何を考えているか分からない同級生の友人に反抗してみた2
奏介は懐から出した写真をひらひらと振り、箱根の前へ突き出した。
「これ、お前じゃね?」
そこに映っていたのは、ゲームセンターの物陰で、膝をついた制服姿の高校生に蹴りを入れている石田や箱根数人が映っていた。
「……!」
石田が逮捕されたと聞いた時、自分が関わっていたことがバレないようにと願っていた。時間が経ち、ようやく安心出来てきたのに。
「な、なんでそんなもの」
「信じられないかもしれないけど、俺にも友達がいるんだよ。頼んだらすぐにファイルを送ってくれてさ。まあ、石田クンのお友達は全員自分で調べてたから、知ってるんだけどな」
箱根は息を飲み込んだ。
「じょ、冗談きついって。てか、警察に告発? とかするつもり?」
声が震えた。親や学校にも影響することだ。
「告発? そんなことしなくてもその内捕まるんじゃね? 被害者の保護者から被害届出てるし。とはいえ、俺に警察にチクられたくないんだろ?」
「っ……!」
それは当然だ。
奏介はひらひらと写真を振っている。
「どうなんだ? 人に物を頼む時はどう言うんだよ」
ぞわぞわした。あの日、四年生の教室で泣きながら逃げて行く彼の後ろ姿を皆で笑った。退屈な学校生活、退屈を紛らわすためのただのオモチャ。同窓会での変貌ぶりには面食らったが、ただのイキリだと思っていた。
(なんだよ、こいつ……)
イキリなんかではない。箱根を追い詰めるために入念に準備をしてここにいるのだ。
震えながら、うつむく。
「け、警察には言わないで、ほしい」
その内捕まるかは分からないが、彼に告発されたらアウトだ。
「言わないでほしいならしっかり頭下げろ」
拳を握りしめ、頭を出来る限り下げる。
「言わないでください、お願いします」
奏介は鼻を鳴らす。
「だっさ。お前さあ、もうちょっと考えて行動したら? 公共の場でこんなことしてたら怒られるに決まってんじゃん? 絶望的に頭が悪いな」
奏介は写真で箱根の頭をぺしぺしと叩く。
(こ、このっ)
怒りが込み上げてくる。あの時は泣いていたくせに、と。
「ん? 何震えてんの? 文句あるなら言って見ろよ」
箱根は顔を上げた。
「あのさ、いくら小学生のころ色々あったからって、皆を脅したりしてるんだよね? それってかつあげと変わらなくない? 脅迫は犯罪だし、上嶺に対しても犯罪まがいの嫌がらせしてたよね? いじめの復讐とかって正当化してるけど」
「俺、いじめの復讐なんかしてないけど」
「……は?」
奏介は箱根に冷たい視線を送る。
「上嶺が俺に嫌がらせしてきたから、相手してやっただけ。見てただろ、同窓会に呼んで笑い者にしようとしてたじゃん。ムカついたからやり返したの。他のやつに関しても、嫌がらせして来たから、倍で返してんだよ。それをいじめの復讐とか」
奏介はため息を吐いた。
「こっちは迷惑してるんだよ。小四の時に楽しかったから、またいじめてやろうっていう奴が絡んでくるからさ」
「だったら、なんでこんなことするんだよ! 僕はお前に何もしてないだろ!」
「別に仲良くないのに呼び出して遊ぼうとか言われたから、イラっとしたんだよな。何考えてんの? 怪我させられた上に謝罪を強要された野郎と友達になんかなれるわけないだろ」
「そ、それは、と、轟に強引に」
「は? 嫌だったら断れよ。風邪引いた、インフルエンザになった、腹が痛い、頭痛がする、親戚に不幸があった、いくらでも断れるじゃん。それをしないで、のこのこ俺の前に現れた時点で、全力で煽ってんだろ」
「ち、違っ」
「とりあえず、これバラされたくなかったら、今すぐ帰れよ。轟とは一対一で話をつけたいからさ。でも、かつあげの事実は消せないぞ」
「……っ」
奏介はうつむく箱根に顔を近づけた。
「聞いてんのか? ああん?」
「わ、わかった。だから、かつあげのことは、い、言わないで下さい」
「ふん、まあ良いか。さっさと行け」
箱根はトイレを飛び出して行った。
(さて、五津の番だ)
〇
轟がマイクを握ってサビの部分を熱唱していると、いきなり箱根が部屋へ入って来た。
「……ん? どうした?」
「わ、悪いけど、帰る」
震える声で言う箱根。
「なんでだよ。この後」
「腹が痛くなってさ。トイレにこもりそうってか。家帰らないとヤバそうだから」
「か、顔色ヤバいぞ」
五津が引き気味に言う。
「じゃ、じゃあね。また」
カバンを持って、そのまま出て行ってしまった。
「ガチで漏れそうなんだろうな」
「あ、ああ」
それからすぐに奏介が戻って来た。
「箱根、体調悪そうだったね。大丈夫かな?」
そう言って、奏介はソファに座った。
(まぁあいつ、この後はただじゃ済まないけどな)
箱根の末路は後々分かります。




