何を考えているか分からない同級生に反抗してみた7
間尻トモナはゴクリと息を飲みこんだ。
「聞きたいこと? えーと……君一人なのかな? 保護者の方は?」
相手は子供だ。権力もないただの子供。
「とぼける気みたいなので単刀直入にお聞きします。俺のPCにハッキングをしかけて、不正に操作しましたよね?」
不意打ちで胸元を突き刺されたような衝撃だった。スマホの画面を見せられる。そこには署長の指示で書き込みをした匿名掲示板が映っていた。
奏介はカバンから何枚か書類を取り出してテーブルに並べる。
「調査会社に依頼して、証拠は全部そろってます」
「え……」
最後に取り出した紙は見慣れたものだった。
被害届だ。
「これからサイバー犯罪相談窓口に相談して、被害届を提出します。署内のPC使ってましたよね? なめ過ぎでしょ。せめて遠くのネカフェでバレないようにやるとか、証拠隠滅を念入りにするとか。調子に乗ってるからこうなるんですよ」
「い、いや。人違っ」
奏介はテーブルにバンと手をついた。トモナはビクッとする。高校生に責められるという想定外の状況についていけていない。
「言い訳を聞きに来たわけじゃないんですよね。それより、どうします? この状況」
「……え」
「不正なことをされたとはいえ、情報開示請求手続きをされるのは面倒なんですよ。だから今すぐにでも証拠と被害届を提出してあなたと轟署長を告発したいんですけどね」
「!」
もし、そんなことをされたら、どうなってしまうのだろう。確実に周りの人の目は変わるし、職も失うだろう。余罪を追及されたら?
冷や汗が浮かんできて、心臓の音が大きくなる。
今からできることはないか? 急いで証拠隠滅をすれば、まだましかもしれない。
過呼吸になりそうになりながら奏介を見上げる。
彼は呆れ顔でこちらを見ていた。
「あ、あの」
「俺、轟署長がむかつくんですよね。正直、あなたのことはどうでも良いんですよ」
混乱して、言葉が出ない。
「だから、轟署長が不正に事件をもみ消したり、あなたに不正アクセスをさせたりしてたことを、あなた自身が内部告発してくれれば、被害届を出すのを遅らせても良いですよ」
「内部、告発?」
「轟署長に強制されて、悪いことをしてましたって上の人に自分から言うんですよ」
「そんなことっ」
嫌に決まっている。自らの罪を自分の口で他人に伝えるなんて。
「別に強制はしません。でも、その場合、俺は被害届と証拠を提出します。轟署長とあなたはほぼ同罪です。でも自白して轟署長を売れば、少なくとも同罪ではないと思います」
奏介は広げた書類を重ねて封筒へ入れ、カバンにしまった。
「まあ、あなたと轟署長に深い絆があって、絶対轟署長を売らないという覚悟があるならそれで良いと思います。言っておきますけど、選択肢は二つですよ。自分の今後の人生をよく考え行動して下さいね」
間尻は青い顔でうつむいている。
「あ、そうだ。言い忘れてました。あなたみたいなクズがいると、他の警察の方々の評判が下がるんですよね。いつもお世話になってる刑事さんも市民から白い目で見られると思うと本当に腹が立ちます。どうせ金かブランド物の商品でももらってるんでしょう? 一体税金て何なんでしょうね」
何も言えなくなった彼女を尻目に奏介は立ち上がった。
「それじゃ俺はこれで。明日まで待ちます。賢い選択をして下さいね」
奏介はそう言って、部屋を出た。
よく集まるファミレスに入ると奥の大人数の席にいつものメンバーが待っていた。
「悪いな待ってもらって」
真崎は苦笑い。
「あの交渉の仕方で轟署長と心中したら本物だな」
ヒナのPCを通じて間尻との会話は共有しているのだ。
「まあ、それだと面倒なんだけどな」
間尻が動いてくれれば、色々と手間が省ける。
「うーん。告発するに一票。普通に話を盛りに盛って轟署長の悪行をゲロるよね。自分は悪くないってさ」
ヒナが呆れ顔で言う。
「あはは、それ確定だよね」
詩音も同調した。
「あんたの交渉の仕方が怖かったわ……。何一つ悪いこと言ってないのに尋問みたいな」
体を震わせるわかばである。
「菅谷君、あの人が内部告発したら、被害届出さないの?」
と、モモ。
「いいや、出す。被害の大きさは知ってもらわないとな」
「手を抜かないんだね」
水果が苦笑い。
彼女がどちらの選択肢を選ぶか、決まっているだろう。




