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二条妹の入学式

髪を短く切った華僑君は、あの日以来女子の間で噂の的だった。

中性的な可愛いフェイス、ニッコリと笑う優しそうな笑顔が素敵。

瞬く間に二条と並ぶほどの人気となってしまった。

そんな二条と華僑二人が並ぶと、女子達の声援がすごい。

だけどそんな黄色い声援を気にした様子を見せない二人は、いつも私と一緒に過ごしていた。


月日はあっという間に流れ、私は中等部2年生へと進級した。

兄は中等部を卒業すると、乙女ゲームの舞台であるエイン学園へと進学していく。

エイン学園の制服を着た兄を見た瞬間、乙女ゲームのスチルにありそうな煌びやかな姿に私は確信した。

お兄様も攻略対象者で間違いないと。

巷の噂ではエイン学園へお兄様が入学する前に、ファンクラブ出来ているとかいないとか。


私はと言うと、進級後のクラス替えにより、二条と華僑と別々のクラスになってしまった。

二人は同じクラスで、さらに仲良くなった気がする。

クラスが変わったことで、三人で過ごす時間が減り、二人で楽しそうに話している姿を廊下で目にするようになった。

そんな二人に声をかけてみると、彼らは慌てた様子で会話を切り上げるの。

なんか疎外感半端ないよね。

まぁ……お年頃だし、男同士、女に出来ない話とかあるというのもわかってるけどね。


寂しさを感じながらも、彼らとクラスが別々になったことで、他の生徒達と話をする機会が増えた。

そこでわかった新事実……。

なんと生徒達の間で、私と二条の婚約が目前と噂されているようだった。

一度一条家が二条家の婚約を断った事実を皆知ってるはずなのに……。

そこに噂とは怖いもので、華僑家と言うスパイスが加わり三角関係、と根も葉もない噂が広がっているのだとか。


はぁ……まったく勘弁してほしい。

正直、二条と華僑以外の男子と話さない私にも理由があるのかもしれないけど。

でもね、私が男子生徒に話しかけると、顔を見るなり怯えた目をするんだもん、そんな態度を見せられて話せるはずがない。

私は新しい教室で一人、窓の外を見上げ真っ青な空に流れる雲を眺ていると、なぜか乙女ゲームの愛くるしいヒロインの顔が浮かび上がった。


はぁ……改めて思うけど、二条も華僑も間違いなく攻略対象者だよね。

なら高等部に進学すれば、きっと私の傍から離れていってしまう。

二条との婚約話があがった時、私は純粋に二条が好きな人と結ばれて欲しいとの気持ちで断ったが、今改めて考えてみると、どこかで恐れていたのかもしない。

もし彼と婚約して、私が彼を好きになってしまったら――――。


二人は私にとってかけがえのない大切な存在で。

友人だけど、想いはずっと大きくなっている。

そっと胸に手を当てると、ドクンと大きな鼓動に、胸の奥が苦しくなった。


好きとかそういうんじゃない……ただ傍に居ることが当たり前で。

だけど私の場所がヒロインに奪われてしまった場合、果たして私は冷静でいられるのだろうか?

クラスが離れただけでもこんなに寂しい気持ちになってしまうのに……。


そう考えると、こうしてクラスが離れてどこかほっとする自分がいた。

だってこれ以上彼らを思う気持ちが、大きくなってしまうのは怖いから。



私たちが二年に進級したことで、新しい一年生がやってくる。

今日は新入生を迎える為、全校生徒が広い講堂へと集まっていた。

そういえば、二条の妹、香澄ちゃんもこの学園にやってくるんだよね。

この機会に、なんとか仲良くなれないかなぁ。


私と彼女の仲は、あの頃からまったく進展していない。

時々二条の家にお邪魔するも、彼女は二条の傍にべったりで、私に視線を向けてくれることはなかった。

めげずに話しかけてみるんだけど、彼女は私を一瞥すると、プィッとそっぽを向いちゃうんだよね。


入学式が始まり、私は辺りを見渡していると、香澄の姿を見つけた。

その姿をじっと目で追っていると、彼女とパチリッと目があう。

私は微笑みを浮かべ手を振ってみるが、彼女は私を睨みつけると、いつもと同様にプイッと逸らされてしまった。

悲しい、だけどめげないんだからね……。


無事入学式が終わり各自教室へと戻る中、私も人込みに紛れるように歩いていると、突然腕を掴まれた。

おもむろに振り返ると、そこには二条妹が凄みを利かせこちらを見上げている。


「香澄ちゃん?えーと、入学おめでとう。どっ、どうしたのかな……?」


「私が来たからには、あなたの化けの皮を絶対剥がしてやるんだからね、覚えときなさいよ」


化けの皮……。

底冷えするような視線に、私は体をブルッと震わせると、彼女は満足げにほほ笑みを浮かべ、背を向けた。

うぅぅ、いったい何が始まるのよ……。

はぁ、乙女ゲームの世界に悪役で転生すると、こんなに大変なの……?

私は肩を落としその場で立ち尽くすと、人込みの隙間から見える香澄の姿をじっと眺めていた。

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