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お小遣い関係で嫌がらせをしてきた親戚のおばさんに反抗してみた2

 金塚はぽかんとして、奏介を見る。

「え?」

 そのまま固まってしまう。初めて使われたであろう、汚い言葉と暴言に思考がショートしてしまったのかもしれない。

 詩音は小さく両手を合わせていた。御愁傷様です、と口元が動くのが見えた。

 それはそれとして、まったく言い返しがないのもつまらない。

 奏介は網に上カルビを並べながら笑顔を作った。

「あれ、通じなかったのかな? 俺は、自分のお金で高級なお肉を食べるので、奢りとかどうでも良いですって言いました」

 上手く理解が追いつかなかったようなので柔らかい言い回しに変えてあげた。

「なっ……なっ! 安友子さんっ、こんなにお小遣いを渡して」

 安友子達の隣の席を見やる。

「それ、奏介のお金ですよ」

 安友子が眉を寄せながら冷静に言う。 そして、

「というか、うちの息子に向かって帰れってあんまりじゃありませんか? 前からあまりよく思っていないのはわかってますけど、ここへ連れてきておいて何を考えてるんですか?」

「……里子さん、奏介君に対して酷いですよ」

 安友子、佳乃それぞれに奇異の目を向けられ、たじろぐ。堂々と親の前でこんな発言をすればこの反応も仕方ないだろう。

「そ、そんなことより、こんなにお金を持っているのはおかしいでしょうっ」

 指をさしてくる金塚に奏介は肉をひっくり返しながら、

「高校に入ってバイトしてるんですよね」

「奏ちゃん、日雇いとか色々やってるもんね……」

「そうそう。自分の金だから」

 奏介は焼き上がった上カルビにタレを付けて口へ運ぶ。

「うっま。さすが高級」

 金塚はバンッとテーブルに手をついた。

「なんなのあなた、生意気じゃない?」

「生意気なのはあんただろ」

 肉を食べながら言う。

「年金で生活してるくせに、親戚の子どもに嫌がらせするために高い店連れてくるとか金をなんだと思ってんだ?」

 顔を真っ赤にして震えている金塚を鼻で笑う。

「何か言いたいことがあるなら言ってみろよ。なんなら殴り合いでもするか?」

 とりあえず煽る。言い返してくるまで全力で煽る。

「いつもみたいに嫌味でもなんでも言ってみろ」

 震えるばかりでまだ言い返して来ない。

「世の年金受給者はそのお金で日々の生活費をやりくりしながら、そこから孫に小遣いやったり趣味を楽しんでるっていうのに、使い方が嫌がらせって。なぁ、もらう価値ないから他の受給者へ譲れよ。国もそんな風に使って欲しくないだろ」

「っっ!!」

 口元をひくひくさせる金塚。

「こ、これだから男は嫌いなのよっ」

「男って括りでか過ぎだろ。俺は金塚里子が大っ嫌いだな。小さい頃から母さんや佳乃おばさんを丸め込んだ上で、隠れてネチネチネチネチと。姉さんや詩音も洗脳しようとしてたしな」

 金塚は目を見開いて、口を半開きにした。

「いい加減何か言えよ。黙ってたら俺が大人しくなるとでも思ってんのか?」

「っ……」

「俺の話聞いてんの? なぁ、耳がないのか口がないのかどっちだよ。クソババア」

 金塚は目を見開いて立ち上がった。奏介は肉を咀嚼しながら見上げる。

「うるさい。黙りなさいよーっ」

 金塚はそばのトングを掴んで振り上げた。安友子達から悲鳴が上がる。

「そ、奏ちゃんっ」

 振り下ろされたそれは奏介の顔に向かっていく。あまり早い動きではなかったため、奏介はそれを手のひらで受け止めた。それでも、ギザギザしたトングの先が手のひらに食い込み、傷を作るのが分かった。少量だが、血が滲む。

 店内が騒然としている。駆けてくる店員の姿が見えた。

 奏介はすっと彼女に顔を近づける。

「他人に怪我負わせといて、ただで済むと思うなよ。傷害罪に親戚とか関係ねぇからな」

 金塚がびくりと肩を揺らす。怯えた顔でこちらを見るので、何も言わず笑ってやった。ことの重大さに気づくのが遅すぎるのだ。



 その後、店が警察を呼び、金塚は事情を聞かれるために警察署へ連れて行かれることになった。トングで人を刺そうとしたのだ。逮捕だろう。しかし、釈放は早いのではないかと予想する。

 焼肉店の一角、ソファー席で奏介も事情を聞かれることになった。警官二人と向かい合う。二人の表情はどこか厳しい。

「金塚さんが言ってたんだけどねぇ。君に色々暴言を吐かれたとかなんとか。そうなのかな? 怪我負わせようとして、必要以上に挑発したとか、ない?」

 と、中年警官。

 金塚に洗脳され済みのようだ。さすが口が上手い。警官さえも味方に引き入れようとは。

「それはおばさんがおっしゃったんですか?」

 奏介の笑顔の圧に警官達が一瞬怯む。

「まぁ。証言だね。……誰でもね、挑発的な暴言を吐かれたら怒るものなんだよ。それを君が意図的にやったのだとしたら、それは良くないことだよ」

 隣の青年警官が手帳を開く。

「金塚さんの話に依ると、かなり煽ったんだってね? 殴り合いでもするか? とか言ってたそうじゃない」

 奏介はスマホをテーブルに置いた。画面をタップ。


 

『お久しぶりです』

『変わってないわねぇ。代わりに詩音ちゃんが姫ちゃんの妹ならよかったのに』

『あの、おばさん。俺は』

『話しかけて来ないでもらえる? 不愉快だわぁ。言っておくけどお小遣いは姫ちゃんと詩音ちゃんの分しかないから』



『ところで、なんで付いてきたのかしらぁ? あなたに奢るつもりはないのだけど』

『帰ってもらえない?』



 警官達はぽかんとしてスマホを見つめる。

「お巡りさん達には関係ないことですけど、七、八年前からずぅっとこんな感じで煽られてたんですよね。今日も他の子のお小遣いはあるけど、お前の分はないとかお前に肉を奢るつもりはないから帰れとか。で、それに対して頭に来た俺は、殴り合いをしたいのか? と問いましたけど、それはダメなことでしたか? お巡りさん達はこう言った差別的な発言をしたあのおばさんが正しいと? こんなことを言われてる俺が我慢しない方が悪いとでも?」

 警官達は目を見開く。

「そう、言いたいんでしょうか?」

 その場がしんとなる。

 中年警官が咳払い。

「まぁ、落ち着いて。……そこまでは言ってないよ。でも殴り合いをとかそういう攻撃的なことを言うのは」

「つまり差別や嫌がらせは我慢するのが正しいという認識で合っていますか? 言い返してはいけないと」

「ち、違う違う。暴力沙汰にしようと誘導するのは良くないってことだよ」

 青年警官が慌てたように言って、中年警官がゆっくりと頷く。

「そうですか。確かにそれは俺が悪いですね。本当にすみませんでした」

 そう頭を下げられ、刑事二人は顔を見合わせる。

「と、とにかく煽るのはいけないっていう話だから。怪我、お大事にね」

 それから何点か話を聞かれ、ようやく解放された。

 店を出ると、三人が待っていた。

「奏ちゃんっ」

 涙目になりながら走り寄ってくる詩音。

「大丈夫? いや、大丈夫っていうか大丈夫じゃないけどさ、もう、心臓止まるかと思ったよっ、怪我痛い?」

 すでに手当てはされているが、病院をすすめられたのでこの後行くことにする。

「別に、もう痛くないし大丈夫だよ」

「うわーんっ、もうっ」

 しがみつかれて、ぐわんぐわんと揺らされる。あの時、とんでもない修羅場だった。こうなるのも仕方がない。

「奏介」

 安友子と佳乃が歩み寄ってくる。

「あんた一体いつから、里子おばさんに」

 金塚のタガが外れて、堂々と嫌味を言って来るようになったのは最近、ここ二、三年のことだ。

「……もういいよ」

 佳乃にも色々聞かれたが、すべて答えなかった。

 金塚里子が釈放か裁判か、なんてどうでも良い。

 ただ、安友子はもう家には入れないと、言ってくれた。それだけでも今回のやり合いに価値はあったのではないかと、思う。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] コレのafter無いですか? 差別オバサンと、 一方の証言だけ鵜呑みにする警官コンビ!
[気になる点] 子供が一人だけ小遣い貰っていないのに、そのままでいた事が不可解です。 詩音今まで優遇されて黙っていたいたくせに、今更大丈夫とか精神を疑います。 [一言] 小学生の時から差別されていた…
[一言] この親戚おばさんの件で母は出てきてたのですねぇ。 小学生の時といい、このおばさんの件といい…… 下手したら母親も復讐対象になりかねない危うい状況(^_^;)
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