『In Summer Days』・4
【わりと切実なお金の話】
「……お金がない」
夏休みも後十日程となり、桃恵萌はピンチに陥っていた。
お金がない。わりと致命的なレベルで。
おかしい、財布が軽すぎる。
そんなに大きな買い物をした覚えはない。皆で買った水着もちゃんとお手頃な奴を選んだ筈なのに。
「なんでだろ。身に覚えがなさすぎる」
見た目に反し根本的には真面目な萌はあまり浪費をしない。
乳液や化粧水などは高校生らしく値段の安いものを選んでいるし、服も安い店を探すようにしている。
なのにどうして、と最近の出費を思い返している。
まず大きなところではやはり水着。皆で海に行った時に海の家で色々食べたっけ。
身嗜みを整える為の色々はいつものよう安いのを買っている。夏向けの服も、ちゃんと考えて買った。
料理に使うような食材や生け花の花は別途で母がお金をくれるから問題ない。
後は、ああそうだ。夏だからちょっとアイスやジュースの量は増えたかも。
高校になって初めての夏休み、遊び歩く機会が多くなったか。
その分カラオケとか、ダーツ。ボウリングにゲーセン、外でご飯食べたりお茶する機会も結構。
そういえばリップ夏の新色買ったっけ? トワレも。
やっぱり夏は気になるからデオドラント類とか。
「あ、身に覚えあるわ」
よくよく考えてみると大きな買い物をしていないだけで、恒常的に出費している。
そりゃあバイトもせず月のお小遣いのやりくりだけでは足りなくなるのも当然。これが夏の魔力というヤツなのだろう。
見た目に反し根本的なところで萌は真面目である。
ただし若干アホの子ではあった。
◆
戻川高校近くのコンビニ、アイアイマート。
夏休みから始めたアルバイトは意外とうまくいっており、今日も今日とてみやかは仕事に勤しんでいた。
勿論学生として夏を満喫したいという気持ちもある。
その辺り店長の岡田貴一さんは非常に融通が利いて、遊びに行くから休みたい時はちゃんとシフトを調整してくれる。外見はなんか怖そうな感じで、甚夜はかなり心配していたが、意外にもといったら失礼だが岡田店長はとてもいい人なのだ。
「いらっしゃいませー……って、萌?」
「やほー、元気してる?」
昼の時間を過ぎて午後二時くらいになると、お弁当を求める客足も途絶え店内はようやく落ち着いた。
レジに立っていてもお客さんは一時間に三、四人くらい。忙しいのはつらいけど、こういう間延びした時間も中々持て余してしまう。
そういうタイミングで遊びに来たのは友人の桃恵萌だ。
装いは夏らしく、青のキャミソールにホットパンツ。結構な露出が大きく、スタイルの良さも際立っている。店内にいた男性客がちらりと見てしまう気持ちも分からないではなかった。
「どうしたの?」
「んー、特に用事じゃないけど遊びに来たー」
レジにいるみやかへ話しかける為、ちゃんとペットボトルのドリンクを買おうとして、途中で気付き我慢。
八月も半ばとはいえまだまだ外は暑い。萌はうっすらと汗をかいていた。
しかし財布が非常に寒く、今は百円の出費も痛かった。
「ていうか、みやかは頑張るなぁ。やっぱあたしもバイトくらいした方がいいかな?」
「うーん、私はお金貯めたくてしてるだけだから。そういえば萌って服とか化粧品とかよく買ってるけど、お小遣いで足りてるの?」
「んー、そこら辺はちゃんとやりくりしてる。あんまり高いのは買わないの。デザイナーズブランドなら安くてもイイの結構あるし。それでも限界来たら親に土下座っ!」
「潔すぎるね……」
「あ、別にただ前借りさせてもらうだけじゃないよ? うちのママ、生け花教室やっててさ、そのお手伝いをね。親の仕事場でバイトさせてもらってるって感じ?」
というかママって呼んでるんだ。
意外なような、そうでもないような。
それはともかく、生け花は小さい頃からやっていると前も聞いたし、そういうのは萌には似合っているのかもしれない。
「でも、それなら態々アルバイトする必要もないんじゃ?」
「……あはは、あのさ。もう今月土下座したのにおサイフが軽くて。夏に浮かれて出費が、その、イロイロとね?」
「あぁ、だからバイト」
「うん。ちくしょー、もっと早くに気付くべきだった……」
萌は分かり易く肩を落とす。
退魔の名跡、秋津の十代目がなんとも学生らしい悩みである。
バイトしようにも夏はもう終わろうとしている。まさしく後悔先に立たずというやつだ。
ただ「楽してお金欲しい」みたいな発想に行き着かない辺り彼女の心根がよく表れている。
「……そういや、甚もバイトってしてるのかな?」
「え?」
「だってさ、独り暮らしで。こういう言い方はあれだけど、保護者的な人っていないじゃん? 生活費とかどうしてるんだろ、と思って」
「そういえば……」
なんかいきなり話題が飛んだが、そう言われてみれば不思議だ。
まあ年齢を考えれば、仕送りとかで両親の世話になっているというのは考えにくい。
そもそも親って生きているのだろうか。こう言ってはなんだが、いるのかどうかさえあやふやだ。
「ていうかどんな暮らししてるのか、あんま想像できない」
「うん、そこは同意。一応、部屋には前に一度行ったことあるよ」
「マジで? どんな感じ?」
「綺麗に片付いてた、かな。何もないとも言うけど」
以前彼の部屋を訪ねたのは携帯電話を買った後日のこと。
甚夜は古い映画『夏雲の唄』の唄のDVDを買い、レコーダーも購入したはいいがどうすればいいのか分からず、「申し訳ないが……」と助力を願い出たのだ。
本当に機械関連は駄目らしく、結局セッティングはみやかが全てやった。
その時に住んでいる単身用マンションを見たのだが、必要最低限の物を置いてあるだけで、実際普段の生活は想像し辛い。
何気ない疑問だったが、なんだか色々と気になってきてしまった。
「おお、随分と賑々しいな」
と、客がいないとはいえ話し込んでいると、いつの間にか岡田店長がレジまで来ていた。
驚いたみやかは慌てて佇まいを直す。
サボっていた訳ではないがこうやって友達と話しているところを見られると非常に気まずい。
萌も申し訳ないと思ったのか、すぐさま店長に謝った。
「あー、と。ごめんなさい、てんちょーさん。あたしが邪魔しちゃって」
「かっ、かかっ。そう畏まることもない。みやか君はよくやってくれておる。多少話しておったくらいで咎めはせん」
外見とは裏腹に岡田店長は大らかだ。
みやかを怒ったりはせず、寧ろ「仲良きことは」とでも言いたげに笑っている。
本当、いいバイト先で有り難い。ちょっとだけ、空気が漏れるような笑い方が怖いと思ったのは内緒だ。
「さて。なにやらバイトがどうこうと聞こえた。みやか君の友人であればそこいらの学生より余程信が置ける。うちでよければ、なんなら面接なしで採用するが?」
「え、ホント? じゃあ考えてみよっかな。あーでも」
「なに、気が向けばで構わぬ。楽しみにしておるぞ」
七月に始めたばかりだから、まだ一か月程度。
なのに岡田店長は随分とみやかを買ってくれている。本人としてはまだまだだと思っているので、その評価は少し意外だった。
もっとも慣れてきても「まだまだ」と考える勤勉さをこそ岡田貴一は評価している。学生バイトなど適当な奴らが多い。その中でしっかり手を抜かず働く少女は中々に貴重なのだ。
「店長、いいんですか?」
「無論よ。……みやか君といいそこな娘といい、下手な宣伝より集客率が期待できるのでな」
主に容姿的な意味で。萌に限れば胸部的な意味でも、立っているだけで男性客を集めてくれそうではある。
そういう判断をする程度には、彼はコンビニの店長だった。
◆
「ということで、きちゃった」
「え、と。こんにちは?」
あくる日、インターホンが鳴り玄関を開けると「きゃはっ」と笑顔の萌が立っていた。
その後ろではみやかが申し訳なさそうに縮こまっている。
コンビニで色々話していたらなんか気になってしまった。
そうなってからの萌は早い。彼の家の住所を聞き出し、翌日にはもう行動である。
態々みやかを誘ったのは、場所を知っているというだけでなく「抜け駆けはなしっしょ?」が理由らしい。いや、意味は分からないが。
ともかく二人の少女は駅より二十分ほどの、栄えている一帯から少し外れた場所にある単身用の四階建てマンションを訪ねた。
「ああ、いらっしゃい。どうしたんだ急に」
「いやー、なんか昨日甚がどんな暮らししてんのかって話してたら、ちょっと気になっちゃって」
「……それは、また。随分と奇怪な話題を出すものだな」
うう、なんか微妙な反応されてる。
みやかは恥ずかしそうに俯いてしまう。裏でどんな話をしてるんだ、みたいに思われたらどうしよう。
もっともその辺りの心配は必要なかった。彼も自身が一般人とは程遠いと自覚しているようで、軽く納得して「まあ大して面白いものもないが」と家へ迎え入れてくれた。
今更ながら男の子の部屋に入るのは生まれて初めてだと気付き、萌が多少緊張してしまったのは言うまでもない。
「みやかは、二度目だったな」
「うん、DVDの時に」
「いや、あれは正直助かった。しっかり使わせてもらっているよ」
二度目のみやかは多少ながら余裕がある。
初めて来た時は萌と似たようなものだった為、改めて室内を見回す。
1ルーム七畳か八畳くらいでトイレ風呂付。ユニット式ではなくちゃんと別々になっている。
冷蔵庫に電子レンジ、浴室の方には洗濯機も。最低限の電化製品はあるが、プライベートのスペースには殆ど物がない。
衣服はクローゼットにまとめて片づけてあるようで、タンスの類は置いていない。
四角のちゃぶ台とベッド。テレビとみやかが接続したDVDレコーダー。後は一応程度においてある棚に書籍がいくつかと、白黒映画のDVDソフトが数枚あるくらい。男の子の一人暮らしだが意外と綺麗に片付いていた。
「結構いい部屋じゃん。男子の部屋ってさ、もっと散らかってると思ってた」
「整頓くらいはするからな。暮らし自体は普通だぞ? 鬼といえど洞穴に住む時代じゃない」
「そこまでベタな想像はしてないって。どっちかっていうと、なんならお掃除してあげようかなー、みたいな?」
そもそも学校に通っているのだ、流石にそこまで前時代的だとは思っていない。
みやかにしろ萌にしろ、今日の訪問も「クラスの男の子が一人暮らししてるって聞いたけど、どんな感じだろう?」くらいのものだ。
まあ、つまりは単純な好奇心。仲良くなれた分、彼のことをもう少し知りたくなった。
だからといって即行動できる萌には正直尊敬の念すら抱いてしまう。
「麦茶でよかったか?」
「うん、ありがとう」
「もっちろん、夏はこれだよねー」
「その辺り、いつの時代も変わらないな」
外は相当暑かったようだ。萌は氷の入った麦茶を美味しそうに飲んでくれる。
今時の若者然とした彼女ではあるが、座る時は自然と正座。グラスも傾け過ぎず、置く時も音が出ないようゆっくりと。何気ない所作が実に丁寧だ。
みやかもそうだが、やはり古くから続く家の娘達。こういったところはきちんと躾けられ、意識せずとも出るくらい身に付いている。
まあ、それでも思春期の少女らしく好奇心は抑えられないようで、萌は先程からずっときょろきょろしていた。
「しかし、気になるものか?」
「えっ。あの、えと……少し」
もっとも興味があるのはみやかも同じ。
指摘すれば言い難そうにしながらもこくりと小さく頷く。
部屋にはテレビと、麻衣が好みそうな堅苦しい書籍とDVDくらいしか娯楽っぽいものは見当たらない。
後は酒瓶がいくつか棚に置かれている。なんというか、マンガに出てくるような男子高校生の部屋とは違って、こうして見ても彼の普段の生活は浮かび上がってこなかった。
「実際甚ってどんな風に過ごしてるの? そりゃ、秋津の十代目。肝心なところはちゃんと知ってるけど、休みの時とか暇な時なにしてるのかなーって、そっちの方が気になって」
その辺り萌はストレートだ。不思議に思っている部分を真正面から問い掛ける。
まあ面白味はないが、隠すほど大層なものでもない。甚夜としては別段隠すような話でもなかった。
「朝は早めに起きて鍛錬。料理は、出来合いの弁当か外食で済ませて今は殆どしないな。放課後は、君達と過ごさない時は、適当にぶらつき散策がてら怪しげな噂を探している。里香に会う機会もそれなりか」
「……ちょ、ちょっと待った。リカって誰?」
「夏樹の妹だ。兄をよく慕ういい娘でな。私にとっては孫娘のようなものだよ」
僅かに声が上ずった萌をさらりと流す。
こういうところ、鈍感なのか分かっていてなのか判断が付きにくい。朴念仁のようでも察しがいいようにも思えて、みやかには葛野甚夜という男性の胸中がどうにも掴みづらかった。
「まだ中学生だが、色々と都市伝説の噂を集めてくれているんだ。積極的すぎるのは心配でもあるが、助かっているよ」
「じゃあ、私達の知らないところでも?」
「ああ。全てを投げ出して、とまではいかないが今はそちらを優先している。勿論、余暇はそれなりに楽しんでいるが」
その程度の余裕は持てるようになった。
そう言った彼はどことなく誇らしげだ。もっとも甚夜の言う余暇の楽しみは読書か酒を呑むか、なので高校生としては不健全であるような気もする。
「最近は、みやかに設置してもらったDVDも使わせてもらっている」
「あ、そうなんだ。よかった。なら私も何か貸そうか?」
「そいつは嬉しい。あー、なんだ。朝顔……梓屋も貸してくれたんだが、どうも今一つでな」
ちらりと視線を送った先にはDVDが数枚。
タイトルは『課金制魔法少女あとり』……強面の彼に魔法少女ものアニメである。
一番の親友だし、尊敬もしているし、間違いなく大好きなのだけれど。時々、あの子はいったい何を考えているのか分からなくなってくる。
「なんか、ごめんなさい。ちなみに希望はある?」
「二時間に収まる映画やドラマだと有り難い。内容は、君が面白いと思ったものなら」
「分かった、じゃあ見繕っておくね」
まあでも彼が結構穏やかな毎日を過ごしていると知れて少し安心した。
普通の学生生活とは言い難いが、彼が満足しているのならきっとそれでいいのだろう。
「んー、とさ。じゃあ、バイトってしてないの?」
取り敢えず納得し、しかし萌はむむぅと唸りながら一番の疑問を口にする。
彼の暮らしを知り安堵したところまでは同じ。
ただ人知れず都市伝説と戦い、余暇も十分楽しんでいるというのなら、いったい生活費はどうしているのか。
「バイト?」
「うん。生臭い話だけど、甚の生活費ってどこから出てんのかなーって。ぶっちゃけると何か割のいいバイトあるなら紹介してくださいお願いします」
甚夜はようやく萌が何を知りたかったのか理解した。
実年齢はともかく見た目は高校生。生活を支えられるほど稼げるとは思えず、そもそも学校を行きながらどうやって稼いでいるのか、普通に生活できていること自体が彼女らには謎だったようだ。
ついでにみやかも理解した。昨日はなんか話題が飛ぶなぁと思っていたが、別に脱線してはいなかった。萌は本当に、切羽詰まるくらいお金がないらしい。
「バイトではないが、一応“おしごと”はしている。とはいえ、あまり参考にはならないぞ?」
それなら、と甚夜は自身の稼ぎ口を晒す。
といっても正直一般的ではないので、彼女の役に立つかは微妙であるが。
「東京は浅草には、古結堂という骨董屋がある。ここは普通とは違い、年月を経て妖怪化した器物を取り扱う店でな」
「うーん、それってつまり、自然に生まれた付喪神の専門店ってコト?」
「その認識で間違いない。もっとも秋津の付喪神ならともかく、自然に生まれたあやかしには邪気が混じり易い。人を刺殺したナイフ、実際に使われた呪具。その手の厄介な器物を鎮めるのもまた古結堂の役目だ」
隣で聞いているみやかは今一つぴんと来ないようだが、この辺り秋津は理解が早い。
萌はやけに真剣な顔でふむふむと頷いている。
「ただ、彼女らは決して力のある退魔ではなく、手に余る依頼というものも時々舞い込む。で、だ。そういう危険な依頼があれば、こちらに話を振って貰えるよう頼んでいる。店主曰く“古結堂葛野支部”……それが今の私の飯のタネだ」
そこまで言われれば門外のみやかでも気付く。
実際最初に会った時、みやかも薫も特に知り合いだったわけでもなく、にも拘らず非常にいいタイミングで助けてもらえた。
つまり彼が今迄何度も言っていた“おしごと”というのは、比喩でもなんでもなく、ちゃんとお金の発生するお仕事だったという訳だ
「じゃあもしかして」
「赤マントや渋谷七人ミサキは遭遇戦だが、口裂け女はそもそも依頼だ。危険な怪異があれば被害者もおり、であれば当然“金を払ってでも”と考える者もいる。金を払わねば動かぬ訳ではないが、貰えるなら貰わないと損だろう」
そう言って口の端を悪戯っぽく釣り上げる。
なんというか、案外ちゃっかりしている。それで生活できているというのなら結構見入りもいいのだろう。
とはいえ、確かに彼の言う通りあまり参考にはならない。あのレベルでの斬った張った前提のお仕事だ、アルバイトには適していない。
「……そ、そんな仕事がっ」
もっとも、それはあくまで一般人の感想。
十代目秋津染吾郎にとっては目から鱗だったようで、驚愕にわなわなと唇を震わせている。
「当代の秋津なら似たような真似はしていると思ったんだが、違うのか?」
「いやー、あたしまだ若輩だし。そういうのの窓口はパパにやってもらってるから。一応秋津として退魔はやることもあるんだけど」
依頼人との交渉やお金の発生、その他諸々の実働以外の業務は父親の範疇。外見的に舐められやすい萌はまだ関わっていない。
かといって個人で怪異を討ち、依頼人から金をせしめるような発想。というか退魔で金を稼ぐという考え自体なかったらしく、なんというか「もっと早く知りたかった」みたいな顔をしていた。
基本真面目でアホの子だが、桃恵萌はなんだかんだいい子なのだ。
「あー、なんなら時々手伝ってみるか? 報償もある程度なら出せるが」
「やる! やります! あっ、でも困ってる人からムリヤリお金をとるようなのは、ちょっと」
「見損なわないでくれ。これでも道義くらいは弁えているし、胸糞の悪い依頼も端から弾いている」
「そっか、うん、じゃあそこは信頼する。ならお願いしますっ!」
退魔としての経験を積めて、お金ももらえて、尚且つ二人の共同作業。
いいことしかないアルバイトではないか。
此処で逃してなるものかと想いっきり平身低頭、殆ど土下座状態。
こうして萌は時折甚夜の“おしごと”を手伝うようになったのである。
取り敢えず、二人とも忘れているが葛野甚夜は187歳。
今までしっかり働いてきて、尚且つ預金が高金利だった高度経済成長期を経験している彼は、十分すぎるほど貯蓄がある。
ぶっちゃけ今更バイトなんぞ必要ない、という事実は教えない方が精神衛生上いいのだろう。




