何を考えているか分からない同級生に反抗してみた11
またカーッと頭に血が上った。
「菅谷! このクソ野郎が」
『あのさ』
「うるさい! お前のせいで、滅茶苦茶だっ」
『……』
「おい、聞いてるのか!?」
『……』
「てめぇ、無視かよっ」
『……』
「何か答えろぉおぉおっ!」
『……』
通話が切れてるのかと画面を見るが、繋がったままだ。しかし、こちらから切る気はない。言いたいことはたくさんある。どれだけ罵っても満足出来ないだろう。
「おい、お前」
『太志、ちょっと落ち着いて』
「!」
母親……みきこの声にはっとする。
そういえば、この番号はみきこのものだった。つまり、奏介は母親と共にいるのだろう。
「え、あ? なんで、そいつと」
『落ち着いてって。話がしたいんですって』
疲れたような声だった。
「……」
と、通話の相手が変わったようだ。
『とりあえずさ、俺が聞きたいことに答えてくれないか? 怒鳴ってると病院に怒られるだろ』
奏介の冷めたような言い方に、やはり頭が沸騰して体がカッと熱くなる。しかし、彼のそばに母親がいると思うと気持ちがざわざわした。直感で母親に何かされるかもしれないと思った。しかし、今は助けに行けない。
「……なんだよ、聞きたいことって」
そう自分で発言して初めて、熱が少し冷めたような気がした。
◯
奏介は電話の向こうでようやく落ち着いた様子の轟に、内心で舌打ちをした。
(このクズ野郎、なんで俺が気を使わないといけないんだ)
滅茶苦茶に罵りたいが、それをやったらまたヒートアップさせてしまうだろう。
奏介、咳払い。
「正直、何を考えてるか分からなかったんだよな。お前さ、なんで俺に声をかけて来たんだ? 俺に声をかけて関わらなければ、こうならなくない?」
『なっ、責任転嫁だ。お前から』
「いや、俺はただ喫茶店で知り合いと会ってしゃべってただけ。そこに声をかけてきたじゃん」
「そんなこと」
「いいや。あの時の言葉、一字一句覚えてる」
『なあ、お前って菅谷だよね。ほら、あいつ。上嶺のパーティに参加してた。4年の時にクラス一緒だったろ? てか、あの時はお前も災難だったよな。皆、金持ちのあいつに流されてたからさ。上嶺の奴、最悪だったよなぁ。オレもうざいと思っててさ。あ、今度一緒に遊ばねえ? あいついなくなってすっきりしたっしょ? 金持ちだからさ。皆逆らえなかったわけよもちろん、上嶺消えた記念にな! 連絡先交換しようぜ」
少し早口でその時の言葉を並べる。
『……』
「な? 上嶺を出汁に声をかけてきたのはそっち。あの時、お前は何を考えて俺に声をかけたの?」
無言。
「別に、今は責めてるわけじゃないし、怒ってないから正直に言ってみな」
本当は腸が煮えくり返っているし、ブチ切れているが暴走が本当に面倒くさい。
『な、仲良くなれば、りよ……その、メリットがあると思ってた』
(予想の範囲内過ぎる。単細胞かよ)
『でも、友達になりたかったってのは本当だ!』
どんな言い訳だよ、と思う。
「残念だけど、4年の時はクラスの皆で俺のことを馬鹿にして笑ってたじゃん? そんなん、お友達にはなれないでしょ。パーティの時は、招待状を送ってきた上嶺が会場に来た俺に席も料理も用意してないとか言って、ニヤニヤしてたわけ。レストランに行って、注文したのに、『あんたの分はないからw』って言われたら、ムカつかない? 嫌な気持ちにならない?」
『……』
「どうだ? 良い気分になるか?」
『……ならない』
「うん、だよな。なのに、あそこにいた連中って俺が悪いみたいに集団幻覚にかかってたよな。まあ、それは良い。俺も上嶺の遊びに乗って煽りに行っただけだから。でも、本当に俺と友達になりたいなら、横から割って入って止めに来いよ。こんな嫌がらせは辞めろって、上嶺から俺を庇わなきゃダメだろ」
『……』
「って言われても困るだろ? 俺のために、あの場の全員を敵に回すなんてあり得ないよな? そう考えるのは普通だし、間違ってないよ。でも、だったら俺と関わらない方が良かったじゃん。毛塚のこともだけど、後先考えずに半端に関わるのは良くない。そのせいで問題起こして父親頼るくらいなら、余計なことせずに見て見ぬふりしとけ。はっきり言うけど、お前は先読みする能力が足りないよ。自分が行動を起こしたら、その後どういう展開になるか読めないんだから、いつもの日常送っていつもの友達と遊んで、新しい事に一切首を突っ込むな。言ってること分かるな? あの日、喫茶店で俺に声をかけて遊びに誘わなかったら、父親が逮捕されるなんてことになんかならなかったんだ」
『オレが……余計な、ことを……した?』
「そうだよ。今日だって俺を殴らなければ警察に怒られることもなかっただろ?」
『……』
納得しているのか、反論はない。
「これ以上俺に挑んでも、お前は勝てないよ。もう父親もいないし。だから、この辺で大人しくしとけ。大人しくしてればこれ以上は悪化しないんだから」
無言。言葉が効いているのだと思いたいところだが。
「分かったな? それじゃ」
奏介は通話を切り、轟家の玄関先で座り込んでいるみきこの横にスマホを置いた。
「電話、ありがとうございました」
「……どうしたら良いの?」
「はい?」
「っ!!」
みきこがしがみついてきた。
「あたしはこれからどうしたら良いのよ! 近所にも親戚にも、白い目で見られるわ。あんた……あんたがうちの夫を逮捕させたの!?」
奏介は隙を見て、彼女からすっと離れた。
「人聞きの悪いこと言わないでもらえます? 言ったでしょ、あなたの旦那さんは俺のことを陥れようとしてたんですよ。こっちは何もしてないのに、無理矢理冤罪を作って法的措置を取ろうとしてたんだから、こっちもやり返さないとやってられないでしょ。てか、あなたと不仲だった近所の方が何人かお引越しされたそうですよね。その方達曰く、あなたと口論になってから見えない圧力がかかったとのことですが」
ビクッと肩を揺らす。
「まあ、それに関してはどうにかするつもりはありませんが、あなたの息子から受けた暴力についてはしっかり被害届け出しますので」
「ま、待って! お願いこれ以上は……だって、そんなこと……太志が逮捕されちゃう!」
その表情に浮かんでいるのは恐怖以外の何物でもなかった。息子の心配をしている様子は微塵もない。自分への絶望だけだ。
旦那と息子の逮捕はさぞかし世間の目を厳しくするだろう。
「知りませんね。旦那の権力を使って人を陥れてた人間には同情の余地もありませんよ」
奏介は静かに玄関のドアを開け、外へと出た。
◯
呆然と通話の切れたスマホを眺める。
轟は自分を策略家だと思っていた節がある。考えて行動すれば、思い通りになるし、人を自分の思い通りに動かすのも得意だ。今まで計画がうまく行かなかったことはないのだ。自分は頭が良い、周りの人間より少し高い場所から世界を見ている。そんな気分だった。
「……オレは……」
呆然としているうちに夜が明け、菅谷奏介から提出されたらしい被害届けにより、傷害罪で逮捕されることになった。
取り調べ室で取り調べを受けている時に、別の警官が入ってきて、
「轟篤信氏が、ハッキングは君の要望で脅されて、半ば強制的にやらされたと証言したんだが、そうなのか? だとしても、彼の罪は一切変わらないが、事実確認をしたい」
「え……」
確かに頼んだ。しかし、脅して強制的に? そんな覚えはない。困惑してから、すぐに気づいた。
(親父……オレのせいにしようと……)
接触は一切出来ない。だからこそ、自分の罪を少しでも軽くしようとしている?
轟の取り調べをしていた警官が呆れ顔で入ってきた若手の警官を見る。
「その事実確認はいらないぞ。あの人は他にも書類の改ざんをしている痕跡がでているからな。逃れるためのはったりだ。息子すら売ろうとするのは少し引くが」
「りょ、了解しました」
そう言って出て行った。
轟は震えながら、ぎゅっと拳を握る。
「まぁ、君も頼んでいたんだろうが、それもこれもあの人の責任だよ。頼まれたからって、それを受け入れて犯罪をしちゃ終わりだ」
その後、学校は退学になり、母親は離婚をしてそのまま逃げたらしいと聞いた。ただの、奏介への傷害罪のはずが、以前トラブルになった同級生からの被害届けなどもいくつか出され、結局少年院に行くことになった。
(なんで、こんなことに)
少年院での初めての夜、布団の中で、轟太志はそう呟いた。
轟の末路、でした! 長々とすません……。
長編過ぎて、仲良く制裁受けた方々が複数いたので最終的な末路は後で少しづつ書こうと思います。




