古いスマホ持ちの先輩を馬鹿にする彼女の幼馴染に反抗してみた
長いシリーズの途中ですが、書きたいお話が出来たので挟ませて頂きます。ご迷惑をおかけしますが、よろしく、お願いします。
風紀委員会議室に来た相談者は向かい合った奏介に食い気味に迫った。机に手をつき、身を乗り出す。
「とにかくお願いします。すごく鬱陶しいんです。角が立たないように、通りすがりを装って、ぼっこぼこにして下さい」
おとなしそうな顔をしてボコボコとか言う。
奏介は呆気に取られてぽかんとする。ちなみ今日は集まりがあったが、委員長達は帰宅してしまった後だ。声をかけられたのが帰り際だったので。
「お、落ち着いて下さい。先輩」
「あ、すみません。えーと二年生の七海アサミです」
「はい。名前はさっき聞きましたから」
奏介は苦笑を浮かべる。
「えっと、話をまとめると、近所の同い年の幼馴染に古いスマホを馬鹿にされるから、言い返してほしいってことですかね?」
「そうです!」
顔を近づけて来られて、思わずのけ反る。
「わ、分かりました。それくらいなら協力しますから」
「お願いします。うちの母親が向こうの母親と仲良くて、しかもうちの父親は向こうの父親と同じ会社の上司と部下なので下手なことを言えないんですよ」
家族ぐるみのお付き合いというわけだ。これは非常に面倒くさい。
「菅谷君が恨まれたりしたら申し訳ないので、ガチガチに変装してきてもらえますか?」
「ああ、別に気にしませんよ。まあでも、七海先輩がそう言うなら」
依頼はスムーズにまとまった。
作戦は即決行されることに。
〇
道野かりな、アユナ姉妹は駅から歩いて行く過程で、見慣れた後ろ姿を見つけた。
高校生である姉のかりなと中学生のアユナは目線を合わせる。
お互い、にやりと笑った。
「アサミー」
声かけに振り返ったのは幼馴染の七海アサミだ。いつも思うが、桃華学園の淡いピンク色のネクタイが絶望的に似合っていない。野暮ったいロングヘアに眼鏡、漫画のキャラみたいだ。
最近、彼女をからかうのがちょっとした楽しみだったりする。
「かりなに、アユナちゃん? 珍しいですね。二人で」
気まずそうに視線を彷徨わせる。
「で、スマホ変えた?」
「……いえ。というか壊れてないのでまだ変えませんよ」
かりなは、先月発売された自分の最新機種を取り出して、左右に振る。
「めっちゃサクサクだよー? カメラも映り良いし、機能もパワーアップしてんの。ていうか、すっごいダサいからさっさと変えなよ。五年前の機種とかありえないって」
「駄目だよ、お姉ちゃん。ほら、アサミちゃんちのパパ、係長だし」
「あは、そうだった。うちのパパ、課長だからさ」
「そ、そうですね。羨ましい限りです」
アサミの引きつった笑顔。言い返す言葉もないらしい。
と、その時。
「七海さん?」
声をかけてきたのは十代後半らしい帽子の少年だった。かりなは眉をしかめる。
「あ、菅谷君?」
アサミの知り合いらしい。
「偶然ですね、こんなところで」
菅谷、もとい奏介が笑顔で言って来る。
「……誰?」
かりなは不機嫌そうにアサミに問う。せっかくからかっていたのに、邪魔が入った。
「夏休みの短期バイトをした時に知り合った菅谷君です。時々そこのバイト先にお手伝いに行くんです」
という設定。
「ふーん」
かりなはつまらなそうに視線を流す。
「菅谷君、こっちはわたしの幼馴染のかりなさんと妹のアユナさんです」
「そうですか、初めまして」
するとアユナがくすくすと笑う。
「アサミちゃんも男の子の知り合いいるんだねー! もしかして彼氏?」
アユナのからかいに、かりなは思う。帽子の少年はどう見ても陰キャで、かなりのオタク気質がありそうなのだ。
「い、いえ。そんなわけないじゃないですか」
かりなも笑う。
「でも、普通にお似合いじゃない? 見た目が釣り合ってるよ。凄くいいじゃん。陰キャオタク同士、悪い意味じゃなくてね?」
奏介、心の中で舌打ち。失礼な輩は初対面相手でも容赦なく突っ込んでくるのが難点だ。そしてアサミを完全になめ切っている。
「ところで、何かもめてたみたいですけど、大丈夫ですか? すみません、声をかけるつもりはなかったんですが、喧嘩なのかなと心配になってしまって」
奏介は平静を装い、アサミとかりな、アユナの顔を見回す。
「ああ、揉めてたっていうか……」
口ごもるアサミ。
「アサミにスマホ変えなって言ってただけだよ。五年前の機種を使い続けてるから、ダサいなーって」
「はあ……そう、なんですね。壊れてないならそれで良いんじゃないですか?」
「今時、そんな恥ずかしいスマホ持ってるの、アサミくらいだからね! ついでにアンド〇イドだし? フツウはアイ〇ォンでしょ? オタクしか使ってないって言われてるよねぇ」
そんなわけの分からない偏見も聞いたことがあったなと奏介は遠い目をした。
「恥ずかしい、ですか。確か最新のって十五万以上するんですよね?」
「そう。五年前のアンド〇イドとは比べ物にならないくらいの」
「なら、36回の分割払いしてないで現金一括で支払ってから自慢しろよ。下らないな」
場の空気が凍った。
「……は?」
どうやら普通に図星のようだ。親が現金一括ではないところを見ると、かなりの裕福家庭というわけではないのだろう。
突然の暴言に理解が追い付かず、かりなとアユナは固まっている。奏介は冷たい視線を向けていた。
「は? じゃないんだよ。どうせパパとママが三年かけて機種代支払うんだろ? それ借金だから。ちなみに七海先輩って機種代は」
「あ、三年くらい前に払い終わってますね」
「だってさ。金返し終わってからデカい口きけよ。自分で支払いできないくせに」
かりなは顔を赤くして行く。
「な、な、なっ」
「大体アンドロ〇ドだ、ア〇フォンだって、どっちも最先端の技術を結集してるんだから、高性能に決まってるだろ。使いやすい方使えばいいじゃん。ていうか、どうせアン〇ロイド使ったことないんだろ? それだけ馬鹿にしてるんならさ。使ったこともないのに何が分かるんだよ。二台持ちで一年間使って比べてから出直して来い」
「っ!」
やはり、スマホを手にした瞬間からアイ〇ォンユーザーの
ようだ。
(全部図星かよ。分かりやすいな)
「ふざけないでよ!」
アユナが鬼の形相だった。
「分割支払いなんて今時普通でしょ!? あんたはどうなのよ」
「ああ、俺も二年で分割払いしてるけど」
「はあ? 自分も分割してるくせにそんな偉そうなのよ」
睨んでくるかりな。
「言ってること矛盾してるじゃない。さっきから言いたい放題、頭おかしいんじゃない?」
奏介はため息を一つ。
「七海さんに対してダサいだの、恥ずかしいだの、暴言吐いてただろ。そんな偉そうに言う癖に支払い終わってないとかありえねえって話。人を馬鹿にできるほどの立場じゃないだろ。自慢するだけなら普通だし、分割払いするのも普通。暴言吐くのは普通か? 俺はムカつくんだけど?」
「ぐっ」
言い返せず。
「ていうかさ。なんで七海さんのスマホにあんたらがギャアギャア口を出してんの? 七海さんのスマホ代金を支払うから変えろってことか? どうせできねえだろ。他人のことに首突っ込んでんじゃねえよ。七海さんの勝手だろ」
「菅谷君!」
七海が慌てた様子で奏介の服を掴む。
「駄目ですよ。本当のことを言っちゃ。支払いが終わってないとは言え、クソ高い電話を持っただけであんなに喜んでるんですよ? 絶対、すべての機能を使いこなせてはいないとは言え、現金一括なんて無理に決まってるじゃないですか。可哀そうですよ。暴言もちっちゃい子のわがままみたいなものなんです。泣いちゃったらどうするんですか」
「でも、七海さん」
アサミは顔を引きつらせ、顔を真っ赤にしているかりな達に両手を合わせる。
「すみません、気にしないで下さい! 菅谷君、ちょっとこっちに」
七海に連れられて、その場を離れる。角を曲がり、小走りになる。
「よっしゃあ! ざまあみろです!」
ぎゅっと拳を握るアサミに奏介は苦笑い。
「先輩、全力で煽りますね……」
「ふふふ。ありがとうございました。すっきりです」
これにて、相談は一件落着のようだ。
次回からシリーズ再開します!




