何を考えているか分からない同級生の友人に反抗してみた3
奏介はカラオケ店から出た。轟と五津と共に、映画館に向かうことに。良い時間に人気の映画がいくつか上映されているらしい。
「ネットで席予約してまとめて払うわ。二人とも、金ぴったりある?」
轟が言う。
「ああ、俺はあるよ」
奏介は財布を確認してそう言う。
と、隣の五津が申し訳なさそうに挙手する。
「わりぃ、今ねえわ。バイト代来週入るから、頼めねえか?」
五津は手を合わせながら奏介の顔を見る。
「……ああ、いいよ」
今日は割引デーだ。かなり安いしさらに学生割引きも利く。
(わざわざ俺に出させなくても、轟に頼んで後で返せばいいだろ)
不自然な流れに不信感しかないが、とりあえず乗っておくことにした。
「さんきゅ! てか、菅谷ってめっちゃ話分かるな」
「ああ、話しやすいし、なんか小学生の頃から変わったね」
五津と轟が言う。
「そう? まあ、あの頃は子供だったしね」
奏介は笑顔を浮かべる。
「だよな! 超ガキで皆頭ふわふわしてたってか」
「それ、小学生ディスってるって」
端から見れば、友人として三人は良い雰囲気だ。
(てめぇらは今も頭ふわふわしてんだろ。超ガキは今も進行形だろうが)
笑顔が引きつらないよう、奏介は歯を食いしばった。
〇
五津は前を歩く奏介と笑顔で話しかける轟を見ながら歩いていた。
(んー。なんかつまんねえんだよなぁ)
皆で奏介をからかっていた時は毎日学校へ行くのが楽しかったものだ。今の彼は本当に普通だ。からかっても面白くなさそうで。
(んー……)
ふと見ると奏介のカバンがほんの少し開いていて、中に彼の財布が見える。
「……」
五津は、なんとなく心の中で呟いた。
(なんかおもしれぇこと、ねえかなー)
●
数年前。
小学校四年生の夏だった。
プール授業後、クラスメートだった檜森リリスの財布がなくなった。泣きだすリリス、友人の女子達が一丸になって、犯人を捜し始め、教室内は騒然となった。
そんな様子は見ながら、五津は考えていた。自分が盗んだ財布をどうやってバレずに彼女へ戻すか。
そこで思いついたのだ。
「なあ、そいつじゃね? 犯人」
仕込みをした後、すぐに教室の隅で体を縮こませている奏介を指でさした。
全員の視線がクラスの嫌われ者へ向く。
「……もしかして、この前の仕返しですか? 最低です」
リリスが怒りを露わにして奏介を見る。
「え、え? し、知らないよっ」
奏介は慌てて、否定する。すでに涙目だ。
一瞬で奏介へ敵意が向く。
五津は奏介のロッカーを指でさした。
「正直、怪しいと思ったんだよな」
皆の前でロッカーを開けると、畳まれた体操服の上に可愛らしい柄の財布がちょこんと置かれていた。
「ああ、やーっぱり」
大げさに言って見る。
「そ、そんなっ、知らないよ」
立ち上がった奏介にリリスが近づく。
「本当に最低ですっ」
余程腹が立ったのか、彼の頬にビンタが飛んだ。
同情するものはいない。先生に伝えられ、かなり長い時間説教をされたようだ。最後に皆の前で謝罪。
皆、ちょろいし、奏介の嫌われ具合に笑ってしまったエピソードだった。
〇
現在。映画館に着いた。
定番のポップコーンと飲み物を購入し、大きなシアター席につく。
奏介、五津、轟の並びで腰を下ろした。時間がギリギリだったので、すぐに暗くなり、映画の上映が始まる。
約二時間のアニメ映画、ふと気づくと轟と奏介が寝ているのに気が付いた。
(お、マジか。チャーンス)
足元に置かれている奏介のカバンはファスナーが少しだけ開いていた。
(抜いとくか)
するりと財布をカバンから引っ張り出し、札入れの中を覗く。
(こいつ、めちゃめちゃ金持ってんじゃん。こりゃ二枚くらい抜いても分からねえんじゃね?)
二千円を取り出したところで視線を感じた。
はっとして横を見る。
奏介が凍てつくような目でこちらを見ていた。
「あ」
「何してんだ? てめえは」
ドスのきいた声が五津の耳に重く響いた。




