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注意書きを無視して怪我をしたのに飼育員に当たっていた子どもの母親に反抗してみた2

 奏介の言葉にぽかんとした母親は徐々に顔を赤くしていく。

「なん……ですって!?」

 表情も怒りに歪む。

「文字が読めないみたいなので義務教育を終了していないのかなと思いまして」

 奏介がしれっと言うと、母親はこの上ないくらい拳を握りしめた。殴り飛ばすのを堪えているようだ。理性はそれなりにあるらしい。

「文字が読めないわけがないでしょうっ、いきなり現れてなんなの? バカにしないでちょうだいっ」

「そうですか、ではあの貼り紙読めます?」

 奏介が指で示したそれへ視線を向ける母親。

「読めるんですよね? なんて書いてあります?」

「……ウサギには、優しく触れてください」

「なんだ、普通に読めるんですね。なのに意味を理解できないんですか?」

「どこまでバカにするの? ちょっとあなた、この人なんなの?」

 母親に飼育員の女性が睨まれてしまう。

「え、あ、すみませ」

 謝ろうとした彼女を奏介が手で止めた。

「俺とこの動物園、もしくはこの飼育員さんとはまったく関係ないんですが? 客ではありますが、お客同士の揉め事まで責任持てないでしょ。なんでウサギの飼育員さんがあなたと俺の揉め事の仲裁しなきゃならないんですか? あり得ないでしょ。話そらすために関係ない人に当たるの止めてもらえません?」

「ぐっ……」

「それで、話を戻します。耳を掴んで持ち上げるのは優しく触れるとは言わないですよね? それくらい少し考えればわかりますよね?」

「……はぁ? 優しく触れるのがどの程度かなんてわからないじゃない。うちの勝は六歳よ? 小さい子が分かるわけないでしょう? あれぐらいのことで噛むような動物に触らせてるんだから動物園が悪いに決まってるじゃない」

「そりゃ勝君が分かるわけないでしょ。何当たり前のことを言ってるんですか?」

 母親は眉を寄せる。

「あなたは勝君の保護者ですよね? 優しく触れるというのはどういうことなのか、あなたが教えるべきでしょ。未成年、しかも未就学児の教育は親の仕事ですよ」

 奏介は息を吐いて、

「あなたはウサギがどういう動物か知らないんですか? 人間を噛むこともあるんですよ。まさか、それを知らないとは言わないですよね? もし、あなたが知らない動物だとしたら、自分の大事な子どもを近づけさせないでしょ」

「ぐっ……」

「あと、耳を掴まれたくらいでみたいなこと言いましたけど、一度体験されてはいかがですか? 自分で引っ張ってみるとウサギが何故勝君を噛んでしまったのか理解できると思いますよ。お望みなら俺がやりましょうか?」

 母親はとっさに耳を押さえ、一歩後退。

「……ママ?」

 手当てを終えた勝が歩み寄ってくる。

「あ、怪我大丈夫?」

 奏介が笑顔で問うと少し怯えたようにこくりと頷いた。

「今度はウサギさん、いじめちゃダメだよ? ぎゅってしたら痛いから、やさしくぽんぽんてしてあげてね」

「……うん」

 母親は、はっとした様子で勝の手を引いた。

「帰るわよっ」

「ママ?」

「勝君、またウサギさんと遊んであげてね」

 奏介が手を振ると勝もやや困惑気味に手を振り返していた。

 奏介はふっと息を吐いて、詩音達の方へ戻る。

「それじゃ、次のところ行こうか」

 さすがに他の客や飼育員の視線が痛い。

「うーん、さすが奏ちゃん。めった刺しだったね」

「単純に怖いわよ……」

「いやぁ、菅谷くんのトラブル体質は本物だよね!」

「ついに面倒事へ飛び込んで行くようになったのかい?」

「鮮やかな手さばきね」

 詩音、わかば、ヒナ、水果、モモの順である。

「どこでも平常運転だな、お前は」

 真崎に苦笑気味に言われ、奏介はため息を吐いた。

「良いから、行こうよ」

 と、先程の飼育員と手当てをしていたスタッフが歩み寄ってきた。

「あの、ありがとうございました。先程のお客様を止めて頂いて」

 と、飼育員。

「助かりましたよ、ああいうのが一番厄介で」

 手当てスタッフはうんざりしながら言う。

「ちょっとそういうこと言わないの」

 飼育員の方が先輩なのだろうか。

「いえいえ。何か苦情が入っても謝罪しなくて大丈夫ですからね。客同士の揉め事なので」

 奏介はそう言って会釈をし、その場を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶっちゃけ動物園とか遊園地とかの注意文を子供がきちんと理解するのは無理。親がちゃんと言い聞かせてあげないといけないに決まってるでしょうに。それなのに子供が怪我すると親はスタッフの管理が~とか…
[一言] そろそろラブコメを書いてみないかい?(^ω^)
[一言] うーん相変わらず正論のデンプシーロール
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