お小遣い関係で嫌がらせをしてきた親戚のおばさんに反抗してみた1
昔からよく思われていなかったのは知っている。年の離れた姉と比べられて、心ない言葉を浴びせられたこともある。
一番の思い出は強烈だ。
詩音、姉と共に、いわゆる親戚のおばさんである金塚里子に集められた。
「はい、お小遣い」
ニコニコと笑いながら詩音と姉に袋を渡すと、その視線が奏介に向いた。
「あら、いたの? あなたの分はないわよ」
半笑いで、冷たく言われ、本当に何もくれなかった。欲しかったとか欲しくなかったとかではない、明確に差別された。姉はその後言い返してくれたし、詩音は心配するように声をかけてくれたが、金塚は奏介の泣きそうな様子を楽しむように帰って行った。
今でもあの蔑むような笑みは忘れられない。子どもという弱い立場へ対してのその態度、学校で色々あったこともあって奏介の心に深い傷を残した。
奏介が帰宅すると、女性ものの靴が並べられていた。見慣れぬ形と色だ。母のものではないだろう。
「ただいま」
そう言ってリビングの戸を開けると、母が客と談笑していた。
「あらぁ、そうなの。姫ちゃん就職したの」
「もうずっと前ですよ」
「早いわねぇ。残念、会いたかったのに」
そう言って彼女、金塚里子は奏介へ視線を向けた。
「あらぁ、まだいたの? この子」
母の顔が少し曇る。
「いや、うちの息子ですから」
「姫ちゃんと姉弟とは思えないわよねぇ。安友子さんも大変だわぁ」
安友子は奏介の母の名前である。
「うちの奏介は」
金塚はすっと立ち上がった。シックなワンピース姿、還暦を過ぎているものの背筋も伸びていてメイクもしっかりとしている。
「詩音ちゃんに会ってこようかしら」
伊崎家は明確には親戚ではないのだが、詩音母ともかなり仲が良いのだ。
奏介は道を譲る。
「お久しぶりです」
金塚はふんと鼻を鳴らした。
「変わってないわねぇ。代わりに詩音ちゃんが姫ちゃんの妹ならよかったのに」
「あの、おばさん。俺は」
「話しかけて来ないでもらえる? 不愉快だわぁ。言っておくけどお小遣いは姫ちゃんと詩音ちゃんの分しかないから」
金塚はせせら笑うように言って、玄関へ向かう。
「安友子さん、お茶ごちそうさま」
奏介は彼女の背中を無表情で見ていた。
「奏介」
気づくと安友子が奏介の前に立っていた。
「ん?」
安友子は無言で奏介の頭を撫でる。
「気にしなくて良いからね。おばさんはああいう人なの。母さんは姫も奏介もどっちも大事だから」
「いきなりどうしたの」
さすがに照れ臭くなり、視線をそらす。
「いや……だからね? おばさんを巻き込んで警察沙汰にするのだけは勘弁してあげて」
安友子は顔を引きつらせていた。
「それって……フリ?」
「待ちなさい、母さんは芸人じゃないから」
「冗談だよ。まぁ、おばさん次第だけど」
安友子はため息を吐いた。
「母さん、祈ることしか出来ないわ」
◯
その日の夕飯に誘われた。場所は高級焼き肉店、メンバーは奏介、詩音、母安友子、詩音母の佳乃である。
店内が混んでいたため、母二人と金塚、奏介、詩音で分かれた。ちなみにこの配置は金塚の希望だ。
奏介は詩音と金塚で七輪を囲むことになったのだが、
「詩音ちゃん、たくさん食べてね?」
ニコニコと話しかけられ、
「はい! ありがとうございます」
嬉しそうに答える。それと同時に隣の奏介をちらちらと窺う。
「ここのお店はお肉が美味しくてねぇ。もう一通り頼んで置いたから。今日は全部奢りよ」
母達の方も同じメニューを注文したようだ。
「ところで、なんで付いてきたのかしらぁ? あなたに奢るつもりはないのだけど」
「……」
奏介無言。
「帰ってもらえない?」
にやにやと笑う。と、肉が運ばれてきた。店員が読み上げる。
「お待たせしました。カルビ、塩タン、ロースです」
「ささ、詩音ちゃん、焼きましょ」
と、別の店員がテーブルの前に立った。
「特上カルビ、霜降り上タン塩、上ロースです」
「あ、はーい。俺です」
奏介が手を上げると、目の前に高級肉が置かれる。
金塚はぽかんとして、
「はぁ? 何を勝手に頼んでいるの? あなたに食べさせるお肉は」
奏介は十枚の万札を金塚の前に広げた。
「何勘違いしてんだ? てめぇに奢ってもらう肉を食うわけねぇだろ」
奏介、バイト歴半年とちょっと。




