何を考えているか分からない同級生の友人に反抗してみた4
五津はごくりと息を飲んだ。目を離さずに、札を戻す。
「あーいや。わりぃ。カバンから財布が落ちたから。で、たまたま開いちゃって札がこぼれたから戻してたんだ」
とっさに口から出たのは尤もらしい言い訳だった。
「……」
奏介は無言で前の画面に向き直った。ほっと胸を撫でおろす。
「嘘言いなれてるな? 常習犯か」
「!」
こちらを見ずにそう言ってきた。
「いや、だから」
「良いよなぁ。クラス中の嫌われ者に押し付ければ、自分の犯罪行為を隠せるし。4年の時、檜森の財布にはいくら入ってたんだ?」
「……は、はは。いつの話してるんだよ」
思い当たる記憶はあったものの、今更それがなんだというのだろう。
「四年の時だって言ってんだろ。思いだせないって? 記憶力終わってんな。てか、数年前の記憶さえ思いだせないくらい頭悪いのに、よく高校に入学できたよな。どうせカンニングだろ? そこまでしないと合格できないとか、マジで可哀そうだわ。授業についていけないなら、金の無駄だからさっさと退学して、働けよ。金に困ってるなら尚更な。どうせ同級生の財布から昼飯代抜いてるんだろ? クソ迷惑じゃん。消えろよクズ」
「なっ」
席を立ちかけたが、ぐっと堪えた。過去や現在、未来までもまとめて一度に馬鹿にされて、さすがにイライラっときた。
『オレの何を知ってるんだ?』と。
「この陰キャ野郎が。あんま調子に乗ってっと、仲良くしてやらないぜ? オレ、友達多いからさ」
脅しだ。しかし、友人というか悪友が多いのも事実だ。ムカついた奴を何人か囲んで金を出させたことがあった。
「へえ? 何が言いたいんだよ? こっちは仲良くするつもりなんて一ミリもねえんだよ。てかお前の友達? 犯罪者と貧乏人の集まりか? 皆でムカつくやつを囲んで金出させてるんだろ? はは、低レベルすぎて逆に感心するわ」
もちろん、図星。
(こいつ)
脅しにビビるかと思えば、全力で煽ってくる。頭に来た。
「なめた口きいてんじゃねえよ。同窓会の時も想ったけど、なんでそんなに自信ついたんだよ? マジでそういうのイタイわ。イキリ過ぎて笑う」
奏介が冷たい視線を送ってくる。
「盗みの濡れ衣を着せた相手によくイキリなんて言えるよな」
「てかさ、それって証拠あるのか? 勝手に決めてるけど、証拠ないんだろ」
黙る奏介に、五津は鼻を鳴らした。
「イキリ散らした挙句、決めつけかよ。あれはお前がやったんだろ。オレに濡れ衣着せて来てんのはお前じゃんか。クラスの奴らも、口そろえて言うと思うぜ? 謝罪しろよ。盗人野郎」
煽り返してやった。
すると奏介は、
「謝罪? 証拠は?」
呆れ顔でそう言った。さらっと返されて思わず黙る。
「クラスの奴らが証人だ。お前と違って、クラスの……オレらは仲間だからな」
「ふーん。まあ、確かに過去のことだし、この場で答えはでないか。とりあえず、今俺の財布から札を抜こうとしたことを謝罪しろよ」
「っ! だから、落ちたから拾っただけだっつってんのに」
奏介は親指でカバンを示した。
「……あ……?」
よく見ると、カバンの中にスマホが入っていて、レンズがこちらを向いていた。赤いランプが光り、録画中であることが分かった。
「カメラ確認すれば、本当かどうか分かるな?」
「っ!」
どうやら、罠だったらしい。
(くそ、こいつ)
ただイキっているだけではなく、随分前から罠を張っていたらしい。
(どうする。どう)
と、映画中にがっつり会話をしていたせいか、スーツの男性が声をかけてきた。
「お客様、どうかされましたか? 上映中ですので」
どうやら見回り中のスタッフらしい。
そこで五津が閃いた。
「こいつ、映画を盗撮してます!」
「!」
スタッフが険しい顔になる。
「まず、外へ行きましょう」
眠りこけている轟を置いて、シアターの外へ。
スタッフを交えて奏介、五津と三人で向かい合う。
「こいつがカバンにスマホを仕込んでいたので、注意してたんすよ!」
五津が奏介を指さして言う。
「……」
スタッフが黙っている奏介を見る。奏介はこほんと咳払い。
「最初に伝えてた通り、こいつが財布を盗んだ証拠画像を撮りました。警察に連絡してもらえますか?」
奏介がカバンの中のスマホをスタッフへ手渡す。するとスタッフが神妙な面持ちで頷いた。
「本当だったんですね……。わかりました確認します」
そのスタッフは立ち去った。
奏介とスタッフのスムーズなやり取りに、五津はぽかんとしてしまう。他のスタッフ達が集まってくる気配にざわざわした。
「甘いよなぁ」
「……え」
奏介はふっと笑った。
「シアター内にカメラを持ち込んで録画するなんて無断でやることじゃないだろ?」
「え」
と、先ほどのスタッフと一緒にかっちりしたスーツの中年男性が歩み寄ってきた。
「館長の岩井です。確認しました。君はスタッフルームに来てもらえるかな?」
五津を見る。
「な、なんで」
「シアターに入る前に俺がお願いしたから」
「……は?」
「財布盗まれそうだから、証拠を取りたいのでカメラ回したいですって。そしたら、館長さんがスマホを貸してくれたんだよ」
ようやく気付いた。彼の意図に。想像よりずっと、用意周到だったのだ。
次話ですが、シリーズが長いので一度、箸休め目的で関係ない短編を挟みます。タイトルで分かるようにしますのでよろしくお願いします。




