何を考えているか分からない同級生に反抗してみた2
轟は困ったように辺りを見回した。
「あー、この辺、良いところないな」
軽食を食べられるようなファーストフード店や安めのファミレスはないようだ。
「なあ、轟」
「ん? どうした?」
笑って振り返る彼に奏介は同じように笑顔で返す。
「面白い遊びをしないか」
「遊び?」
人気のない路地の入口へ移動する。
「サイト用に投稿用の動画を撮るんだ。その辺を歩いてる通行人を後ろから突き飛ばして反応を見る。面白そうだろ?」
轟はぽかんとした後、盛大にため息。
「あー……。いや、あのさ。同窓会の時も想ったんだけど子供の頃のことを根に持ちすぎじゃないか? 復讐のためなら何をしても良いとか思ってる? さすがに迷惑系の動画撮るとか非常識だし」
「なんだよ。小学生の頃はそういう遊びしてただろ。わざと車にぶつかって、怒られる前に逃げるっていう。それから、警察官のパパに言いつけて自分の罪を人に擦り付ける、と。あの遊びはもう止めたのか?」
轟は一瞬無言になったが、
「何か勘違いしてるんじゃないか?」
「自分で車にぶつかって、それを俺がやったことにしたんだっけ? それのどこが勘違いなんだよ」
「菅谷のせいにした覚えはない。父に言ったのは確かだが、あの時は子供だったし恥ずかしいことじゃないだろ?」
「俺のせいにした覚えはなくとも、父親にそう思わせるような言い方したんだろ。遠回しに自分は悪くない、一緒にいた菅谷というクラスメートが悪いってさ」
言葉に詰まる轟。どうやら図星のようだ。ぶつかった車の男性はかなり怒っていたし、その責任を自分が負って怒られるのは嫌だったのだ。それなら信用が地の底まで落ちている奏介に全て擦り付けようと思ったわけだ。人間は余裕がなくなると、自分の保身のために動くものなのだ。
「いや、被害妄想だって。結果的にそんな噂が流れただけで。いやそもそも、菅谷が檜森の財布を盗ったことに問題があるだろ? そんなことをやってたから疑われたんだよ」
「ん? 俺盗ってないけど? ていうか、お前、真犯人を見つけるとか言い出してたじゃん。記憶力終わってんな」
「そうだっけ? その辺覚えてないけど」
当たり前のように言う。本当に覚えていないのだろう。
「結局、俺と絡んで何がしたいわけ? あのクラスの連中はお前含めて、許してないぞ。仲良く遊ぶなんて無理に決まってんだろ」
轟は困ったように頭を掻いた。呆れ顔が非常に腹立つ。
「あー、わかったわかった。思ったより、僕ら合わないみたいだな。絡んで悪かったよ」
「学校卒業して時間が経ったからってチャラになるわけねえだろ。いじめられた側は死ぬまで覚えてんだよ。絶対忘れない。言われたことを一字一句覚えてる。合わないじゃなくて、てめえみたいなクズと仲良くしたらどう考えても病気になるわ。父親も父親だな。自分の息子の言うことを信じて一緒にいた奴を犯人に仕立てあげるとかさ」
「もう分かったって。とりあえず、これで解散ってことでお互い、な?」
暖簾に腕押し。煽っても、ノってこないところを見ると、やはり思考が読み切れない。
「こっちももう関わらないからさ。じゃあなー」
〇
轟篤信警視は自分の席を立った。
「それじゃあ、お疲れさま」
まだ残っている部下達にそう声をかけて勤務先を出た。駅へと向かう。
ふと見ると、前方の街灯の下に高校生らしき人影が見えた。歩いているならともかく、立っているだけだ。かなり不気味である。
「……」
少しだけ速足で、通り抜けようとするが、
「轟さんですよね?」
少年の声がした。見ると、至って普通の男子生徒だ。桃華学園の生徒だろう。
「……君は? 何か用かね」
「息子の轟君と知り合いのものです。轟君、映画館で騒ぎを起こしてました。盗撮か何かで事情を聞かれてましたよ。見間違いかもしれませんが」
「……は?」
「ちらっと見かけただけなので、詳しいことは分かりませんが。それじゃ」
少年は暗闇に消えて行った。
「太志……?」
さすがにそんなことをするような息子ではないと思うが。篤信は小走りになった。




