女湯を覗こうとするヤンキーに反抗してみた2
生まれ育った村の古びた銭湯。子供のころから、通いなれたそこは高校卒業間近の今も変わらない。
「オラア!」
黒木馨が風呂桶を思いっきり蹴ると、タイルの壁に当たって弾けるように床へ叩きつけられた。
「ぎゃはははっ」
仲間の友近や三瓶田と共に爆笑する。サッカーでゴールを決めた時のような爽快感がある。
「ひいっ、あ、危ないぞあれ」
「で、出よう」
萎びたじーさん達が脱衣所に逃げて行く。
(やっべーたのしー)
親はムカつく、その親と仲が良いこの銭湯の経営者家族も気に喰わない。先日、ちょっとしたことで素行を注意されたことで猛烈に反抗したくなって今に至る。
(調子こいて説教とかムカつくし)
親でもないのに、気に喰ないことを言ってきた経営者家族が悪い。復讐するのは正当だ。
「よっと!」
友近が壁を越えて女湯を堂々と覗く。キャーとかいわゆる黄色い声が上がる。もちろん、嫌がっているのは分かる。
「おーい、こっち来いよ」
友近に言われて、三瓶田と共に女湯へ。
絶景だった。
「ちょっ、信じられない!」
「何こいつら! 覗き!?」
黒木はニヤニヤしたくなるのを我慢して真顔になる。
「大丈夫っす。俺ら、これでも心が女なんで」
怪訝そうな表情の女性達。
「なんも感じてないんで」
嘘だが、徐々に戸惑い始める女性達。
「それより、こんな銭湯、早く出た方が良いっすよ。経営者が変態でカメラ仕掛けてるって話あるんで」
「え……」
「そういえば、この銭湯の口コミ最低だったのよね」
青い顔をして、そそくさと脱衣所に走っていく。
「他の皆も早く逃げた方が良いっす。女性が盗撮されるのとか耐えられないんで」
逃げて行く女性達。黒木達への嫌悪感の方が強いのだろうが、この銭湯の評判は着実に落ちている。爽快感が半端ない。
「あー、皆逃げてんじゃん」
「おいおい、真面目かよ」
友近と三瓶田がニヤニヤしながら言って来る。
「ちょ、ちょっと黒木君達。こ、こんなの犯罪よ」
現れたのは番台にいたはずのウタの母、行部母。びくびくとしながら自分達に言ってきたので、桶に汲んだお湯をぶっかけた。
「きゃっ」
「うっせ、ばばあ」
「ばばあの水かけからの服透けとかマジで勘弁なんだが」
笑い合う。最高の気分だった。
「……おい」
妙に低い声が後ろから聞こえた。
振り返ると、先ほどのオタク少年がジト目でこちらを見ていた。恐らく、年齢は一個か二個下だろう。
「ああん? さっきの調子こき野郎じゃねえか」
行部家の一人娘の彼氏か何かだろうと想像がつく。良いところを見せようと、イキっているのだろうが、それがまた勘に障る。
「なんだよ? 今度は容赦しないぜ?」
睨みながら、少年、もとい奏介に歩み寄る。
「はあ? 覗きとかいうキモい上に最低の犯罪行為しといて、何調子に乗ってんの?」
黒木はぴくっと眉を動かした。
「お前ら、心は女性なんだっけ?」
「ん? ああ、そうだけど? だから覗きじゃねえって」
「きもっ!」
浴場に響くように奏介がそう言い放った。
「キモいわ。何言ってんの? 心が女性だろうが何だろうが、覗くなよ。あと、本当に心が女性ならすっぱり切って戸籍を女にして来いよ」
奏介は人差し指で躊躇いなく、黒木の腰に巻かれたタオルを指で示す。
奏介は目を細めた。
「できないなら、体の作りが違うんだから我慢しろ。自分の感覚と世の中の認識が違うことで苦しんで辛い思いをしてる人がいるのに、堂々と宣言してんじゃねえよ。女性男性にも、性同一障害の人にも失礼だ。後、キモい。本当に気持ち悪い。女だから女湯覗いても良い?マジで、頭おかしいんじゃないの」
黒木達は顔を真っ赤にした。
「言わせておけば! ぶっ殺すぞ、てめえ!」
「黙れ、オカマ野郎。お前らなんてオネエ芸能人の足元にも及ばないし、面白くないんだよ。覗くくらいなら、彼女でも作って見せてもらえば? ああ、童貞には無理だな」
奏介に鼻で笑われ、我慢の限界が来た。
「ぶちのめす」
「このガキ!」
と、その時。
「馨」
二人の男女が男湯に入ってきた。他の客はいないので、閉店後の雰囲気だ。
「は……?」
それは見知った人物達。
「ちょっと! あっという間に近所で噂になってるわよ! あんたがオカマだって!」
女性がヒステリックに叫ぶ。
田舎とは、まだまだ偏見が残っているのだ。
「おやじ、おふくろ……」
黒木父と黒木母は青い顔で立っていた。




