1.はじめての明晰夢
「シャロン・シルファリア嬢。貴方が好きです。どうか。どうか私と結婚して頂けないでしょうか?」
顔が引き攣る。
どういうことだ。意味がわからない。約束と違うじゃないか。
怒りどころか殺意すら滲む視線を傍らで見守るクソ腹黒陰湿お父様に向ける。
してやられた。なんだあの顔は、「勝った」とでも言いたいのか。というかアレが暗黒微笑か、本物初めて見た。
いや、そんなことよりこの状況をどう対処するか考えなくてはならない。いっそ刺客でも放って拉致ろうとしてくれたらどんなに楽だったか。こういう真っ直ぐな好意が1番困る。
というかなぜ日本の一般男子大学生(19)だった私がこんな目に会わなくてはならないのか。
ああ、そうだ……全てはあの朝(多分)から始まった───
なんとも言えない名残惜しさを覚えつつも、謎の解放感と共に目を覚ます。朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、日曜日という名の最高の1日が始まる───
そんな想像とは全く違う状況に、僕は内心首を傾げる。
まず、文明の光に満ちた現代社会ではそうそう目にすることの無いような一面の暗闇。そして都会では決して味わえないと本能で解るほどの綺麗な空気。また、それ以外にも奇妙な点がいくつか。
(身体が、動かない…!)
いや、決して金縛りの類ではない。むしろ、僕の意思に反して勝手に動いている。
赤子の産声と思わしき声と、安堵したような歓声が鳴り響く。
態々「と思わしき声」などと付けているのは、その産声(?)を発しているのが自分の喉であると理解していたから。
(なんだこれ、明晰夢か?人生初の明晰夢が自分の誕生シーンとは、なんとも……。)
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。」
この奇妙な状況を「自身の深層心理に紐付けられた明晰夢である」と結論付けた僕の意識は、最後の最後にその結論が覆されたことに気づけないまま、謎の眠気によって静かな水底に沈んで行った。




