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昔の同級生を脅して言うこと聞かせてみた5

 数時間後。

 隣町の海水浴場。とは言え、この季節だ。泳いでいる人はいない。

 太陽が水平線に沈もうとしていた。

 安登矢はパンツ一枚で砂浜に立っていた。自分の体を抱いている。

「す、菅谷、寒い」

「俺も寒いよ。ここまで付き合ってやってんだからぐだぐだ文句を言うな。始めるぞ」

「ぐぅ……」

 悔しそうな安登矢を奏介は鼻で笑う。

「心配するな、目に線くらいはいれてやるよ」

 奏介はスマホの画面をタップした。

『あ、あの、この度は不適切な動画を投稿してしまい、申し訳ありませんでしたっ』

 頭を下げる。

『本人には謝罪し、動画は削除させて頂きました。皆様に不快な思いとご迷惑をかけたこと、お詫び申し上げます。本当に、本当にすみませんでしたっ』

 奏介は、ふっと息を吐いてライブを切った。シンプルだが、コメント欄には謝罪ライブに肯定的な意見もちらほら出てきた。

 ある程度効果はあるだろう。

 奏介は制服のシャツとズボンを安登矢に投げ渡す。

「まぁ、良いんじゃないか。しばらく動画として残しといてやるよ。他のSNSアカウントにでもURL張っとけ」

「うう、わかった」

 半泣きだった。

「さて、お前、もう一つ謝罪すべきことがあるよな?」

「……な、なんだよ」

 と、気づいた。近づいてくる人影が三つ。見慣れた顔が般若のように歪んでいる。

「!!! す、鈴先輩、柚子ちゃん……キイナさん」

 彼女達だった。

「あと君、謝罪ライブお疲れ様。終わったなら今度は私達と話そうか?」

「安登矢、説明よろしく」

 奏介は腕を組んだ。

「よかったな、大好きな女の子達に囲まれて。慰めてもらえよ」

「あ、菅谷君色々とありがとね」

 鈴先輩の笑顔に奏介も笑顔で返す。

「いえいえ、ごゆっくりどうぞ。俺はこれで」

「ま、待ってくれ菅谷、待ってくれぇぇっ!」



 翌日、昼休み。

 奏介はいつものように真崎と向かい合っていた。

「へぇ、針ケ谷って菅谷とは中学からの付き合いなんか」

「ああ、まぁな」

 奏介は何故か横に座った喜嶋を睨み付けた。

「おい、なんでいるんだよ。自分のクラスへ帰れ」

「いやぁ、目茶苦茶居づらくてさぁ」

 真崎が顎に手を当てる。

「リアルに顔がジャガイモみたいだよな。スゲーな。どうやったらこんな風になるんだ?」

 彼女三人に殴る蹴るの暴行を受けたのだろう。それでもへらへらしていられる神経が信じられない。

「喜嶋」

「ん? どうした?」

「ここで飯食いたかったら購買でメロンパン買ってこい。針ケ谷は?」

「じゃあ、焼きそばパン」

「なっ! なんで俺が!?」


 数分後。

「はぁはぁ、買ってきたぜ!」

 奏介はメロンパンを受け取りながら呆れ顔。

「お前、恥ずかしくないのか? 昔いじめてた相手にパシられて。昨日までバカにしまくってたんだろ?」

「くっ……!」

 すると喜嶋は真崎に声を潜めた。

「なあ、菅谷っていつからこんなんなんだ? 怖いなんてものじゃないんだが」

「んー、中学の頃はもうこんな感じだったな」

「マジか」

 と、詩音と水果が近づいてきた。

「ねぇねぇ、奏ちゃん、針ケ谷君。今度手作りお弁当対決しよ!」

「なんだそれ」

「文字通りさ。企画は詩音だよ」

 水果の説明なしでも大体事情は分かる。

「お前、おばさんに迷惑かけるなよ」

「大丈夫だって、努力はするから」

「……まあ、しおの弁当は中々だけどさ」

「ふふふー、でしょ? 侮れないでしょ?」

「椿は料理得意なん?」

 真崎が問う。

「簡単なものならって感じだね」

「じゃあね! よろしくー」

 二人は教室を出て行った。入れ替わりでヒナ達が入ってくる。

「あ、菅谷くーん」

「どうした?」

「お弁当の話! オムライス作るから楽しみにしててね」

「オムライス弁当?」

 奏介が問うと、嬉しそうに頷く。

「そうそう」

「そっか、楽しみにしてる」

「へぇ、そりゃ珍しいな」

「でしょー? もちろん、針ケ谷君とか皆にも作るからね!」

「あたし、そんなに得意じゃないのよね……」

 わかばは少し憂鬱そうだ。

「橋間は上手そうなイメージだけどね」

「え!? なんでよ!?」

「いや、意外に上手そうな感じがするというか」

「意外……?」

 モモは一歩前に出た。

「私、ウサギのお弁当にするから」

「須貝、まさか」

 モモは、はっとした様子で、

「キャラ弁。ウサギの」

「そ、そうか。えーと、見るの楽しみにしてるよ」

 一瞬、さばくのかと思ってしまった。

「じゃあね!」

 ヒナが手を振って、三人は教室を出て行った。

 喜嶋が再び真崎に小声で、

「も、もしかして菅谷ってモテるのか!? 女の子に!?」

「まぁ、どっちかって言うとモテるだろうな」

「おまっ、女子とまともに話したことないって言ってたじゃんか! 嘘つきっ」

「なんでお前に本当のことを話さなきゃならないんだ?」

 喜嶋は顎に手を当てた。

「それにしても……たしか、伊崎さんだよな? 良いな。それに一緒だったショートにカチューシャの娘も……ギャルっぽい娘と清楚な娘も中々。ふわふわロングの娘も良いねぇ。レベルたけー」

 奏介は素早く喜嶋の顎を片手で掴んだ。

「おぐ!?」

「お前、あいつらに手ぇ出したらただじゃ置かないぞ。このクズが」

「だ、だいひょうぶだって、三人にフラれたきゃら、今フリーで」

「そういう問題じゃねぇんだよ。彼氏でも作ってろ」

「まさか、彼氏云々てお前が仕込んだのか!?」

「うるさい。黙って食えっ」

「あははは」

 真崎は二人の様子を笑いながら見ていた。

この話と関係ないのですが『連火が所属していた不良グループに反抗してみた』に加筆する形で最後まで投稿させていただきました。この作品らしからぬ雰囲気でしたが(作者の力不足で上手く書けませんでした……)気になる方がいれば、見に行ってやって下さいませ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が、かつてのクラスメイトに対して執念深く報復を狙っているのに、実際に動くのは相手から喧嘩を売られたと思ってからというところに理性的な狂気を感じて好きです。 [一言] これまでの元クラ…
[一言] ま、まさかうさぎを、、、、あっ、良かった、捌かれなかった。
[気になる点] どっかの牛乳をムダにしたヒトが肩をポンと叩いたと聞きました。
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