現れた上級生
あの日以来、二条とは顔を合わせていない。
お互い文化祭の準備に忙しくて……会う機会がないだけ……。
別に避けているわけじゃないはず……。
華僑君の気持ちは驚いたけれど……。
それに……二条が立花さくらとどうなろうと、私に口を出す権利はない。
文化祭の日が迫ったある日、私は茶道場となる中庭で最終確認を行っていた。
ポカポカと温かい日差しが差し込む中、生徒たちが行きかう小道をウロウロと歩き回る。
えーと、この辺りに茶道場を設置すればいいかなぁ。
いや……あっちの方が人目に付きやすいかも。
あぁ、でもこっちの方が、見栄えはいいかな。
でも向こう側の方が、広くて設置しやすそう、う~ん。
中庭を眺めながら実際に設置したイメージを頭に描きながら考え込んでいると、ふと校舎の方からこちらへ近づいてくる3人の女子生徒の姿が目に映った。
スラリ背が高く、顔立ちが整った美しい女性を中央に、左右には彼女の少し後ろを二人の女子生徒が、歩いている。
制服を見る限り、上級生のようだ。
お兄様と同じ色のバッチをつけているから……3年生かな。
茫然とその姿を眺める中、バチッと目が合うと、真ん中を歩いていた女子生徒が、ニッコリを笑みを浮かべて私へ手を振って見せた。
「ごきげんよう、あなたが今回ミスコンに参加する一年生かしら?私は金城 奈津美よ」
彼女は妖麗な笑みを浮かべながらに、私の前で立ち止まると、値踏みするかのように上から下まで眺めていく。
その視線に戸惑う中、思わず一歩後ずさると、私は無理矢理に笑みを浮かべて見せた。
金城……どこかで聞いたことが……。
あっ!確か昨年のミスコンで優勝した人の名前だったはず……。
「ごっ、ごきげんよう。はい……そうですわ。私は一条 彩華と申します」
軽く頭を下げながらそうぎこちなく言葉を返すと、彼女は握手を求めるように手を差し出した。
「お噂通りお綺麗な方で驚いたわ。私もミスコンに参加するの。お互い頑張りましょうね。ふふっ」
恐る恐るに握手を交わすと、私は必死に笑みを浮かべてみせる。
握った手がひどく冷たく感じる中、彼女はギュッと私の手を握りしめた。
何これ……わざわざ下見にきたのかな……。
こんなに綺麗なら、そんなことしなくてまた優勝できそうだけれど……。
「えぇ、そっ……そうですわね。お手柔らかにお願いいたしますわ」
そうたどたどしく答えてみると、彼女は少し驚いた様子をみせる。
「あら、もう一人のミスコンへ出場する彼女とは、タイプが全然違うのね」
その言葉にハッと視線を上げると、彼女はクスクスと口元に手を当てながら、握った手の力を弱めた。
もう一人……立花さくらにも会いに行ったのかな……?
握られた手が離れていく中、笑みを張り付かせていると、なぜか彼女はこちらへと顔を近づけてくる。
「ふふっ、あなたの方が危うそうね……」
「へえっ!?」
囁かれた言葉に戸惑う中、彼女はニッコリと笑みを深めたかと思うと、背を向け歩き始める。
そのまま女子生徒を引きつれ去って行く姿に、疑問符がいくつも頭に浮かぶ中、私は大きく息を吐き出した。
何だったんだろう……。
それよりもさっきの言葉……。
はぁ……とりあえずいくつかいい場所を見つけたし……さっさと戻ろう……。
私は彼女とは逆方角へ足を向けると、教室へと戻っていった。
教室へ戻り扉を開くや否や、一人の女子生徒が慌てた様子で、私の元へと駆け寄ってくる。
「一条さん、大変よ。今年のミスコンは水着での出場は禁止らしいわ。……何でも生徒会で決まったらしいのよ」
「水着……ッッ!?ミスコンに……水着で出場する方がいたのかしら?」
「あれ……一条さん知らなかったの?」
「どういう意味かしら……?」
よくわからない言葉に首を傾げる中、どこからともなく花蓮が現れた。
「ごめんなさい、彩華様。私の説明不足でしたわ。でも……彩華様が出場することになれば、水着はなくなると思い、必要ないと思いましたの。彼女が話している水着というのは、今までのミスコンで水着を着用して出場するのがデフォルトでしたからなのよ」
嘘でしょ……?
いやいや……大勢生徒の居る前……来客の人も来ている前で水着!?
無理無理無理、私はそんなものに参加しようとしていたの!?
「そっ、そんなの……聞いてないわ!?」
「コホッ、だから説明の必要はないと思いましたの。だって彩華様の出場が決まれば、あの方が水着なんて許すはずありませんからね」
「……もしかしてお兄様の事を言っているの?」
花蓮の答えることなく静かに笑みを浮かべる姿に、私は苦笑いを返した。
シスコン気味のお兄様が、水着を許すはずはない。
そういえばこの間会った時に、何かつぶやいていた気がする。
これってこの事だったんだね……。
「えーと、ならミスコンはどんな服が宜しいのかしら?私はてっきり制服で参加するものだと思っていたわ」
そう花蓮に尋ねてみると、彼女は嬉しそうに私の手を握りしめる。
「それなら私が用意しておりますわ!サイズは完璧ですの。当日楽しみにしていて下さいまし。ふふふっ」
彼女の過剰な反応に嫌な予感はするが……私はそれ以上何も聞けずに引きつった笑いを浮かべていた。




