ミスコン当日
お茶会は大成功を収め、無事に文化祭一日目が過ぎると、とうとうミスコン当日になってしまった。
昨日は楽しかったなぁ……。
私は昨日の事を思い浮かべるように天を仰ぐと、徐に瞳を閉じる。
お兄様と日華先輩のメイド姿もみる事が出来たし、二条と華僑君のコスプレもかっこよかったなぁ。
それに香澄ちゃんと花蓮さんとお話も出てきて、とってもいい思い出。
楽しかった思い出に浸る中、そっと目を開けると、自然とため息が漏れる。
はぁ……だけど……今日は憂鬱で仕方がない。
一体全体、立花さくらは何を仕掛けてくるつもりなんだろうか。
出来ればミスコンなんて物に出場したくないし、関りあいたくない。
だけど出場しないと……二条や華僑君が、奏太君みたいなってしまうかもしれない。
それは絶対に避けたかった。
昨日とは打って変わって暗い気分の中、重い足を引きずりながらに家から出ると、花蓮と合流する。
そうして花蓮と一緒に学園へ向かっていると……ふと黒塗りの車が私たちの近くで停車した。
何かしら……?
首を傾げながらに車を眺めていると、バタンッと音と共にドアが開き、覆面姿の男3人がこちらへ向かってきた。
男たちの姿に、花蓮がカバンからスマホを取り出そうとしたその刹那、私は咄嗟に守るように彼女の腕を強く引き寄せると、前へと進み出る。
「彩華様、いけません!!!」
「……何か御用でしょうか?」
ジャージを着た男たちは何も答えることなく、私たちを取り囲んでいく。
持っていたカバンを地面へ置き、腕を胸の位置まで持ち上げると、私は戦闘態勢へ入った。
そんな私の姿に男は正面から捕らえようと腕を伸ばす中、その腕を花蓮は強引に前へ出ると、思いっきりに振り落とした。
「彩華様に近づくなら、容赦しないわ」
花蓮はまた一歩前へ踏み出すと、目の前の男を睨みつける。
そんな中、後ろから別の男が掴みかかってくると、私はその腕を軽くいなしながらに、そのまま地面へと叩きつけた。
うめき声を上げる男を横目に、花蓮へ襲い掛かる別の男へ顔を向けると、ハイキックを一発お見舞いする。
呻くように倒れていく中、最後の男へ体を向けると、花蓮の悲鳴が耳にとどいた。
「いたぁっ、……ッッ、離しなさい!!!」
「花蓮さん!!!」
その声に慌てて振り返ると、そこには腕をねじり上げられた花蓮と、その傍にはスマホが落ちている。
私は花蓮を捕らえる男を睨みつけていると、後ろから腕が伸び首がグッと締め上げられた。
「うぅぐ……ッッ、もう一人……居たのね……クゥッッ」
腕から逃れようともがくと、締め上げる腕に力が入る。
「なんなのよ、あなたたちは!!!……彩華様に乱暴しないで!」
花蓮が声を張り上げると、先ほど倒した男たちがゆっくりと起き上がってくる。
そんな中、車からもう一人男が下りてくると、苛立った様子で関節をならしながらに、私たちの前に佇んだ。
「お前が一条だな。大人しく俺についてこい。悪いようにしない。女に手を上げたくはないんだ」
「彩華様、ダメですわ!!!」
「うるせぇなぁ、お前には聞いてねぇ!」
男はドスの聞いた声で怒鳴ると、腕をさらに締め上げられたのか……花蓮から悲痛な声が聞こえてくる。
「……ッッ、いたぁ……ッッ、あぁぁ」
「わかった、わかったから……ついていくわ。その前に彼女を解放して」
私は抵抗する意思がないと伝えるため、両手を頭の後ろへ回すと、男を真っすぐに見つめた。
そんな私の姿に男は満足げに笑みを浮かべると、私の腕を掴み強引に車の中へと連れていく。
そのまま座席へ押し込まれると、花蓮も続くように中へ放り込まれた。
「ちょっと、用があるのは私にでしょ!花蓮さんは解放して!!」
「ダメだ。今解放すれば、助けを呼ぶだろう。それは面倒だ。だから一緒に連れていく。安心しろ、大人しくしてれば何もしねぇ。時間が来れば解放してやるよ」
覆面を被った男は運転席へ何か合図を出すと、車が発車し、私たちはどこかへと運ばれていった。
時間くれば解放する……?
彼の目的は何なのかしら……。
いえ、それよりも何とか逃げる方法を探さないと……。
このまま車から飛び降りる……?
無理ね……ドアは男にふさがれているわ。
それに暴れて花蓮さんに被害が及ぶのは避けたい。
そっと窺うように顔を上げてみると、皆顔を隠している為、正体はさっぱりわからない。
私を一条と知っていた……もしかして身代金目的の誘拐……。
効果的かもしれないけれど、一条の力を知っているのなら、解放した後逃げ切れるとは思わないだろう。
シーンと静まり帰る車内で、隣の男はどこからか布を取り出したかと思うと、ニヤリと口角を上げた。
「悪いな、ちょっと眠ってくれ」
「あなた、彩華様に触らないで!!!」
花蓮が私の前に身を乗り出した刹那、抑え込まれると、布で口元を覆った。
「花蓮さん!!!」
私は男の腕を振り払い花蓮を助けようとするが……その前に花蓮はグッタリと力なく倒れる。
「うるせぇ、叫ぶな。眠ったただけだ、あんたも大人しく眠ってくれ」
男を睨みつけたまま花蓮を守るように抱きしめる中、布で鼻と口を覆われると、甘い香りに視界がグラリと傾き、私はそのまま意識を失った。




