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何を考えているか分からない同級生に反抗してみた4

 昼休み。

 半個室になっている所長用デスクに近づいてきて、おずおずと声をかけてきた部下二人の問いにひっくり返るかと思った。轟篤信は思わず、

「そんなわけっ」

 ばっと立ち上がる。周りの視線が一斉にこちらを向いた。

 はっとして、座り直し、咳払い。

「あー、すまん。取り乱した。うちの息子は逮捕なんてされていないよ。昨日も門限に帰ってきて、今日も登校しているしな」

 部下は少しホッとしたように胸を撫で下ろした。

「あー、やっぱりデマでしたか。署長の息子さん、全然そういうタイプじゃないですしね」

 息子の太志は何度かこの職場を訪れたことがある。通う高校が家より近いので急遽泊まり込みの際に着替えなどを届けてもらったことがあった。

 『轟署長の息子が逮捕された』どこからともなくそんな噂が署内に回ったらしい。皆面識があるからか、余計に心配していたらしい。

「あ、当たり前だろう。そんなの辞表ものだ」

 朝から続いていた部下達の緊張感が少し和らいだ気がした。

「すみません、あまりにも広まっていたので」

 普段はアットホームな雰囲気がある職場なのに。

「……ところで一体誰が言い出したんだ」

 皆、顔を見合わせる。

「それが、免許更新に来た人がちらっと聞いてきたらしくて」

「あの口ぶりだとSNSでバズってるんですかね」

 どきりとした。昨日の映画館での窃盗未遂事件、太志は無関係だと言い切ることはできない。

「そうか、まあ、皆気にしないように」

 トイレに行く振りをして、非常階段の入口へ。人気がないことを確認し、スマホを開いた。

「ん? これか。ネット掲示板だ」

 かなりの書き込みがあり、盛り上がっているようだ。


『あの映画館の騒ぎ、窃盗だったん?』

『客同士のトラブルかと思ったわ』

『店員フル動員て感じで、大騒ぎに見えたよな。犯人、高校生だって?』


 高校生という単語にどきりとした。こんなところに自分や息子の名前が書きこまれていたとしたら。

(冗談じゃない)

 本当にデジタルタトゥーになりかねない。

 掲示板の書き込みをスクロールしていく。


『もうやばいなんてもんじゃない。

もしかすると今後高校生の犯罪が増えるんじゃない?

主さんはたまたま遭遇した感じ

か?

結構多い気がする。

いいかどうかだったらダメだろ。

察しろ。わかるで

しょ。

長い動画じゃないから見てみて。てかあそこ

の映画館怖くて行けない。

息が詰まるわ。

子供も連れていけないし』

『草』

『即興にしては三十点』

『厳しいやろW』


 妙な改行と妙な言い回し。後に続くコメントに笑い者にされている。

「!」

 頭文字だけ縦に読むと『ももぬかけいさつしょちょうのむすこ』と読める。

「こ、こいつ」

 わざとわかるように不自然なコメントを書き込み、簡単に答えを求められるよう行を変えているのだ。


『すまん、さすがに露骨だったわWW』

『え、マジなの?』

『うん。オレ知り合いだし。普通にやらかしてパッパに尻ぬぐいしてもらってるっぽい。まあ、遠くから見ただけだからそいつじゃないかもしれないけどね』

『こっわ』

『あー。オレも知ってるかもしれない。権力あるやつよね……』


 掲示板を閉じてスマホを握りしめ、顔をしかめる。管理者がいるので掲示板の削除依頼をだそうか迷う。しかし、証拠にもなる。

「侮辱だ。情報開示請求をしてやろうか」

 そうは言っても、これは偶然と突っぱねられる可能性が高い。この噂を消すためにはどうすれば良いか。午後はそれも考えなくてはならないだろう。



 高校生の毛塚亜麻人けづかあまひとは放課後の賑やかな教室を背にして廊下を出た。

「……」

 クラスでは浮いた存在であり、挨拶をしてくれる人は誰もいない。

 それもこれも数か月前にクラスメートの轟太志とトラブルを起こしたせいだった。そんな彼が今日は終始、浮かない顔をしていてしかも校長室へ呼び出されているところをみた。

(なんか怒られたのかな? いい気味だよ)

 校門を出てバス停を通り過ぎ、大通りに出たところで、声をかけられた。

 桃華学園の制服を着た男子生徒だ。

「すみません、毛塚さんですよね?」

「え、ああ……」

 名前、珍しいからかすぐに覚えられてしまうのはいつものことだ。

(こいつ、ネットで見たのかな)

「菅谷と言います。とある掲示板でお名前を見かけたのですが」

 やはりとため息を吐く。絡まれるのは久しぶりだった。名前が掲示板に晒されてから大分経つし。飽きられていなかったか、と。

「そうだけど、なんだよ?」

「他校の生徒と揉めて、怪我させてしかもその時の動画をネットにバラまかれたって聞きました。特定も」

「違うっ」

 亜麻人は拳を握りしめた。

「むしろ僕が桃近高校ももちかこうこうの不良どもに絡まれて殴られて怪我させられてたんだ。耐えれば終わるって思ってたのにあいつが」

 轟太志が助けに入って来た。そして、不良達を逆上させ突き飛ばした拍子に相手方に怪我をさせた。隙を見て二人で逃げ出して、翌日には亜麻人が一人で他校の生徒に怪我をさせたことになっていた。

 何が何やら分からなかった。いつの間にか加害者になっていて親にも迷惑をかけた。それからは問題児扱いだ。轟もそれ以来接触しては来なくなった。

 恐らく、轟が何か手回しをしたのだ。

「俺も轟太志の被害にあったんですよね」

「え」

「警察沙汰になりそうだから、彼の親がもみ消したんだと思います。ちょっと、話をしませんか?」

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― 新着の感想 ―
うわっ! 轟がここでも不良を突き飛ばしてケガさせているのに別の人間に罪をなすりつけて逃げてる、、、 酷え、、、 そして嘘つき息子の自分勝手な言い分を信じて、何人に冤罪を なすりつけてんだ轟パパ。 …
返信ありがとうございます! 『吸飲』は、たまたま『爪の垢を煎じて飲ます強制版』を考えた時、相手を拘束した後に管(カテーテル)を……  鼻から入れて胃まで通し、  ワン、ツー!ワン、ツー!  休まないで…
桃近高校の不良くんたち、『オハナシ』すれば『わかってくれる』ヤツらだといいですね~(意味深) その後、「この間の続きだ!バトルしようぜ!」って、轟(息子)の高校にやって来たら、面白いですよね~(ニヤリ…
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