5.観察。蒐集。秘匿。
観察、蒐集、秘匿。
これは生存のため僕───いや、"私"が決めた異世界生活の3ヶ条であるが、この中で何が重要かと言えば当然、「秘匿」である。
観察は重要だ。人々の行動パターン、建物の構造、おおまかな1日の流れ、季節の移り変わり。
これらの情報の有無では立ち回り易さに天と地の差が生まれるだろう。……しかし、これはあくまで「秘匿」を補強するための要素に過ぎない。
秘匿性を高めるために観察し過ぎた結果、怪しまれてしまった?ありえない。論外である。
蒐集は必要だ。この世界の文化、人のあり方、言語、人以外の存在の有無、そして……転生者の扱い。
これらの情報の有無で立ち回り易さはもちろん変わるし、ゆくゆくはこの秘密塗れの生活の必要性の判断材料になる、重要な情報を得る機会になり得るだろう。……しかし、「秘匿」が破られる危険を犯して得た情報が自らの危機的状況を証明するだけの代物であったなら?
迫り来る災害を前に、巻き込まれる危険を冒して得た情報がその災害が如何に危険であるかを証明するだけのものであったなら?
論外である。
故に。秘匿。
秘匿された生活の中で確実な隙を突き、可能な限り情報を吸い上げ、精査する。
秘匿は徹底されなければならない。
生存の道標を見出すまで。
あるいは、この身体を本来の持ち主に返す術を見出すまで。
そうして3年の月日が流れた。
情報蒐集の結果、生まれた頃から有していた魔力検知(仮称)が、歴史的にも希少な異能であり、そしてこの城でこの力を有している者がいる可能性は極めて低い、という結論を得ることができたのはまさに僥倖であった。
この城に関わる人々の挙動は把握した。基本的な行動パターン、不定期で起こす複雑な挙動。無論他人の動きを完全に読み切ることは不可能だ。しかし、全ては読めなくても、ほぼ確実に安全なタイミングを見抜く程度のことならできる。
その隙を用いて季節も、言語も、暦も、理解した。扱える。無論、「蒐集」作業以外で扱うことはないが。
観察した。把握した。理解した。蒐集した。秘匿し続けてきた。
隙を突いて本という本を、本棚の端から端まで読み尽くし、そして転生者に関わる記述、「秘匿」の補強に役立ち得る記述を全て"日記"に写してきた。
(……さて、そろそろ3年か。転生者関連だけでも一度整理しようかな。)
"日記"を開き、転生者に関わる情報を指定。まとめて表示させる。なんと薄く、少ない情報だろうか。
転生者に関する情報
・突然現れる。
・出処不明の知識を有する。
・どの国にも転生者の知識によって栄えた歴史が存在する。
転生者たちの華々しい歴史が、活躍だけが目に映る。彼らは突然現れ、祖国に繁栄を齎し、そしていつもどこかへ去っていくのだ。跡形もなく。元々そんな者しなかったかのように。
単純に本当の故郷に帰ったのか、どこか遠くへ行って平穏に生涯を終えたのか。
あるいは───
各国の繁栄の立役者たる転生者達は、どこへ消えたのだろうか───
(──!)
異能が強大な気配を捉える。
近づいて来る。私に匹敵する魔力量。恐らくこの城で最も強いであろう男。
方向は……後ろ。"楽しげに"城を駆け回っていた私は、ゆっくりと足を止め、静かに、それでいて何かを待ちわびるかのような潤んだ瞳で振り向いて───
「お父様っ!」
口角を上げ、歓喜溢れる上擦った声で張り上げた。
さらっと解説
「日記」
人間が生まれる時から有する、潜在意識の領域を巨大な記録媒体と見なし、記録、析出、削除という形で介入する。
目で見るだけで記録が可能であり、また、記録した情報の検索、並べ替え、削除も容易であるため凄まじい使い勝手を誇る。
シャロン(主人公)が編み出したオリジナル魔法。メモ帳要らずの便利魔法のため、普及させると文官たちの仕事が少しだけ楽になる。




