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文化祭一日目

そうして列は途切れる事もないまま昼近くなると、疲れで頭がぼうっとしてくる。

チラッと花蓮へ視線を向けると、彼女も疲れがピークなのだろう、弱弱しい笑みを浮かべていた。

そんな私たちの様子に気が付いたのか、一人の女子生徒が一つの茶屋を閉めるよう手配してくれると、花蓮と私、交代で休憩することになった。


「ふぅ……花蓮さん、お疲れ様。疲れたわね」


「本当ですわ。ここまで忙しくなるとは思っておりませんでした」


花蓮は疲れた様子で深く息を吐き出すと、彼女の背中を優しくさする。


「そういえば一条様と日華様が来られてましたわね」


「えぇ、お兄様のクラスは執事&メイド喫茶だって言っていたわ」


そう答えると、なぜか動揺した様子で、視線を逸らせた。


「あぁー、そうですわね。でも彩華様がわざわざ見に行く必要はありませんわ!」


う~ん、この反応。

お兄様も、花蓮さんも私に行ってほしくないのかな……。

でもどうして……?

そんな態度を見せられると、なんだか気になるじゃない。


「あっ彩華様、後は私がやっておきますので、先に休憩に行ってくださいまし」


花蓮は追い出すように私の背を押すと、逃げるように茶席へと戻って行った。


先ほどの花蓮の反応を気にしながらも、水飲み場へとやってくると、着物の袖を上げながらに蛇口をひねる。

冷たい水に心地よさを感じる中、ふとジャリッとの足音と共に、人の気配を感じた。

私は水を止め、ハンカチを取り出しながらに振り返ると、そこには二条が佇んでいた。


「よぉ、一条」


二条の姿に一瞬動揺するが……彼の服装が目に映ると、立花さくらの事など全て吹き飛んだ。

彼は赤いベストに、白いワイシャツ、背中には黒い長マントを着け、手にはステッキらしきものを持っている。


「二条……?その恰好どうしたの?」


「あぁ……これか、ヴァンパイアだ。なぜか俺が居ない間に、勝手に決められていたんだ」


「そっか、二条のクラスはコスプレ喫茶だったね。ふふっ、とってもよく似合ってる。カッコいいね」


漫画に出てきそうなイケメンヴァンパイアだな。

こうしてみると、やっぱり乙女ゲームの攻略対象者だと改めて実感する。

そんな事を考えながらに、二条へ笑みを浮かべると、彼は照れた様子で視線を逸らせた。


「かっ、カッコいいか?」


「うんうん、二条のヴァンパイアなら、女の子は自ら血を差し出してくれそう。ふふっ、血に困ることはないね」


何気なく答えると、二条はゆっくりと私の方へ近づいてくる。


「他の血なんていらない。お前の血さえあれば、俺は生きていける」


「えっ……ッッ!?」


二条は私の肩を掴むと、そのまま首筋へと顔を近づける。

まるで血を吸うかのように、唇を寄せると、熱い吐息が首筋へかかった。


「へぇっ!?あの……二条!?」


柔らかい唇が微かに首筋へ触れると、私は思わず身構えた。

すると二条はクスクスと肩を揺らせて笑い始める。


「どうだ、ヴァンパイアっぽいだろう?」


耳元でささやかれた言葉に、カッと頬に熱が集まると、私は慌てて二条から体を離した。


「もうっ……ッッ」


「悪い、悪い。って俺はこんなことをしに来たんじゃなくてだな。一条にちゃんと言っておきたい事があって」


私は落ち着かせるよう大きく息を吸い込むと、ニッコリと笑みを作って見せる。


「どうしたの?」


「この間のあれは事故だ。立花と俺は何の関係もない。これだけははっきり言っておきたかった」


この間……。

立花さくらと二条の抱き合う姿が頭を過ると、胸がチクッと痛む。

真剣な眼差しの二条と視線が絡むと、なんだか居た堪れない気持ちになった。


「そっ、そっか。わかった。でも……ッッ」


気にしてないよ、そう続けようとした刹那、可愛らしい声が後ろから響いた。


「お姉さま~~~!一緒に校内を回りましょう~~~!」


「香澄ちゃん!?」


香澄は嬉しそうに駆け寄ってくると、そのまま私の腕へと巻き付いた。


「香澄ちゃん来てくれたのね」


「もちろんじゃない。お姉さまの茶席を見に行かないはずないわ!あまりの人の多さ茶席には行けなかったけどね」


香澄はギュッと腕にしがみつくと、着物がグイグイと引っ張られていく。


「はぁ……香澄、着物が崩れるだろう。一条を困らせるな」


「あれ、お兄様こんなところで何をやってるの?」


香澄は不貞腐れた様子で返事を返すと、パッと腕を離し私の前へと佇んだ。


「それよりも~ねね、お姉さま~、一条様のクラスへ行きましょうよ。面白い物が見られるわ!」


「面白いもの?確かお兄様のクラスは執事&メイド喫茶と言っていたけれど……」


「そうやって聞けば普通なんだけど、これ見て!」


香澄は倒しそうにパンフレットを開いて見せると、お兄様のクラスの案内に、【女子が執事で、男子がメイド!、怖いもの見たさにどうぞ!】と書かれていた。


男がメイド……とういう事は……?

その文字にお兄様と日華先輩の燕尾服姿が消え、メイド姿が頭の中に描かれていく。

二人とも綺麗な顔立ちだし、スタイルもいいし、メイド服が似合いそう。

身長は置いといて……日華先輩は可愛いらしいメイドで、お兄様は妖麗なメイドになりそう。

もしかしてこれを見られたくて、あんな反応を……?


「ねぇ、面白そうでしょ!」


「えぇ、そうね。……でも私が行って大丈夫なのかしら?」


「ふふっ、大丈夫よ!ねぇ~行きましょう!」


笑みを浮かべて見せると、香澄はギュッと私の手を握りしめた。


「お兄様も一緒に行きましょう。こんなところにいるんだから、休憩なんでしょ?」


「いや、俺はちょっと抜け出してきただけだ」


「なら先にお兄様のクラスへ行って~その後一条様のところへ行きましょう!」


「えっ、香澄ちゃん!?」


香澄は軽いステップで歩き始めると、戸惑いながらも、私は連れられるように彼女の後ろを歩いていった。


二条のクラスには立花さくらがいる。

正直、会いたくない。

胸にモヤモヤとした複雑な気持ちが渦巻く中、腕を引く香澄へ視線を向けると、ルンルンと楽しそうに進んでいく。

うぅ……こんなに楽しそうなのに、行きたくないとは言えないわよね。

仕方がないか……。

私は諦めるように彼女の手を握り返すと、校舎の中へと進んでいった。


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