舞台袖へ
お久しぶりです、更新が遅くなって申し訳ございません。
アルファポリス様の方で、新たに『乙女ゲームの世界は大変です(連載版)』の投稿を始めました。
読みにくい文章や、それぞれのキャラ、内容を少し変化し推敲しておりました。
アルファポリス様で連載を始めるに伴って、表紙イラストをSan+様(Twitterアカウント@San_plus_)に描いて頂きました!
登場人物紹介へ掲載しておりますので、興味のある方は見て頂けると嬉しいです。
二条、歩、香澄に花蓮、そして彩華。
5人の青春って感じのイラストですよ(*‘∀‘)
待って待って、こんなこと聞いてない。
どうしてお兄様が……それに二条や華僑君日華先輩まで。
天斗は隠しておきたかったじゃないの?
彼らの姿に狼狽していると、グィッと強く腰を引き寄せられた。
ハッと我に返り振り返ると、天斗と視線が絡む。
「しっかりしろ、説明はちゃんとする。今は一条 彩華としての役割を果たしてくれ」
天斗の言葉にカッと怒りが込み上げてくる。
勝手な事ばっかり言って、彼は兄を知っているはずなのに。
いるならそう教えてくれればよかったのに!
私は今日予定がないと兄に伝えてしまっている。
なのに嘘をついてこんな登場の仕方……怒らないはずがないじゃない。
兄は極度のシスコンで、この後同じ家に帰るのは私なのよ!?
あぁ……考えるだけでも恐ろしい。
けれどここで喚き散らしても意味がないとわかっている。
理由はどうあれ、彼のパートナーになると決めたのは自分自身、最後までやり遂げないと……。
私はゆっくりと息を吸い込むと、怒りを沈め笑顔を張り付けた。
少しでも彼にこの怒りが伝わるように、相手から見えないところで彼の腕をつねってみる。
痛みに一瞬顔を歪めるが、すぐに表情を戻すと、抓った手を解くようナチュラルに私の手を握った。
「挨拶はこれぐらいでいいだろう。爺さんこの勝負俺の勝ちでいいよな?金城家と一条家、歴然だろ?」
勝負……?一体どういうことなの?
私と彼女とでなんの勝敗が決まったっていうの?
チラッと金城へ視線を向けてみると、彼女は縋るように誠也を見上げていた。
そんな彼女の様子に、彼は冷めた視線を向けている。
天斗は詰め寄るように会長へ近づくと、わかったと頷き、懐から紙を取り出した。
何だろうと思うい覗き込んでみるが、その前に天斗はそれを奪うように取ると、兄へと顔を向ける。
「兄貴、すぐに都市計画を中止しろ。後は俺がする。あの場所は誰にも渡さない」
「はぁ……わかったよ。だけどお前に出来るのかい?」
誠也は狐目細めながら天斗を見据え呟くと、つまらないとの表情を見せた。
金城から離れ一人舞台袖へ下がっていくと、金城は慌てた様子で誠也の後を追いかける。
その姿に天斗は私の手を取ると、反対側の舞台袖へと連れて行った。
何が何だかわからぬまま、控室へ連れられてくると、警備員を退かせ中へと入る。
扉が閉められ会場の騒がしい音が聞こえなくなると、静寂が訪れた。
私は彼の手を振り払い詰め寄ると、キッと強く睨みつける。
「天斗、今のは一体なんなの?勝負ってなんのこと?それよりもお兄様がいるなんて聞いてないわ。お兄様だけじゃない、二条だって華僑君、日華先輩……あぁもう!あなたずっと隠そうとしていたじゃない!なのにどうして?お兄様を知らないわけじゃないんでしょう?こんなことが知られたら、どうなるか……ッッ」
「そう怒んなって、少し落ち着け」
天斗は控室の冷蔵庫を開けると、ペットボトルを取り出した。
テーブルに置かれていたグラスへ水を灌ぐと、私とへ差し出す。
そんな彼の様子に私は不承不承でグラスを受け取ると、グラスを傾け一気に飲み干した。
冷たい水が喉を通り、少し冷静さを取り戻す。
天斗はドサッとソファーへ腰かけると、真剣な表情でこちらを見上げた。
「協力してくれて感謝している、本当にありがとう」
突然の素直な態度になんと答えていいのか戸惑う。
彼の表情を見ながら向かいのソファーへ腰かけてみると、ノックの音が響いた。
「藤様、一条家の方が、彩香様にお会いしたいとのことなのですが……どうなさいますか?」
扉の向こう側から声が聞こえると、天斗は任せると目で合図する。
私に判断をゆだねるなんて……ッッ。
先ほどの登場の仕方、最近の私の行動はかなり怪しまれていたのはわかっているわ。
だからこうなることは必然。
でも今お兄様に会っても、説明しようがない。
脅されてパートナーをさせられたなんて話そうものなら、本気でつぶしてしまうだろう。
数か月彼と一緒に過ごし、悪い人ではないと知ってしまった。
それに藤グループは経済に大きな影響をもたらしている、そんなグループと一条家が仲違いをするなんて望んでない。
どうしようかと考え込んでいると、天斗がおもむろに立ちあがった。
「覚悟は出来ている、あいつに話すなら話してきてくれ」
扉へ向かおうとする彼の裾を慌てて掴む。
「待って、まだ話さないわ。あなたの話をちゃんと聞いてからお兄様に説明する」
「いいのか?」
彼の言葉に深く頷くと、私は紙とペンを探し、お兄様宛に手紙を書く。
私の言葉だとはっきりわかるよう、手紙の最後にサインを示して。
こうでもしないと、お兄様なら乗り込んでくるかもしれない。
それはカオス状態、なるべく被害は減らしたいもの。
後でちゃんと話すから、少し時間が欲しいと書くと、控室の扉をそっと開ける。
一条歩に渡して欲しい、そう伝えた。




