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市塚父娘after2

 奏介は家政婦達を玄関の前に並べていた。

 手には落とされた雑巾を持っている。

「初対面の俺に雑巾落とした理由と目的を説明しろ。何を思ってこんなことをしたんだ?」

 家政婦達は奏介の圧力にうつむいてしまっている。

「……あ、あの、イリカお嬢様の言いつけで」

「そうか、雇い主の娘に言われたなら仕方ないな。それはそれとして、随分と楽しそうだったじゃねえか。嫌々やらされたわりにはニヤニヤニヤニヤ笑いやがって、客の頭に雑巾落としといて取る態度じゃねぇだろうがっ」

「ひっ」

 奏介は舌打ちをした。

「てめぇら何歳だ? やって良いことと悪いことの分別もつかないのか? ここは学校じゃねぇんだよ。金もらって働いてるのに雇い主の客にこの対応か。てめえらに金払ってんのはイリカお嬢様じゃねぇだろ」

「も、申し訳ありません」

「普通の会社で取引先の営業にこんなことしてみろ、速攻で切られるぞ。なあ、成人してる社会人なんだろ? 高校生の俺にこんな当たり前のことを言われて怒られて恥ずかしくないのか?」

「う……」

 奏介は雑巾を彼女達の目の前に出す。

「人の気持ちを考えろって習わなかったのか? 自分が雑巾落とされたらどう思うんだよ? 嬉しいのか? 喜ぶのか? 試しにやってやろうか?」

 彼女達は青ざめて首を横に振る。

「せめてやる相手を確認しろ。俺や須貝以外の客だったらどう責任とるつもりだったんだ。今度契約を結ぶかもしれない会社の社長の頭に雑巾落としたらどうなるか想像くらいつくだろ」

「責任……うーん、大変なことになるだろうなぁ」

 ヒナが呟く。

「市塚創玄さんてテレビに出たこともあるくらい有名だからね。家に来て家政婦にこんなことやられたら一瞬で炎上するよ」

 ヒナは真顔で家政婦達を見る。

「は、はい。軽率でした」

「本当に、すみません」

 奏介はその様子に雑巾を地面に叩きつけた。

「ひぅっ」

「謝罪の言葉が出なかったら警察案件だったかもしれないぞ。よかったな」

 奏介はそう吐き捨てて、

「とりあえず、非常識な言いつけしてるイリカお嬢様と話をつけに行くから、てめえらは真面目に家政婦やってろ」

「は、はいっ」

 奏介はモモへ視線を向ける。

「須貝は? 何か言うことあったら言っといた方が良いぞ」

 モモはじっと家政婦達を見る。恐らく、何度も嫌がらせをされている相手なのだろうが。

 モモは少し考えて、

「今の菅谷君とのやり取り見てなんとなく頭悪いなって思ったわ。先のこと、何も考えてないみたいだし大丈夫かなって」

 嫌味ではなく、ドン引きしているようだ。『この人達おかしいんじゃないの?』とでも言いたげな目で見る。

 顔を引きつらせる家政婦達。

「他に言いたいことないのか?」

「ええ、大丈夫よ。行きましょう」

 縮こまる二人を置いて、家へ上がる。

「お邪魔します」

 モモについて廊下を歩く。まずは父親に挨拶をしてから離れに行って運び出しの予定だ。

「ガチ説教だったわね……」

「うん、悪口でも罵倒でもなくお説教。ふざけてたら不意打ちで怒られた小学生みたいになってたけど」

 呆れ返るわかばと苦笑気味のヒナである。

「ていうか、モモやるじゃない。一言でもちょっとダメージ与えられたんじゃない?」

「うんうん。毎回じゃなくてもいいんだよ。たまには言い返さないとね。つけ上がるから」

「別に言い返したわけじゃなくて、単純にそう思ったから。でも頭悪いって言ったのは良くなかったかしら」

「あいつらが全部悪いわけじゃないけど、イリカお嬢様の言いつけを利用して楽しんでたわけだし、それくらいは大丈夫だろ。……ん」

 噂をすればなんとやら。前方からイリカお嬢様登場だ。

更新不定期だったり、間が空いたりしても読んで下さる方が結構いて嬉しく思います。

いつもありがとうございます。暇潰しに利用して頂けたら幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで散々見下してきたモモにこの人たち頭おかしいんじゃないの?とか思われてるのホンマ笑う。
[一言] いや~、相変わらず奏介のカウンターはキレてるな。 的確に急所にボコスカとくるね。
[一言] ガキの虐めじゃないんだからねぇ?まともな大人ならやらないわ(汗) イリカに言われた時点で雇い主である父親に報告するのが先だよね(笑) これが家政婦協会やらの派遣系統ならば、報告された時点で首…
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