昔の同級生を脅して言うこと聞かせてみた1
学校帰り、喜嶋安登矢は自分の学校の前の正門で付き合いたての彼女を待っていた。二年生で、図書委員を務める大人しめの先輩だ。
「あと君お待たせ」
声をかけられ、安登矢は顔を上げる。
「おつです、鈴先輩」
「帰ろっか」
「どこかでお茶して行きません?喉渇いちゃってー」
「うん、良いよ。この前の喫茶店とかどうかな」
「お、ケーキが旨いとこですよね! そこにしましょ」
「うん」
嬉しそうに笑む鈴。童顔の安登矢の笑顔が可愛く感じるらしい。告白されたのは先日のこと。タイプではなかったが、好意を持たれているなら拒む理由もない。
「今日は珍しいよね。学校で待ち合わせなんて」
「まぁ、たまには? クラスの野郎どもに冷やかされて大変だったけど」
「そうなの? じゃあ、やっぱり次はお店かな。……ねぇ、明日も学校帰りにどこか行かない?」
「明日かぁ」
(んー、明日は柚子ちゃんとデートの予定なんだよなぁ。まぁ、今日風邪で休みだし、明日も来られないかもな)
彼女二号の柚子とは付き合い初めて三ヶ月が経つ。今日は欠席のため、学校での待ち合わせにしたというわけだ。
彼女一号は一駅先の別の学校なので調整は簡単だ。
「クラスの奴と予定あるかもしんなくて、先約だったからさ。でも、中止になりそうだからまた連絡しますよ」
「そっか、わかった。よろしくね」
安登矢はいつもは通らない細い通りに入ったところで辺りを見回した。
「先輩、手、繋ぎません? 誰かが来るまで」
手を差し出すと、鈴は顔を赤らめて目を見開いた。
「う、うん。……ありがとう」
神様的な存在が空気を読んだのか、しばらく人とすれ違うことはなく、肩を寄せ合って歩いた。
(うーん、鈴先輩可愛いー……でも)
彼女の話を聞きながらぼんやりと道の先を見る。
(なんか刺激的っつーか、おもろいことないかねぇ)
と、前方のバス停に同じ高校の制服を来た男子生徒を見つけた。
「うう、残念」
「あはは、じゃあまた次の機会に」
お互いに手を離す。
(空気読まんやつめ)
通り過ぎ様に顔を見ると、
(ありゃ?)
見知った顔だった。
(……ん、小学生の頃の、名前……なんだっけか)
あまり見た目が変わっていない気がする。
鈴を送り届けてから、自宅へ帰り、机の上で卒業アルバムを開いた。
「お、これこれ。菅谷奏介か。あー、いたなぁ。……そういやこいつ焚き付けて色々やらせるの、おもろかったよな」
学校にも慣れてきて、毎日退屈に感じるようになってきたのは最近のこと。三人の彼女達ともびっくりするくらいバレずに付き合えてしまっているので、スリル感ゼロなのである。
「こいつ、SNSとかやってっかな」
何か面白い遊びが出来ないだろうか。
○
三日後、安登矢は奏介のクラスに突撃した。今までなぜ同じ学校だと気づかなかったのかと疑問に思う。
彼のクラスメートに呼び出してもらうと、彼は少し怯えたような表情で歩み寄ってきた。本当に変わっていない。言ってしまえば、いじめたくなる雰囲気である。
「よっ!」
「え……」
「ありゃ、覚えてない? 同じ小学校だった喜嶋」
安登矢は自分を指でさし、にっと笑ってみせる。
「喜嶋……あ、喜嶋、君。あれ、同じ学校……だったんだ」
「みたいだねぇ、ちょっと良い? 久々だし、話さん?」
「え、いや」
強引に奏介を連れ出した安登矢は屋上へと連れてきた。
「うひゃ、寒むー。風つっよ」
「……喜嶋君、俺に何か用事なの?」
「あー、これ見てくんない?」
喜嶋はスマホを操作して、奏介へ見せる。
表情が固まったのを見て、安登矢は内心でほくそ笑んだ。
「この間、同じ小学校だった石田が逮捕されたじゃん? あいつらのプロフィールがこの掲示板にさらされてんのな」
タイトルは『桃原地区のゲーセンでかつあげされました。皆さん、これをどう思いますか?』だ。
明らかに挙動不審になる奏介。これは当たりかもしれない。
「で、一コメ目が『被害総額百万超えてるらしいです。警察に届けてもお金が戻ってくる気がしません。泣き寝入りですか?』でその下に個人情報全部載ってるんだわ。これ結構酷いよなぁ。かつあげ現場の写真もあったんだけど、あれって菅谷だろ? この掲示板に書いたのお前だろ?」
奏介は目を見開く。
「な、なんで、喜嶋君がそれを」
「お、正解? 自白助かるわぁ」
「え」
「いや、証拠なかったけど、やっぱりさらしたの、菅谷なんだ? へえ、やり返し方えぐいねぇ。やるじゃん。小学生ん時はなーんも出来なかった癖に」
ニヤニヤと笑う。
奏介が複雑そうに目をそらす。
「こういうことやって良いの? ネットに個人情報拡散とか普通に犯罪じゃん?」
奏介はびくりと肩を揺らす。
「バレたら名誉毀損だな」
「……でも、俺、そうしないとかつあげを」
「他にやり方あるんじゃね? 誰かに相談とか警察に言うとか。こういう解決の仕方はまずいっしょ」
「……」
「警察に届けても良いけど、俺の言うこと聞いてくれたら勘弁してやるよ」
「警察……」
奏介は青い顔をする。
「なーに、簡単なことだよ。お前が好きだった檜森リリスちゃんに二度目の告白してみよう計画ぅ~」
「檜森、さん? な、なんで」
奏介が動揺する。
「面白そうじゃん? 今回はサポートするからさ。な? それで犯罪者にならずに済むなら良いでしょ」
彼はいじめられている身でありながら、檜森リリスに愛の告白をするというバカな行動に出たことがあるのだ。それを煽ったのは他ならぬ安登矢であり、その時リリスと付き合っていたという事実がある。
「や、やだよ。第一、檜森さんが俺なんか」
安登矢はすっとブレザーのポケットからスマホを取り出した。
「でも、個人情報拡散の言質、録音しちゃったから、やらないとマジで警察届けるよ?」
奏介は表情を引きつらせる。
「決まりぃ。計画立てようぜ。リリスちゃんを彼女にするためのさ!」
その気にさせて花束でも持たせて告白させるなんて面白そうだ。
「……わ、わかったよ。だから警察」
「おっけおっけ。心配しなくても大丈夫だって、全力でサポートするって言ったろ? ほら、行こうぜ」
屋上の出口へ向かう背中を、奏介は睨み付けた。
「……その喧嘩、買ってやるよ、喜嶋」




