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コスプレ喫茶

校内へ入ると、エントランスにはチラシを持った呼び込みの生徒達が沢山集まっていた。

皆クラスの出し物にあった衣装をまとい、とても華やかだ。

パンフレットを持って雑談する女子生徒達や、カップルだろう手を繋ぎながら廊下を歩く男女の姿が目に映る。

そんな祭りらしい雰囲気に、私も楽しい気分になってくると、香澄に連れられるままに階段を上って行った。


そしてC組へやってくると、教室の目に人だかりができていた。

人だかりは主に男子生徒で、その中央にはなぜかポーズを決めた立花さくらの姿が見える。

彼女はフリフリのミニスカートに、とんがり帽子を被り、胸を強調させたゴスロリ風の服を着ていた。

ニコニコと愛らしい表情を浮かべ、手には杖を持ち、魔女のコスプレなのだろうと想像できる。


さすがヒロイン、モテモテだなぁ。

あれだけ人が集まっていれば、私には気が付かないかな。

私は彼女から身を隠すようコソコソと教室へ入ると、中はオバケやコウモリ、キャンディーや、パンプキン等、ハロウィン仕様な飾り施されていた。


二条に案内されるまま香澄と椅子へ腰かけると、テーブルにはジャックオーランダンが置かれている。

手作りだだろう……中には蝋燭の炎が揺れ、本格的だ。

教室の内の明かりは暗く調整され、ゆらゆらと揺れる炎が幻想的だった。


「こんにちは香澄さん、一条さん。休憩ですか?」


その声に顔を上げると、そこには黒いローブにフードを被り、大きな鎌を手にした華僑が、優し気な笑みを浮かべている。


「華僑君!?その姿は……もしかして死神?」


「そうですよ。一条さんの和装姿は久しぶりに見ましたね。とてもお似合いです。こちらメニュー表になります。ドリンクとデザートセットがありますよ」


「えーと、ありがとう。華僑君も似合ってるね」


何ともサラッと言われた言葉に頬が熱くなる中、華僑はメニュー表を開いて見せると、左のページにはデザート、右のページにはドリンクが手書きで記載されていた。


「華僑先輩~、お兄様はまだ休憩じゃないの?一緒に一条先輩のところに行きたいんだけど」


「あぁ、それでしたら問題ありませんよ。二条君は広告塔ですからね。チラシを持たせてそのまま連れて行って下さい」


香澄はわかったわ、と嬉しそうに返事を返すと、デザートとドリンクを注文していく。

私も香澄と同じものをオーダーすると、すぐに席へと運ばれてきた。

シンプルなショートケーキに、アイスティーが並べられると、私たちは食事を楽しんだ。



食事も終わり、香澄は華僑からチラシを預かると、二条を連れて廊下を進んでいく。

人が行きかう階段を降り、一階へやってくると、私たちはコソコソとお兄様の教室へと向かっていった。

お兄様のクラスも大繁盛のようで、教室の前には人だかりができている。

しかしC組とは違い、女子生徒たちの姿が目立つ。

人ごみに紛れながらに教室内を覗き込んでみると、そこにはフリフリのメイド服を着た、日華先輩の姿があった。


「あっ、彩香ちゃん来てくれたんだ」


日華先輩はこちらへ手を振ると、人ごみをかき分けながらにやってくる。

髪は鬘なのだろう……金色のツインテールに、フリフリの白いエプロン。

スカートは膝丈ぐらいで、黒いニーソックスを履いている。

骨格は仕方がないが……それを覗けば十分に可愛いらしいメイドさんだ。


「日華先輩、とっても可愛いですね」


「可愛いかぁー出来ればカッコいいと言われたいところだけど、ありがとう」


「あの……お兄様もメイド姿を?」


「あぁ、俺よりも似合っているから、ビックリすると思うよ」


日華先輩は教室の奥を指さすと、一人ポツンと座り不機嫌そうにしているお兄様の姿があった。

ストレートのロングヘアーに、日華先輩と同じメイド服。

遠目から見ると、見惚れるほどに美人なメイドだ。

しかし不機嫌さを前面に出している為か……周囲はお兄様を窺うようにチラチラと視線を向けている。

教室の外で騒いでいる女子生徒の視線は、明らかにお兄様へ向けられていた。

誰も近づくことが出来ないその空間に、香澄は遠慮なく突撃していくと、私の腕を強引に引っ張っていく。


「ごきげんよう、一条様」


「……なんでお前が。って彩華、どうして……ッッ」


お兄様は後ろにいた二条を冷めた目で睨みつけると、後方から怯えた悲鳴が聞こえた。


「ひぃっ、いや、俺じゃないっすよ」


「この女をさっさとつまみ出せ。はぁ……彩華、他の所へ回りなさい」


お兄様の背筋が凍るほど冷めた言葉に、二条は慌てた様子で香澄と私の腕を掴むと、教室から引っ張り出していった。


廊下へ出ると、二条は疲れた様子で壁に手を付き体を休める。

そんな二条を横目に、香澄はケタケタと楽しそうに笑っていた。


「あはは、あー面白かった。一条様のあの顔、傑作だわ。それにしてもメイド服、とってもよく似合っていたわね」


「香澄ちゃん、それは言いすぎよ。でもそうねぇ、想像以上に綺麗でビックリしたわ」


「俺……殺されるかもしれねぇな……」


ボソッと呟いた不穏な言葉に、チラッと二条へ視線を向けると、彼の顔は青ざめている。

そんな彼の様子に何も声をかけることが出来ないまま、中庭へと戻ってくると、私は花蓮と茶席を交代した。


「あら、あなたも来ていたの?彩華様の休憩の邪魔をしていないでしょうね?」


「ふん、どうして私がお姉さまの邪魔をするのよ。お姉さま~楽しかったですわね」


着物を整え座布団の上に正座をすると、香澄はニコニコと隣へと腰かけた。


「えぇ、……とっても楽しかったわ」


「香澄さん退きなさいよ。彩香様の邪魔になるでしょ」


花蓮は香澄を後ろから捕まえると、茶席から引っ剥がしていく。


「もう、放してよ!あっ、花蓮さん、良かったら一緒に回ってあげましょうか?回る人いないんじゃないの~?」


「結構よ、私はあっちで休憩するわ」


「ふ~ん、一条先輩のメイド服とっても似合ってたのに、見に行かなくてもいいの~?」


「あっ、あなた!?彩華様を連れて行ったの!?」


「当然じゃない。こんな面白い物見ないわけないわよ~」


二人は言いあいながらに校舎の方へ去って行く姿に、やっぱり二人は仲がいいのだなぁ、と改めて実感したのだった。


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