表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/392

お小遣い関係で嫌がらせをしてきた親戚のおばさんに反抗してみた1

 昔からよく思われていなかったのは知っている。年の離れた姉と比べられて、心ない言葉を浴びせられたこともある。

 一番の思い出は強烈だ。


 詩音、姉と共に、いわゆる親戚のおばさんである金塚里子(かなつかさとこ)に集められた。

「はい、お小遣い」

 ニコニコと笑いながら詩音と姉に袋を渡すと、その視線が奏介に向いた。

「あら、いたの? あなたの分はないわよ」

 半笑いで、冷たく言われ、本当に何もくれなかった。欲しかったとか欲しくなかったとかではない、明確に差別された。姉はその後言い返してくれたし、詩音は心配するように声をかけてくれたが、金塚は奏介の泣きそうな様子を楽しむように帰って行った。

 今でもあの蔑むような笑みは忘れられない。子どもという弱い立場へ対してのその態度、学校で色々あったこともあって奏介の心に深い傷を残した。



 奏介が帰宅すると、女性ものの靴が並べられていた。見慣れぬ形と色だ。母のものではないだろう。

「ただいま」

 そう言ってリビングの戸を開けると、母が客と談笑していた。

「あらぁ、そうなの。(ひめ)ちゃん就職したの」

「もうずっと前ですよ」

「早いわねぇ。残念、会いたかったのに」

 そう言って彼女、金塚里子は奏介へ視線を向けた。

「あらぁ、まだいたの? この子」

 母の顔が少し曇る。

「いや、うちの息子ですから」

「姫ちゃんと姉弟とは思えないわよねぇ。安友子(あゆこ)さんも大変だわぁ」

 安友子は奏介の母の名前である。

「うちの奏介は」

 金塚はすっと立ち上がった。シックなワンピース姿、還暦を過ぎているものの背筋も伸びていてメイクもしっかりとしている。

「詩音ちゃんに会ってこようかしら」

 伊崎家は明確には親戚ではないのだが、詩音母ともかなり仲が良いのだ。

 奏介は道を譲る。

「お久しぶりです」

 金塚はふんと鼻を鳴らした。

「変わってないわねぇ。代わりに詩音ちゃんが姫ちゃんの妹ならよかったのに」

「あの、おばさん。俺は」

「話しかけて来ないでもらえる? 不愉快だわぁ。言っておくけどお小遣いは姫ちゃんと詩音ちゃんの分しかないから」

 金塚はせせら笑うように言って、玄関へ向かう。

「安友子さん、お茶ごちそうさま」

 奏介は彼女の背中を無表情で見ていた。

「奏介」

 気づくと安友子が奏介の前に立っていた。

「ん?」

 安友子は無言で奏介の頭を撫でる。

「気にしなくて良いからね。おばさんはああいう人なの。母さんは姫も奏介もどっちも大事だから」

「いきなりどうしたの」

 さすがに照れ臭くなり、視線をそらす。

「いや……だからね? おばさんを巻き込んで警察沙汰にするのだけは勘弁してあげて」

 安友子は顔を引きつらせていた。

「それって……フリ?」

「待ちなさい、母さんは芸人じゃないから」

「冗談だよ。まぁ、おばさん次第だけど」

 安友子はため息を吐いた。

「母さん、祈ることしか出来ないわ」





 その日の夕飯に誘われた。場所は高級焼き肉店、メンバーは奏介、詩音、母安友子、詩音母の佳乃(よしの)である。

 店内が混んでいたため、母二人と金塚、奏介、詩音で分かれた。ちなみにこの配置は金塚の希望だ。

 奏介は詩音と金塚で七輪を囲むことになったのだが、

「詩音ちゃん、たくさん食べてね?」

 ニコニコと話しかけられ、

「はい! ありがとうございます」

 嬉しそうに答える。それと同時に隣の奏介をちらちらと窺う。

「ここのお店はお肉が美味しくてねぇ。もう一通り頼んで置いたから。今日は全部奢りよ」

 母達の方も同じメニューを注文したようだ。

「ところで、なんで付いてきたのかしらぁ? あなたに奢るつもりはないのだけど」

「……」

 奏介無言。

「帰ってもらえない?」

 にやにやと笑う。と、肉が運ばれてきた。店員が読み上げる。

「お待たせしました。カルビ、塩タン、ロースです」

「ささ、詩音ちゃん、焼きましょ」

 と、別の店員がテーブルの前に立った。

「特上カルビ、霜降り上タン塩、上ロースです」

「あ、はーい。俺です」

 奏介が手を上げると、目の前に高級肉が置かれる。

 金塚はぽかんとして、

「はぁ? 何を勝手に頼んでいるの? あなたに食べさせるお肉は」

 奏介は十枚の万札を金塚の前に広げた。

「何勘違いしてんだ? てめぇに奢ってもらう肉を食うわけねぇだろ」

 奏介、バイト歴半年とちょっと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読み返し中です(笑) 父方の祖父が、一個上と一個下の外孫とうちの弟妹含め全員に学資保険をかけてたのに、俺にだけかけてなかったのを思い出しましたw 直系の長男なんですけどね。母方の祖父が名付…
[一言] 多少は自分と同じ性別や境遇等で贔屓が有っても誰も気にしないが、ここまで行くと出入り禁止絶交レベルだよねぇ?笑
[一言] >母さん、祈ることしか出来ないわ まったくだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ