下校の合図とともに私は一人廊下を歩いて行く。

すると人気のない校舎裏で兄と彼女が抱き合っている姿が窓の外に映った。

私は勢いのまま階段を駆け下り、校舎裏へ向かうと、二人の間に割り込み、彼女をその場から引き離した。


彼女の手を握り歩き続ける中、前ほどの怒りは感じなくなっていた。

この間話していた言葉が何度も何度も蘇る。

きっとさっきのは兄が捕まえたんだと、彼女から避け続ける理由を聞くために。

頭ではわかっているが、お兄様が奪われてしまう現実を受け入れらない。

だから彼女を連れて、兄が居る学園から必死に離れたの。


彼女は何も言わない。

怒ることも、私の手を振り払う事もしない。

こんな強引に、それも嘘までついてここに連れてきたのに。

行く当てもなく歩き続け、繁華街を抜けた先で人通りが減ると立ち止まる。

彼女がどんな顔をしているのか、恐る恐るに振り返ると、心配そうな彼女の姿が目に映った。


どうして、私の心配なんてするのよ。

どうして、こんな私と友達になりたいなんて言うの?

どうして、あなたは私に笑顔を向けてくれるの?


その笑顔は信じてもいいの……?


何度も何度も問いかけ続ける。

だけど答えは出なくて、口から出てくるのは彼女を突き放すひどい言葉だけ。


違う、違うの、こんな事言いたいんじゃない。

彼女がお兄様と婚約者になりたいと思っていない。

なら私はどうすればいいの?

あなたが消えてくれれば、またお兄様は私のものだけになるの?

だってお兄様が居なくなったら私は、一人になっちゃうんだよ……?


「危ない!」


突然私の体が宙に浮いたかとおもうと、私は道路の反対側へと倒れ込んだ。

すぐに顔を上げると、私の目の前には頭から血を流し横たわる彼女の姿。

うそでしょ……ッッ

なんで……私を助けたの……?

どうして……。


違う、違うわ、私はこんなこと望んでいない。

やだ、やだ、やだ、やだあああああああああああ

混沌とする中、彼女は蹲り、痛みに顔を歪める。

だけど彼女は必死にこちらへ顔を向けると、笑顔で大丈夫と呟いた。


「バカ……こんなときでも……ッッ」


彼女の優しさに一気に涙が溢れだすと、その場に崩れ落ちた。


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