岸田まこちゃんママafter
公園で井戸端会議を開いてた主婦です。あいみちゃんの友達、まこちゃんのママですね!
岸田マナミは娘のまこの手を引いて、夕方の大きめのスーパーへと足を踏み入れた。
「まこ、離れないでね。ママ、色々買い物が」
「ガラガラに乗りたいっ」
指をさした先には幼児用のチェアがついた買い物カートである。
「だめよ。混んでるから危ないでしょ」
手を引いて、チラシに書かれていた目当てのものをかごに入れて行く。
「後は」
まこの手を引きながら商品を探していると、
「あっ、あいみちゃんだ」
マナミはどきりとして視線をそちらへ向けた。嬉しそうに手を振りながら若い女性と一緒に歩いてくるのは高坂あいみだ。
「まこちゃん」
二人は小走りによって、お互いの両手を合わせた。
「元気だった?」
あいみの嬉しそうな声にまこは目を瞬かせ、
「うん!」
と、若い女性がまこに話しかけ始めた。
「こんにちは。今、あいみと住んでるいつみ伯母さんです。よろしくお願いします」
「いつみ伯母さん?」
「うんっ、今ね、伯母さんに色々教えてもらってるの」
と、あいみがまこの後ろに立つマナミと目を合わせる。はっきり言って、どう接していいかわからない。先日のこともあり、非常に気まずい。
「こんにちは、まこちゃんのお母さん」
無邪気ににっこりと笑う。
「あ……こ、こんにちは。あいみちゃん」
すると、いつみが前に出た。
「初めまして。あいみがお世話になったことがあるようですね。私は高坂いつみと申します。あいみ共々、よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げられ困惑してしまう。かなりしっかりした人のようだ。
「ママ? あいみちゃんの悪口はダメだよ」
「え」
振り返ったまこが眉を寄せていた。
「なかよくしましょうって幼稚園の先生が言ってたんだもん。ママははんせいしなきゃだめなんだよ」
「え、あ、まこ?」
「はい、あいみちゃんにちゃんと謝りましょう」
「あ、う……」
五歳の娘に言われ、マナミはあいみへ謝罪の言葉を向ける。
すると、いつみがクスクスと笑った。嫌な感じの笑いではない。
「娘さん、しっかりしていますね。お母様が普段からしっかりしているのでしょうか」
「え、いや」
「では私達はこれで」
あいみは手を振って、いつみと共に去って行った。
「ママ」
服の裾を引っ張られ、はっとする。
「お腹すいた。早く帰ろ」
「……」
マナミはふっと笑顔になった。
「そうね。早くご飯作らないと」
まこは一体どこで妙なことを覚えてきたのだろう? それについては気になったが、少しだけ気持ちが晴れたようだ。
数日前。
とあるスーパーにて。
父親と来ていたまこは迷子になってしまっていた。そこまで広くないのに父の姿が見つからない。
キョロキョロしていると、店員に声をかけられた。
「どうしたの? はぐれちゃった?」
その心配そうな顔に見覚えがある。
「あいみちゃんのお兄ちゃん?」
「……まこちゃん、だっけ?」
奏介だった。彼はまこの前で膝を折って目線が合う。
「こんにちは。元気してたかな?」
「……お兄ちゃん、ママに……」
「うん? 叩かれちゃったこと? もう大丈夫だよ。でも、ママのことはちゃんとまこちゃんが怒らないとね。悪いことはダメだよって言ってあげてね」
「う、うん」
「俺がそう言ったことは内緒だよ。また叩かれちゃったら困るから。秘密。いいかな?」
「あ、じゃあ指切りげんまんね」
「そうだね。俺とまこちゃんの約束」
少し前のことを回想しつつ、棚の陰からあいみ達のやり取りを見守っていた奏介はマナミの態度にほっと胸を撫で下ろした。どうやら奏介の言葉はちゃんと彼女に変化をもたらしたようだ。
その後、いつみの車であいみ達と合流する。
「そうすけ君凄い! そうすけ君の言った通り、ほんとにまこちゃんに会えたんだよ」
「よかったね」
チャイルドシートの横に座り、興奮気味のあいみの話を聞く。
「五歳の娘に叱られる母親の図は初めて見ました。奏介さんを叩いたと聞いていましたが、普通の方ですね」
「そう見えるなら、反抗した甲斐がありましたよ」
偶然まこと再会したので、彼女の母が先日のことをちゃんと反省しているか確かめに来たのだが、杞憂だったようだ。
定期的にまこに叱ってもらおう。奏介はそう考えつつ、一人頷いた。




