7.瓦解
緩みそうになる口元、今にも萎びそうな手足を抑え、なんとか維持した微笑で言葉を返す。
「はい。よろしく、おねがいします。」
「ふふ。どうしたの?そんなに無理してぴしっとしていなくても構わないのに。」
その一言で気が抜け、美麗な絨毯が敷かれた床にへたり込む。
「せんせいが、偉い人が良いって言うまではしっかりしていなさい、って。」
「あぁ、確かにそうね。特に王族の前とかだと許可が出るまではしっかりしていないといけないもの。ふふ、王族。解るでしょう?」
いやあの、なぜわかる前提なのか。
わからない筈がない、と言わんばかりの口調。流石に疑問を感じつつも、これではわからないフリをする方が難しい、と判断した私は肯定する言葉を返す。
「わかり、ます。王族……そう、なんですね。」
私の返事に軽く笑みを浮かべた母は───
「それにしても魔力で遊ばないって約束、ちゃんと守れてて偉いわね。まぁ、無理に破って怪しまれるリスクを思えば、当然の立ち回りなのかもしれないけれど……」
?
手足が硬直する。驚愕の表情を無理に押し潰したことで表情筋が悲鳴を上げる。
動け。驚くな。困惑を、困惑を出せ。
表情筋を無理やり従え、何とか作り上げた困惑の表情。
「お母様?なんの、話、を」
「え?別に無理に隠さなくても良いのに。ふふ。転生者、なのでしょう?」
隠し通さなくてはならなかった真実を、当然のように、心底愉快そうに告げる。
寒気が全身の神経を駆け巡る。
なんで。
なんでバレた。
「なんでバレた!?なんて考えているのかしら。
ねぇシャロン……あなたはね、完璧過ぎたの。愛らしい幼子を完璧に演じすぎた。
あなたは知っていたはずよ。本物の幼子というのはもっと無垢で……それ故に愛らしく、そして邪悪なのだと。
善悪の判別もままならない年頃の子供に完全になりきるなんて、真っ当な感性を持って生きてきた人間には不可能なのよ。それにね───」
絶望的な事実を淡々と、それでいて諭すかのように突きつけてくる母。
策略が、計算が、崩れていく。壊れていく。
なんで。どうすれば。どうする。なんで。逃げるか。
いや母は確実に私よりも強い。逃げきれない。ならばどうする。どうしたら。
アレを───
ダメだ。アレはダメだ。あんなものを使ったら今までの私の行動原理を否定することになる。どうしよう。なんで、こんな。
でも。でも本当に、それしか方法がないのだとしたら。
私、は───
「シャロン」
今までとはどこか違う、凛とした声が響き、私は顔を上げる。
「シャロン。私の目を見なさい。」
いつになく真剣味を帯びたその声色に導かれ、私は言われるがまま母の目を───
───私のそれと同じ、どこまでも沈んでいくような深い蒼色の瞳。
これは。
そんな。
「わたしと、おなじ」
あぁ。あぁ、そんな───
「始め、から」
なぜ。
なぜ。思い至らなかった。
なぜ。疑問を抱かなかった。力の由来を。瞳の起源を。
なぜ。なぜ"希少な力だから"程度の根拠で。
なぜ。
魔力検知が、私だけの力なのだと錯覚していたのだろう。




