人の迷惑を考えない中学生達に対抗してみた2
少年達は驚いて目を見開いている。なぜここに救助隊や警察が集まっているのか、わからない年齢ではないだろう。
「お前らが助けてほしいって言ったからじゃないのか!?」
「え、え……」
「え、じゃないんだよっ。大人だって暇じゃないんだ。やらなきゃいけない仕事を後回しにして来てくれてるんだぞ? 何を偉そうな態度取ってんだ? 嘗めてんのか!?」
「な、なんだ、よ。イキッてんじゃねぇよっ」
奏介は手に力を入れた。
「一から十まで言わなきゃわかんないのか?」
「ひっ」
奏介の迫力に息を飲む少年達。
「お前らはそこのおじいさんの忠告を無視して立ち入り禁止の看板の先に入って行ったんだろ?」
「わ、悪いのかよっ」
精一杯虚勢を張るが、すでに体が震えている。
「悪い? 何勘違いしてんだ。あの看板はな、その先は危険だから誰かが入らないように、目印として立ててあるんだよ。そこへわざわざ入って行ったら怪我するかもしれないって大体わかるだろっ」
「だ、大丈夫そうに見えたから」
「なんでお前らにそんなことわかんだ? わかるわけないよな? 何を見て判断してんだ。結局崖から落ちて怪我してんだろ。いいか? お前らのためにロープ一本で崖の下に降りた救助隊員、あの人だって落ちて怪我をする可能性があったんだ。それを省みず、お前らを助けるために危険をおかしたんだぞ。なんでわざわざ自分から危険な場所に入って行った奴らの救助なんかしなきゃなんないんだ? 自業自得で怪我して動けなくなってる馬鹿野郎共を助けてる間に、本当に困ってる人が助けを求めてきたらどうするつもりなんだ。ルールを破って勝手な行動するなら自分で責任取れ。責任も取れないくせにこんだけの人に迷惑かけて、説教すんなよって? ふざけてんじゃねぇぞっ」
少年達は口をパクパクとさせている。
と、奏介の肩に手が置かれた。警察官の一人だ。笑顔で何度か頷いたので、奏介は少年から手を離した。
「さて、このお兄さんの言ってることわかったかな? 君ら、中学生でしょ? 大体やって良いこと悪いことの区別つく年頃だよね?」
笑顔だが、かなり威圧的だった。それを、感じ取った少年達は顔を引きつらせる。
「まず、名前と年齢と住所教えてくれる? 後、学校名ね。お母さんお父さんとはちょっと長めにお話しするから病院まで来てもらおうかな。怪我、軽いしパトカーで送るからね」
どうやら説教が待っているらしい。
やがて、すっかり大人しくなった少年達はパトカーで病院へと連れて行かれた。奏介達もすぐに解放されたので、これから遊園地で遊ぶことも出来そうである。森林エリアはすぐに封鎖になるそうだ。
「お疲れ」
簡易テント周辺を離れる時に何人かの救助隊員や警官に笑顔でそう声をかけられた。少年達の態度に思うところがあった人もいたのだろうか。もちろん、それ以上の言葉はなかったが思ってても立場上言えないこともあるのだ。彼らの代弁が出来たのなら、良かった。奏介はなんとなく、そう思った。
老人含め四人で遊園地の入り口まで来ると、人通りが戻っていた。
「それじゃ、わしはここでな。坊主、中々良かったぞ。あの小僧共、最後は何も言えんくなっとった」
「あれで反省すれば良いですけどね」
「そうじゃな」
老人は何回か頷いて、手を振りながら去って行った。
「はぁ、一時はどうなるかと。でも奏ちゃんに怪我なくてよかったよ」
「あのおじいさんの助言のおかげだよ」
看板の先は本当に歩きづらかった。遊歩道から少し入っただけで別の土地の地面というような感じだったのだ。
「そうすけ君」
手を繋いだままあいみへ視線を落とす。
「ん?」
「そうすけ君も、次はやっちゃだめだよ?」
「ん、そうだよね。やらないよ。今日は緊急事態」
「きんきゅうじたい?」
そうすけはあいみの頭を撫でて、
「じゃ、行こうか」
遊園地の中へ。
あいみが乗れそうな観覧車やメリーゴーランドなどを中心に周り、お昼の時間は少しずらして。詩音が用意した弁当を開いたのは二時過ぎだった。
遊園地敷地内のパラソル付きテーブル席である。
「タコ……!」
あいみが目を輝かせてフォークでタコウインナーを刺した。詩音は大きさの違う弁当箱に三人分作ってきたらしい。
「ベタだけど、可愛いよねー」
本当に定番のおかずが入った可愛らしい弁当だ。
「しおんちゃん、お料理上手いの?」
「しお……詩音は上手いよ」
奏介は箸で卵焼きを掴んで口へ。
「でも片づけが、な」
詩音が料理をした後のキッチンは見るに堪えない。詩音の母親が定期的にぶちキレているのを思い出す。
「いただきます」
あいみはそれを口に入れて、食べるペースを上げていた。
「美味しい」
どうやら口に合ったようだ。
「今日はちゃんと片づけてきたの?」
「もー、片づけのことは良いじゃん。あいみちゃんも美味しいって食べてるんだからさ!」
そんなやり取りをしつつ、気づけば三時を過ぎていた。帰宅する客も出てくる時間帯だ。もう一、二個乗り物に乗ってから帰ろうという話をしていたのだが。
奏介は一人トイレから出て、詩音達の方へ向かおうとして、足を止める。
「ん?」
詩音が誰かと話していた。茶髪にロン毛の男だ。高校生くらいだろうか。
「……」
奏介は陰に隠れて、その様子を見守る。彼は笑顔で手を振って連れらしき男女グループと出口の方へ去って行った。彼らが十分に遠くなってから、詩音達の元へと戻る。あいみはいつの間にかテーブルに突っ伏して眠っていた。これはこのまま帰宅コースかもしれない。
「しお、今の」
「あ……」
気まずそうにする詩音である。
「今の石田?」
「あー、うん。久しぶりーって。それであの」
「俺のこと聞いてきた?」
「一緒じゃないの? って」
「へえ」
奏介は笑みを浮かべた。茶髪ロン毛、石田の消えて行った方へ視線を向ける。
「俺に喧嘩を売るつもりなのかな?」
詩音は青い顔でぶるると体を震わせた。
「ねえ、ねえ、奏ちゃん、なるべく関わるのやめない? 学校違うし、気を付けてれば絶対大丈夫だって」
「いや? 売って来たら買うよ。大丈夫、そんなに心配しなくても」
「だ、ダメだって。石田君は今の奏ちゃんに絶対かなわないよ!」
「……俺の心配じゃなくて?」
石田春木、小学校時代、奏介のいじめを先導していたガキ大将だ。




