表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/392

市塚父娘after3

 すれ違い様の口攻撃に備えて身構えていたのだが、

「ふんっ」

 イリカは鼻で笑って、そしてお付きの家政婦達はやはりニヤニヤと笑いながら、ただ通りすぎて行った。

 わかばは眉を寄せる。

「感じ悪いわね」

「ていうか、ここの家政婦の教育どうなってるの? 客に挨拶もなし?」

 ヒナは不満そうに頬を膨らませている。

「……どうした? 須貝」

 モモが憂鬱そうにうつむいている。

「生卵、あの人達が」

「えっ、あいつらが投げたの!? ほんと?」

「し、信じられないわね。笑ってたわよ? さっきのあいつらもだけど、言いつけとか言いながら、個人的に楽しんでるんじゃない?」

「ちょっと、ボク文句言って」

 奏介は追いかけていこうとするヒナの肩を掴んだ。

「まずは須貝の父親に挨拶だろ」

「離して、菅谷くん。あの家政婦達、モモをなんだと思ってるの? 雇われてるだけの癖にいい気になって。許せない」

「ちょっと落ち着け、あの様子だとまた何か仕掛けてくるからその時に」

「でも」

「僧院も立場的にまずいだろ? 俺がなんとかしてやるから。な?」

「…………君がそう言うなら。でも、ちゃんと再起不能にしてね?」

「あたしも加勢してあげるわよ。金持ちの家とは無縁だし」

 当のモモはその時のことを思い出したのか、沈んだ顔をしていた。



 市塚創玄の部屋は数ヵ月前と変わっていなかった。

 真新しい畳の香り、独特の風景画に立派な壺、床の間には掛け軸と刀が置かれている。

「ご無沙汰しています。この三人が荷物の運びだしを手伝ってくれる友人です」

 創玄の視線はすぐに奏介へ向いた。

「……お前か」

「お久しぶりです、お邪魔しています」

 奏介はすましてそう挨拶をした。

「まあ良い。モモ、最近はどうしている? 体調はどうだ」

「はい、変わりなく。最近、ウサギを飼い始めました」

 奏介はぽかんとした。

 初耳だ。動物園でウサギを気に入っている様子ではあったが、まさか飼うとは。

「ウサギか」

 創玄はそう言って、懐に手を入れた。立ち上がって歩き、モモの前に取り出したポチ袋を置く。

「餌代くらいにはなる」

「え? あ、ありがとうございます」

「ん。今日はもう良い」

 挨拶はものの数分だった。素っ気なくはあったが、

「なんかいい感じじゃなかった?」

 創玄の部屋を出てから、わかばが戸惑ったように言った。

「うん、モモのこと、めっちゃ気にしてたよね」

 ヒナは少し嬉しそうに言う。

「やっぱり、そう感じる?」

 モモの問いかけに奏介も頷いた。

「感じるというか、あれはそうだと思うぞ。普通に一人暮らしの娘を心配してる」

 モモは、そっかと小さく呟いた。嬉しくもあり、複雑でもあるのだろう。

「まぁ、だからこそ、イリカお嬢様の嫌がらせが酷くなってるんだろうな」

 要は嫉妬だろう。色々と身構えていた方がよさそうだ。

 と、離れへ行く廊下を歩いていると、足に何かが引っ掛かったような気がした。

「!」

 何か仕掛けがしてあったのか、頭上から何かが落ちてくる。

「須貝っ」

 奏介はモモを後ろへ引っ張る。それは小さなバケツと水、そして雑巾だった。床に落ちる際に、盾になった奏介の顔や体に水が飛び散る。

「っ……」

「す、菅谷君っ」

 すると、前から歩いて来る家政婦二人組の姿が。

「あーら、ごめんなさーい? 変なところにバケツを置いておいたからかしら?」

「あらあら、濡れちゃって申し訳ないわぁ」

 奏介はギロリと二人を睨んだ。

「そう思うなら土下座して謝罪でもしろよ。客が通る場所に掃除用具置いとく家政婦なんてポンコツもいいところだ。それで金もらってんのか? この屋敷はポンコツの集まりみたいだな」

「なっ!?」

 表情の引きつり方で分かる。煽り耐性なしだ。

「ちょっと、菅谷くん……。ダメだよ。さすがにそれは失礼。本人達は優秀な家政婦してると思ってるんだから可哀想だよ」

「なんですって……?」

 ぴくりと眉を動かす家政婦達。

「いや、でも僧院。教えてやらないと成長しないだろ?」

 ヒナはため息を一つ。

「教えたって成長はしないよ。お客さんにこんな対応してる時点でたかが知れてるって」

「そうだな。治らないバカってあるよな」

 家政婦の一人がダンッと床を踏んだ。

「黙ってればいい気になってっ、何様なの」

 わかばは口に手を当てた。

「え……モモのお父さんに許可をもらってお邪魔させてもらってる、ここのお客だけど、何様ってどういうことよ? お客よ?」

 ヒナはうんうんと頷いている。

「そっちこそ何様だ? 客にどういう態度取ってんだよ。何度も聞くけど、客に嫌がらせすんのが仕事か? それ、家政婦のやることか? 良い年齢して何、小学生みたいなイタズラして喜んでるんだ? ドン引きだよ。ほんと恥ずかしい。こんなのが子供に手本となるべき大人の姿か? 幼稚なイタズラして喜んでるレベルの低さだから結婚出来ないんじゃないか?」

「! 結婚出来ない? してるわよっ、子供もいるし、何勝手に決めつけ」

「えっ、こんな人が結婚して子供がいるの!? 恥ずかしっ、子供にこういうイジメの仕方教育してるんだ……。可哀想……」

 ヒナが憐れみの視線を向ける。

「結婚して子供もいるのに仕事中にしかも客にこんなイタズラして喜んでるのか。あきれるな。親なら真面目に働けよ」

 言ってやると、家政婦達は一度黙った。しかし、まだ納得はしていなさそうだ。

「そういや、須貝に生卵をぶつけたらしいな。スーパーで買ってきたものなら食べ物だろ。食べものを粗末にしちゃいけないって習わなかったのか? そんなことも知らないで働いてんのかよ。そりゃ仕方ないな」

「っ!」

 言い返す言葉が見つからなくなってきたらしい。

「手遅れそうだけど、一応忠告しといてやるよ。ここがファミレスでてめぇらがウェイトレスだったとしたら、さっきのイタズラしたら一発でクビだぞ。学校でいじめやってる奴がバイトしてても客にそんなことやらないだろ」

「う……」

「どう思う? 須貝」

 モモは可哀想なものを見る目で家政婦達を見る。

「ここまで言われて初めて気づくのねって思ったわ。なんか、おバカさんてこういう人達に使うのかしら。ていうか、お子さんがいたのね……。親になるって大変なのにお仕事で遊んで楽しそう」

 素直にドン引きしてるらしい。

 家政婦達沈黙。そこへ悠々とイリカが現れた。廊下の惨状を見る。

「まさか、雑巾のバケツをひっくり返しましたの? なんてどんくさいお客様ですの」

「おい、てめぇ、警察呼ぶぞ」

 奏介は静かにそう言った。

afterなのに続いてしまってる……。普通の話にすればよかったですね。

不良グループ2ですが、混乱させてしまったようなので、後でまとめて投稿したいと思います!よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「そうだな。治らないバカってあるよな」そりゃ馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言葉も有るしね。しかしモモちゃんの無自覚口撃が一番大ダメージよな(笑)
[一言] ちゃんと再起不能にしてあげてね という恐ろしい信頼感
[一言] お〜っとこれは痛い!その客は以前父親が真剣振り回して脅迫した相手だという事を完全に忘れているぞ! ここで警察沙汰になったら義理の妹を虐待していた事も 父親が脅迫した事も洗いざらいぶち撒けられ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ